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9話目 狩り

 リナーの両親は狩人で、自身もよく森で狩りをするらしい。だからだろう、鬱蒼うっそうとした森でも迷わず進んでいく。


「やるな」

「恐縮っす」


 最短でノーザランド領を抜け、ウエストベイシン領へ。


「なんでわざわざノーザランド領で依頼したんだ?」

「ウエストベイシンのギルドは依頼を受けてくれなくて」

「苦労したのね」


 こんな年端もいかない子どもが。……ん? そもそもなんでこんな子どもが冒険者ギルドにドラゴン退治の依頼なんてするんだ?


「なあ、ここの領主はどうした? ドラゴンが出たんならそれを退治するのは領主の仕事だろ?」

「村は領主様のお屋敷から離れてるので」


 村とドラゴン討伐にかかる費用をはかりにかけ、見捨てることにしたのか。


「けしからんやつだな」


 あとで迷惑料をふんだくってやる。そう決意して先を急ぐ。が、村までは遠く、今日は森で野宿だ。


「うさぎ獲ってきました。調理するので少しお待ちを」

「おう、ありがとう」


 リナーは弓の扱いにけ、歩きながら携行する小弓で狩りをする。それだけにとどまらず、


「ハンモック作りました。下にセレニアの葉を敷いたんで虫も寄ってこないはずです」

「うん、ありがと」


 薬草の知識もある。ご両親の教育の賜物たまものだろう。


「見張りはボクがします。安心して休んでください」

「ん」


 なんだろう。いたれり尽くせりだけど、このままじゃ人としてダメになりそうな気がする。


「見張りは交代でやろうよ」

「大丈夫です。ボクは狩人なので、これくらい慣れっこっす」


 リナーは頑として譲らない。お礼のつもりなのかな?


「リナーはすごいな」

「恐縮っす」


 えへへと、はにかむリナーからはどことなく妖しい色香がただよう。ボーイッシュな見た目、ぷにぷにの頬、無邪気に照れる姿はまだ子どもなのに、ときおりみせる寂しそうな顔が心をぎゅっとさせるのだ。思わず抱きしめたくなるが、ある疑問が俺を踏みとどまらせていた。


(こいつ、男なのか女なのか)


 いまさらきづらい。「お前、女なのか。へ~」とか「あ、男なんだ。ふ~ん」とか。


(どっちにしても気持ち悪いよな)


 そもそも弱味をにぎっているような状態だし、変なこと言って、あんなことやこんなことにでもなったりしたら。


(……なに考えてんだ俺は)


 どうやら女っ気がなさすぎて頭がおかしくなっちまったようだ。


(男子校あるあるみたいだな)


 頬を張って気合を入れ、明日に備えて早めに眠りにつくのだった。



 村に着いたのは町を出てから三日後のこと。


「ジェイ、お水飲みますか?」

「ジェイ、お腹空いてないですか?」

「ジェイ、疲れてませんか。ボク、マッサージするっす!」


 実にくるしゅうない、快適な旅だった。


「いいところだな」


 森の奥深く、川べりにひっそりとひらかれた小さな村。ログハウスが並び、ところどころ動物の革が干してある。

 たき火の前で弓を手入れする男女を見つけるとリナーは元気に駆け出し、


「父上~、母上~!」

「リナー!?」


 飛びついた。親子、感動の再会。


(ああ、俺もあったな)


 こっちは八年ぶりだったけど、きっと変わらないほど嬉しいはずだ。が、


「どうして戻ってきたんだ!」


 父親は怒っている。


「町で暮らせって言っただろう」

「でも、ボクの家はここしか……」

「バカ!」


 父親はそっとリナーを抱きしめ、


「父さんや母さんと違ってお前はまだ若い。どこでだってやっていけるさ」


 涙を流した。


「父上、安心してください。ドラゴンをやっつけてくれる冒険者様をお連れしたんです」


 ほら、と紹介されたもののいるのは俺ひとり。おじさんは可哀相なものを見る目で、


「リナーのわがままをいてもらってすまない。だが、この村は大丈夫だ」


 帰れ、と言外に断ってきた。


(まあ、そうだよな)


 無理からぬ反応だ。会話から察するに、リナーが報酬として用意した銀貨は本来、町で暮らすための生活費として渡されたものだったのだろう。

 ただ俺は退かない。


「大丈夫なもんか。こんな子どもをひとりにしといて」

「君になにがわかるっていうんだ」

「わかるさ」


 リナーに同じ思いはさせたくない。


「親子が離れ離れになる辛さは俺にもわかる。まかせろ。なんとかするから」

「まかせろって、いったい君は何者なんだ?」


 賢者は廃業した。いまは、


「剣聖さ! 腕を疑うのならかかってこい。実力のほどを教えてやるぜ」


 こぶしでな。ホントかっこつかないぜ。と、


「ドラゴンだ! 逃げろ!」


 なんてタイミングの良い。というより、おそらく毎日やってくるのだろう。人を食べるために。


「ちょうどいい。俺の力を証明してやる。おっさんはリナーを連れて隠れていろ」

「まさか戦う気か?!」

「そのために来た!」


 大空を舞う黒い影。太古の昔より定められた食物連鎖の頂点。


「ドラゴン狩りじゃぁぁああ!」


 相手に不足なし。まずは雄たけびをあげ注意を引くよう仕向ける。が、ドラゴンは俺に恐れをなしたのか、逃げる村人に的を定めた。


「うわあ、こっち来たぞ!」


 村人は矢を射かけ抵抗するが、鼻息ひとつで弾き返される。

 ドラゴンは村人らの逃げる先に回り込んで追い詰めていき、


「おい、ブレス来るぞ!」


 数人がひと塊になったところで大きく息を吸い、火炎のブレスを浴びせる。ブレスは鉄をも溶かす超高温。まともに受ければ人間なんてひとたまりもない。


「な、なんだ。どうなっている?」


 だが、俺の魔法ならふせげる。

 地面を隆起りゅうきさせて壁を作り、炎を遮断した。


「いまのうちに遠くへ」

「すまない」


 まずは村人の退避が優先だ。


(とはいえ数が多いなあ)


 狩人の村だけあって犠牲を最小に抑えられるよう村人全員があえてバラバラに逃げているが、


(これは骨が折れるな)


 こっちからしたら守りにくいことこの上ない。周囲は森で、燃え移った火や煙からも村人を守らなければならないとなれば、どうしても魔力を消耗する。


(全然訓練してないから、魔力量はほとんどあがってないし)


 筋トレばっかりやってたから魔力は七歳のままだ。


(前世だったらドラゴン自体を壁で囲って捕まえちゃうのに)

 

 なげいても仕方ない。いまできることをやろう。手ごろな岩を持ち上げて、


「ふん!」


 ドラゴンに投げつけた。が、ひらりとかわされる。


「むう」


 力はあっても的に当てる技術がない。はるか上空を不規則に飛び回るドラゴンに当てるのは至難。しかし威嚇にはなるようで、


「おら、こっちだドラゴン!」


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、わけにはいかないがイラつかせるには十分。


「お、やる気になったか?」


 ドラゴンは俺に狙いを変えた。ブレスを、


「どうした! そんなんじゃ日本の夏のが暑いぞ」


 しっかり魔法で防御する。さてここからどうするか。


(問題はどうやって攻撃を当てるかだよな)


 ドラゴンは俺が丸腰なのを見てか、近寄ってこない。


(このままじゃ、じり貧だな)


 ブレスだって無限に撃てるわけじゃないんだろうけど、俺の魔力はもう底を突きかけている。と、


「ジェイ!」


 横合いから飛んできた矢がドラゴンの目元を過ぎる。ドラゴンの視線は、


「待て!」


 射手のほうへ。そこにいたのは、


「リナー、どうして?!」


 恐怖に体を震わせながらも、弓を構えるリナー。

 リナーはドラゴンがブレスを撃とうと口を大きく開けた瞬間を見計らって、


「これでも喰らうっす!」


 矢を射かけた。

 口に飛びこんだ矢がのどに刺さったのか、ドラゴンは咳き込みながら長い首を左右に振る。


「矢ならいくらでも食らわせるっすよ」


 怒り狂ったドラゴンは上空高く舞い上がって、急降下。ありを踏みつぶすようにリナーへ襲い掛かる。


「ジェイ、いまです!」

「まかせろ!」


 俺は深く腰を落とし、スクワットで鍛えたバネを使って横っ飛びに、


流星拳りゅうせいけん!」


 彗星すいせいと化してドラゴンを撃ち墜とした。

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