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8話目 出会い

 俺はエレナとともに、ノーザンランド伯の有する城下町を訪ねた。


「では、ごきげんよう」

「おう」


 目的は旅の装備の調達。エレナと別れ、市場へ向かう。

 さすがはノーザンランド辺境伯のお膝元といったところか。いちは活況をていしている。めずらしい髪の色や目の色、行商人や旅芸人。村では見ない恰好をした人も多い。


(にぎわっているな)


 前世は王宮勤めだったから、こうした町の喧騒けんそうにどこか懐かしさを覚える。


(かれこれ十五年か)


 といってもほとんど城の研究室ラボこもっていたから、特になにもないんだけど。

 と、隣を同い年くらいの若い女性が通り過ぎた。


「思い返せばなんて女っ気のない人生なんだろう」


 研究室ラボの次は山籠もり。これじゃあなんのために転生したかわからないな。


「いやいや、俺には魔王がいるから!」


 気を取り直し、雑貨屋を探す。まずは食料と水を詰め込むためのかばんが欲しい。

 目抜き通りには露店が並ぶ。主に食料品を取り扱う店が多い。果物、穀物、魚。肉屋の横を抜け、雑貨屋の看板をかかげた店の戸を開ける。


「いらっしゃい」


 薄暗い店内。決して広くない売り場には白聖石の剣、火蛇鱗の鎧、化石樹の盾など、冒険者向けの装備が所狭しと並んでいる。


「高くない?」

「魔族の侵攻以降、物価は右肩あがりでさ」


 母が持たせてくれた路銀は多くない。でも貧しい我が家に出せる精いっぱいのお金だ。


(大事にしないと)


 なるべく安い年季の入ったボンサック(※サンドバッグみたいなのをひもで縛るバッグ)を買い、店を移動して日持ちする食料を買い込んでいく。


(こんなことなら魔族討伐の報酬をもっとエレナにせびるんだった)


 ついカッコつけて「あの程度の小物なら、これで十分だ」なんて言っちゃうんだもんなあ。


(悲しい男のさがよ)


 いい女にはいい顔したい。何度転生しようとも、男である限りこればっかりは止められないようだ。


 買い物が終わるころには夕暮れ。いかにも治安の悪そうな路地裏の安宿で部屋を借り、タルの上に板を渡したベッドで横になり、今後の計画を練る。


(とにかく金がいる)


 食料や消耗品の買い出しもそうだし、通行料など税を徴収する都市もあるだろう。海を渡るとなれば船賃もいる。


「はぁ~」


 前世は稼ぎまくっていただけに、いまさらちまちま稼ぐ気にはなれない。そう思った俺は、


「しゃーない。一発当てるか」


 一獲千金を夢見る者の巣窟そうくつ、冒険者ギルドで仕事をつのることにした。



 翌朝。さっそく冒険者ギルド、ノーザランド支部を訪ねた。


「たのも~」


 ドアを開けると、


「……なんだテメェ」


 薄暗い室内にたむろするならず者連中が一斉にこちらをにらむ。


(怖え~)


 これ、現実世界でいったら職安どころか、闇バイトの斡旋所あっせんじょだろ。不良の吹き溜まりだな。

 なるべく目を合わせないように受付へ。


「ようこそ。こちらは初めてですか?」

「はい。仕事が欲しくて」


 良かった。受付の人は普通まともだ。


「ではまず登録をお願いします。読み書きはできますか?」

「あ、はい」


 手渡された書類に目を通す。公序良俗こうじょりょうぞくに反するおこないをしない、業務で得た知識を悪用しない、依頼を誠実にこなす……。


(うん。普通だな)


 手早くサインして返す。


「登録ありがとうございます。簡単にですがギルドのルールを説明しますね」


 受付に連れられて、依頼書の貼ってあるボードへ。


「依頼には等級ランクがあり、各冒険者の等級ランクより高いものはお受けできないようになっています」


 信用のないやつに重要な仕事はまかせないってことか。


等級ランクをあげるには実績が必要です。地道にコツコツ依頼をこなしましょう。高い等級ランクになるにつれ危険なものが増えますが、報酬も高くなるので、ぜひ頑張ってください」


 う~ん。元賢者だから最上級にしてほしいけど、


「俺は何級ですか?」

「ルーキーです」


 まあ、そうだよね。


「ルーキークラスはまず仕事に慣れてもらうため、モンスター討伐ではなく町の人々の手伝いをお願いしています。たとえば壁の補修とか、麦の収穫なんかですね」


 ルーキー用の依頼書を手に取ると、安い金額が載っている。


(これじゃあ、その日の生活費で消えてしまうな)


 どうしたもんか。説明が終わり依頼ボードの前で頭を抱える。と、


(ん?)


 すみっこでみすぼらしい恰好をした少年? 少女? がいまにも泣きそうな顔でうつむいているのに気づいた。


「どうした?」


 声をかけると、パッと顔をあげ、


「お願いします! ボクの、ボクの依頼を受けて欲しい、です!」


 すがるように服をつかんできた。


「どの依頼だ?」

「これっす!」

「どれどれ」


 ボードの前、示された依頼書には、


『ドラゴン討伐。村のみんなを助けてほしいっす。報酬は銀貨三十枚。冒険者ギルド注 金等級以上の冒険者パーティ求ム』


 ドラゴン討伐!? ってか銀貨三十枚って。


(安すぎる)


 相場の三十分の一以下。庶民からすれば大金だけど、傭兵をやとったり、兵器をそろえたり、計画を立てたり。そうした大掛かりな準備をして、二、三カ月かけておこなうのがドラゴン討伐なのだ。この程度の報酬じゃ誰もけ負わないだろう。


「お願いしますっ!」


 ぺこり、頭を下げられた。


(普通なら即お断りするんだけど)


 俺よりも若いであろう子どもに、ボロボロの服で、ボサボサの頭で、恥も外聞がいぶんもなく故郷の村のために頭を下げて頼み込まれるとなあ。


(それに)


 ならず者どもがその子をこれみよがしわらうばかりか、


「まだいたのかガキ。そんなはした金で誰がドラゴン討伐なんてやるかっての」

「そこら辺で体でも売って、金稼いで来い! 銀貨千枚もありゃ請けてやるよ。十年もすりゃ届くかもしんねーぞ」


 汚い野次やじまで飛ばす始末。


「やる」


 俺が言うと、その子は顔をあげ、涙をめた目を向ける。


「ほんとですか!」

「男に二言はない」


 こちとら元賢者様やぞ。まかせとけ。


「おいおい、死にたいのか? バカなのか??」

「てめーみたいなイキったガキを見るとイラつくんだよなあ! 調子乗ってっと――」


 カス共を十秒で黙らせ、


「行こうか」

「おまちくださいっ!」


 出ようとすると、受付の人があわてた様子で止めにきた。


「あの、その依頼は金等級以上の冒険者でないとダメなんです」

「じゃ、俺、冒険者辞めます。個人で依頼を受けるんなら問題ないでしょ?」

「ダメです! それはギルドがけた依頼なんです! 勝手に盗らないでください」

「でも、どうせ誰もやらないでしょ?」

「それはそうですけど、危ないんです! 死んじゃいますよ」


 真剣な眼差し。


(ああ、この人は俺を疑っているのか)


 依頼者をだまして報酬を奪うつもりじゃないか、若者が無茶をして死んでしまうんじゃないか、心配しているんだな。


「大丈夫です。俺の腕はこの町の領主様が保証してくれますよ」

「えっ」

「まっ、無理だと思ったら逃げ帰ってきます」


 どうせ賢者の生まれ変わりだと言っても信じてもらえないだろう。なかば強引に押し切り、ドラゴン討伐を引き受けた。

 もちろん、ただ義侠心ぎきょうしんに駆られたからではない。


(なんてったってドラゴンの素材は高く売れるからな)


 報酬以上の金になる。さらにドラゴンをひとりで討伐したとなれば名声も手に入る。そうなれば、今後仕事に困ることはなくなるだろう。


「そういえば君、名前は?」

「ボクはリナーっす」

「俺はジェイ、よろしくな!」


 なにより人助けは気持ちいいのだ!

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