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46話目 決戦

 開戦は日の出とともに。人間側の進撃で始まった。

 意気軒高いきけんこうな兵たちは白い雪原を踏みにじり、真新しい軍靴は泥にまみれていく。立ちはだかる魔王軍が矢や火の魔法を雨あられと降らすも、盾と術とをもって防ぎ勇敢に突き進んでいく。


 魔王陣営。黒馬ナイトメアにまたがった魔王は自ら陣頭に立ち、


「死出の山を登る亡者がおるのう。ひとつ黄泉路よみじを案内(つかまつ)ろうや」


 大蛇を放って迎え撃つ。蛇は灼熱の炎に覆われた体で大地をのたうち、押し寄せる人間軍を蹴散らさんとうなりをあげた。

 迎え撃つはローザ。


「開けよ異界の門。吹けよ冥府の風。悪しき魔を連れ去りあるべき場所へと還せ。瘴風ミアスマ!」


 極寒の風がたちまち蛇を消し去る。

 大魔導士の後押しに兵は湧き立ち、勇んで蛇のった跡を越えてゆく。ぬかるんだ地面に無数の足跡ができた。

 魔王は二の矢を放つ。


「まずはコキュートス。我ら魔族にたて突く愚か者に極寒の責め苦を与えよう。永劫に続く氷の牢獄は、己が罪を嘆くことさら赦さぬ! 大氷湖ヘルフローズン


 その足元から放射状に冷気が走り、大地を凍らせ、兵の足を凍りつかせる。


「くっ。私の氷術を利用するとは」


 ローザは歯がみした。蛇は氷系魔法を使わせるためのおとり。冬の平野でローザ、魔王と当代きっての魔導士が氷系魔法を使えば、一帯は息することすら許さぬ極寒の地へと変わってしまう。

 兵が震えあがり進撃が鈍った。地相を戻そうにも魔王の絶対的魔力を押し返すのはローザ、いや人類には不可能である。


「我が領土をおかした罪、あがなってもらうぞ」


 魔王が右手を天にかざすと、暗雲たちのぼり冬の空でとぐろを巻いて、


雷霆サンダーストーム


 光り、雷の雨が降りそそぐ。


「防御魔法展開!」


 人類軍各隊に随行ずいこうする魔導士は自らを避雷針として防ごうとするも、並の威力ではない。空を裂き走る稲妻は防御魔法を貫いて止まらず、地面に落ちてなおも地表を走り、周囲の兵をも巻き込んで感電死させていく。

 黒焦げになる魔導士、倒れていく兵たち。あちこちで発火した人体からどす黒い煙が昇り、むせかえるような悪臭がたちこめる。


「アハハ。人族の黒焼きか! 食指が動くのう」


 魔王。魔族の頂点にして賢者亡きいま天下無双の魔法使い。その力は神話の域に達す。が、


「僕に任せて」


 魔法で及ばずとも人間側には勇者がいる。彼女が聖剣リーヴァルティを振りかざすと光の柱があらわれ、雷雲はまたたく間に晴れた。


「魔王。君の相手は僕だ」

「ほう、貴様が勇者か」


 魔王と勇者。そら燦然さんぜんと輝き、相克そうこくする宿星。天上に到る星はふたつにひとつ。が、いまはまだ決戦のときではない。


「魔王様なりません。御自ら戦うなど」


 魔王の腹心。ネオ四天王のひとり、マギアがすがりついて止めた。


「あれれ、どうしたのかな? もしかして僕が怖いのかな?」

「あのような見え透いた挑発にのってはなりません。獅子が爪や牙で狩りをするのはほかに武器を持たぬからです。虎が狩りをするのは誰も狩りをしてくれぬからです。魔王様にはいま四百万を超える臣がおります。我らしもべが爪となり牙となり、必ずあの無礼者の首をや獲って参りますので、この場はお任せください」

「ううむ」


 まだ開戦してまもない。魔王は忠言を容れて後退し、替えてマギアが前線の指揮をとる。


「ええ~、逃げちゃうの?」

「貴方のお相手は私が致しましょう」


 マギアの竪琴が奏でる旋律は魔族の潜在能力を解放し、人族の生気を奪う。


「ごめんね。僕、音楽はたしなまないんだ」


 しかし聞く耳を持たぬ勇者にはどのような調べも届かない。勇者は詰め寄って剣を振るった。



 指揮官交代後、戦況は数で勝る人間側が優勢に立った。劣勢に立つ魔族軍はまもなく後退を開始する。


「よし。我らは先回りするぞ」

「私に続いてください!」


 ローザ、エレナに率いられ、黄昏の騎士団ナイトオブフォーリングムーンはいち早く戦線を離脱し、馬を駆って敵の背後へ回り込んだ。

 しばらくして先に引き上げてきた魔王本隊に、


「目標は魔王ただひとり。雑兵にかまうな。勇者をお守りせよ」


 エレナを先頭に、一斉に襲い掛かる。


「さあ魔王、もう逃がさないよ」


 勇者は馬上、マギアの長い髪を掴んで首級しるしを振り回す。その挑発に魔王は怒髪天をいて、


「貴様、よくもわらわの臣を!」


 首を奪い返しにかかった。


「我が臣をはずかしめた無作法、万死に値する」

「え~、逃げた君が悪いんだよ?」


 骨すら残さん、と繰り出す死の魔法のことごとくを聖剣ではじき、勇者は目と鼻の先へ。


「後悔してね?」


 聖剣の一撃を魔王は魔法で受け止めたものの、


「うぬっ」


 馬が支えきれず、脚の骨が折れ背骨がくの字に、べしゃりと潰れてしまった。

 見た目にそぐわぬ恐るべき膂力りょりょく。片手でもって雷のごとく振り下ろされた剣は、惑星を砕く隕石に見紛うばかり。

 続く二の太刀から逃れ、距離をとる。と、


「魔王様!」


 親衛隊が駆け付け守りを固めた。


「新しい首だね」


 勇者はマギアの首を投げ捨て、両手で剣を構える。片手で馬を潰す怪力。両手ならどうなるか?

 さらに勇者側にも増援が駆け付け、


「すわ、魔王の首はそこです!」

「勇者を援護せよ!」


 両軍入り乱れての激闘になった。

 干戈かんかの交わる音、雄たけび、足音が雪の原野にとどろく。

 局所的に数的優位を得ている魔王軍は黄昏の騎士団ナイトオブフォーリングムーンを包囲、横合いから挟撃して足を止めようと試みるも、勇者が止まらない。

 勇者は騎士団の先頭に立ち、魔族の囲みを突破し、どこまで魔王を追っていく。


「どうして逃げるのかな?」

「おのれ……!」


 勇者を止められるのはやはり魔王ただひとり。


「貴様はここで討つ!」


 魔王はいま数の利を得ている。ここで勇者を討てぬとあらば、今後いつ勇者を倒せるというのだ。魔王の肩には臣民の命がかかっている。


「皆の者、退却せよ」

「魔王様?!」

「アレを使う」


 魔王親衛隊に緊張が走る。隊長が号令を出すやただちに散開し、散り散りに逃げ出した。


「ありゃ、観念したのかな?」

「勇者、どうする? 追うか?」

「ノンノンだよ、ローザちゃん。雑魚は無視。僕らは魔王を追うよ!」


 魔王は単身で逃げ、間合いを測って振り返る。


「ここで終わらせようぞ」


 足元に魔法陣が浮かび上がると禍々しい大砲が現れる。


「勇者よ。神をも滅す我が魔法を受けてみよ! 禁術 星壊砲スターバースト


 勇者を先頭に一列になった黄昏の騎士団ナイトオブフォーリングムーンに、大地を穿うがち星を砕く破壊光線が放たれた。

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