42話目 風雲
港町デルフィーナ。城壁の上、整列する兵士に、
「おーい」
手を振る。
「なにやつ!」
「ジェイってもんだが、魔族の軍勢はすでに退けた。中に入れてくれ」
「本当か?!」
「ああ。確認してくれ」
とは言ったものの兵士たちは互いに顔を見合わせ動こうとしない。
(あれ? 俺、信用ない?)
気まずい沈黙が流れる中、
「こいつが言っていることは本当だ」
「あ、あなた方は!?」
遅れてきた三バカが口添えする。
(まあ、剣聖の俺が言ってもアレなんだからこいつらが言ったところで……)
「ソードマスターズ様!」
「おお、暁の騎士団のソードマスターズ様が魔族を撃退なされたぞ」
「さすが人類最強の剣」
「ありがたや~」
「早く門をお開けしろ」
重厚な鉄柵門が開いていく。整列した兵士たちが出迎え、音楽ギルドが演奏を始める。
「お~、偉大なる三剣士~。人類に残された~希望の光よ~」
ナニコレ。戦ったの俺なんですけど。と、兵士の間をぬってリナーが、
「師匠!」
飛び出して抱きついてきた。
「ご無事でしたか?」
「ああ。ネオ四天王のひとりが率いる軍だったが、俺の剣の敵ではなかったな」
しっかり言っておかないと。
「さすがです!」
うーん、やっぱりリナーはかわいいな。いっぱいよしよししたくなる。
「貴方、なにをしてますの?」
「あ~んダーリン。アタシも~」
遅れてモニカとユリアもやってきた。
「黄昏の流星剣とやらは手に入れたんでしょうね」
「ふっふっふ。これだ!」
鞘から抜いて見せてあげる。
「これが黄昏の流星剣……」
「いや~ん、高そ~」
「すごい気品を感じます!」
これこれ。こういうリアクションが欲しかったんだよ。これでこそ苦労した甲斐があるってもんだ。
「それで、この剣、どう使いますの?」
どう使うって、モニカも変なこと聞くなあ。
「勿論、これで敵をバッタバッタとなぎ倒すんだよ」
「? この剣に魔王の力を封じるような特別な力があるのではありませんの?」
「いや、そんな力はないと思うけど」
聞いたことない。なんだろう? 違和感があるな。前にも感じたことがあるような……。
「では、なぜ貴方はこの剣を求めてましたの?」
え? カッコイイから……じゃ、ダメだよな。
「剣聖だから」
剣聖が剣を求めてなにが悪い。マスケルみたいなこと聞くなあ。
だがモニカは首をかしげている。
「……ひとつお聞きしたいのだけど、貴方は剣を持ったときと素手のとき、どちらの方が強いのかしら?」
「は? そりゃ剣持った方が強いでしょ」
我、剣聖ぞ。剣があれば鬼に金棒だっての。
「でも素手でドラゴンを倒したのでしょう?」
「そうそうリナーの村に出たやつな」
「ボク見てたっす。拳で一撃でした!」
「懐かしいなあ」
あのときは剣の使い方を習ってなくて、結局、拳で戦ってたんだよな。
「ネオ四天王のクロノスを素手で倒したのは?」
「あー、あのときは木剣が折れてピンチだったな」
「そこから素手で勝つなんて、さすが師匠っす。ボク、師匠の活躍をいっぱい広めてるっす!」
「照るなあ///」
聖都やアンティグワで剣聖の名が知れ渡っていたのはリナーが地道に広報活動してくれたおかげだったのか。ありがてぇ。
「もしかしてけんせいのけんって剣のことでしたの?」
「ほかになにがあるの?」
「……なるほど」
モニカはうんうんひとりごちている。
「え、なに、どういうこと?」
「いえ、なんでもありませんわ。それで剣聖さまはこれからどうする予定なのかしら?」
「魔王城へゆく」
行って、告白する。
「場所をご存じですの?」
「だいたいの目星はついてる。ラウラにもそれとなく探りを入れたし」
ラウラは故郷の話とか経歴とか話を振ったら、あとは聞いてもいないのに情報をべらべらしゃべってくれた。
しゃべった中には魔王城の場所も含まれる。
(アホの子で助かったな)
なんでクロノスはあんなのを連れてたんだろう? 少なくとも取り巻き連中には好かれてなかったみたいだけど。
(結果、ひとり置いてかれてるし)
なんにせよ助かった。
「というわけで、皆、出立の準備だ」
いよいよだ。いよいよ時が来たのだ。
その頃、王都キングスフォードでは。
「諸君、いよいよ決戦の時である!」
玉座の間。列侯居並ぶ中、王が声をあげた。
「勇者殿が七つの試練を突破し、聖剣の力を我がものとされたいまこそ、魔王討伐の好機!」
王の御前では勇者が膝をついている。その傍らには聖剣リーヴァルティ。
「人類が勝利を掴み取る時が来たのだ。王国の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ!」
熱狂する騎士や廷臣ら。王は勇者に歩み寄り、
「勇者殿、お言葉をいただけますかな?」
肩に手を置いた。勇者は立ち上がり、
「魔族は皆殺しだ~。皆、協力よっろしく!」
聖剣をかかげる。
いまここに人類の命運を賭した戦いの幕が切って落とされた。




