39話目 三剣士
巨人の墓。そう呼ばれる島の正式名称はナダ島というらしい。古代遺跡がいくつかあるほかはなにもなく、火山灰の痩せた土地と激しい潮流のせいで、誰も寄り付かない無人島とのこと。
(そんな島に黄昏の流星剣が?)
疑問は尽きないが行ってみればわかることだ。舟が重くなるのを船頭が嫌がったので、今回は俺ひとりで向かうことにした。
「じゃ、行ってくる」
「師匠! いってらっしゃい」
「手ぶらでは許しませんことよ」
「あ~ん。ダーリン行かないで~」
皆に見送られながら桟橋から舟に乗り込む。船頭が「よっ」とオールで押し出し、海へ。湾を抜け大海原へと突き進む。櫂をこぐ音がガコン、チャプンと小気味良い。天気晴朗、波は穏やか。うららかな冬の日のことである。
天上に昇った日が傾くころ、
「あれだ」
船頭の指す先、空と海の狭間に島影があらわれた。ひらぺったい形状で、中央には火山がそびえ、山頂は雲に覆われている。
島に近づくと岩礁地帯があらわれる。奇岩の間を抜けると静かな浜。舟はまっすぐ浜に乗り上げた。
「ようやくか……」
縁から飛び降り、陸へ上がる。
鳥や虫の鳴き声がしない。風も吹かなければ草ひとつ生えてない。浜に寄せる波の音だけが響く、そんな寂れた場所。
「ありがとう」
「おう、気をつけて行きな」
船頭は近くの洞窟に泊まり、俺の帰りを待っていてくれるらしい。翌日の昼頃にはここを発つ手はずだ。
「急ごう」
それまでに剣を見つけなければ。
まずは古代人が残した石畳の道をたどり、島の内側へ進んだ。
夕暮れ。古代の闘技場跡に差し掛かった。崩れた観客席から中へ入ると三人の男が立っている。
「よく来たな」
「……マスケルか」
長い旅の果て――
「お待ちしていました」
「テクニカもいるのか」
俺は剣を知った。
「ずいぶん遅かったではないか」
「……誰?」
おっさんのことは知らない。初めましてだよね?
「ガハハ。我はメンデ。暁の騎士団のひとり、心のメンデだ」
「ジェイだ」
メンデ……。聞き覚えがあるな。たしかなんでも根性で解決しようとする熱血バカで、マスケルには力で劣り、テクニカには技で引けをとる凡庸な剣士だったはず。
「で、三人はこんなところでなにをしている?」
「お前を待っていた」
「なぜ?」
「黄昏の流星剣を持つに相応しい剣士か見極めるために」
三人は剣を抜く。
「ジェイ。まだ黄昏の流星剣を求めるか?」
「勿論。そのために遥々《はるばる》こんなところまで来たんだ」
「なんのために? お前は強い。なのになぜ、さらなる力を欲す?」
「無論、魔王と戦うためだ」
「お前にその覚悟があるのか?」
なんだこいつ。ここまできて説教か?
「ジェイ君。魔王を斬りたいですか?」
「……いや、斬りたくはない」
「ならば剣は不要でしょう」
くっ、わけわからん問答しやがって。いまさらだろ!
「魔王を屈させる力が欲しい。だからこそ剣がいる」
「武力で脅し、従えようと言うのですか?」
「そうだ」
「去りなさい。黄昏の流星剣は見せびらかすものではありません」
どう使おうと俺の勝手だろ! なんで口出しされなきゃいけないんだ!!
「ジェイ」
「待て、お前と話す気はない」
初対面だよな。なれなれしい。
メンデはしょんぼり悲しそうな顔をする。
「もういい、わかった。つまり剣が欲しいなら力づくで来いってことだよな」
「然り」
徒手空拳、構える。
「俺は強くなった。お前らよりもはるかに! 怪我しないうちに降参しろ」
「たしかにお前は強い。ひとりづつ相手をしていては勝負にならないだろう。だが三人同時ならどうかな?」
三人いたところで変わらないさ。見せてやる、俺の剣を!
「無刀流 流星剣」
手刀を一閃、横薙ぎに三人の胴を、
「俺は力のマスケル」
払うはずだったが、初撃を怪力マスケルに受け止められる。
「疾っ!」
ならばマスケルに防げぬ疾き技をもって迫るも、
「私は技のテクニカ」
テクニカが代わりに進み出て、巧みに剣を反らして受け流される。
「我は心のメンデ」
メンデはただ豪快に笑っている。
ってか自己紹介はさっき聞いたよ。なんなんだこいつら……。
「我ら三位一体……」
「「「ソードマスターズ!!」」」
「うるせーーーーー!!」
いったいどういうつもりだ? 変な決めポーズまでしやがって、俺をおちょくってるのか?
「ジェイよ。心が乱れているぞ」
「……少しは楽しめそうだな」
キレた。もう許さん。
「無刀流 黒洞ノ太刀」
力はマスケルに、技はテクニカに伍す。有効打を入れるにはふたつを入れ替えて両人の短所にぶつけるほかない。
夕日に染まる闘技場の赤き地を喰らう斬撃は、三人の影より来りて剣のきらめきを奪う――
「マスケル、いきますよ!」「応。来い!」
「「合技 二之太刀」」
かに思われたが、変幻自在なテクニカの剣が受け、マスケルが力で止める。
交叉する三つの剣。クソッ、機を逸した。
「隙ありッ!!」
脇からメンデがなんの工夫もない踏み込みだけいっぱしの剣を跳んでかわし、
「メンデ。いくぞ!」「合点!!」
「「合技 一心二刀」」
続くマスケルとの二刀を間一髪かわし、
「私もいますよ!」
追ってくるテクニカの突きを外す。
(こいつら)
弱点を補い合うことで力を増している。揺るぎない信頼と互いへの理解が完璧な連携をもたらし、ほんのわずかな乱れもない。
「見よ、これが我らの剣!」
「力のマスケル」
「技のテクニカ」
「心のメンデ」
「三位一体……」
「「「ソードマスターズ!!」」」
調子に乗りやがってッ!!
(落ち着け)
奴らのペースに乗せられてはダメだ。
(いかに心を通わそうと所詮は他人。連携は容易く崩れる)
両手を使うか? いや、片手ではマスケルの剛剣を止められないし、テクニカの柔剣を捌けない。攻めに転じたとてふたりに受けられ、ひとりに斬られる。
(数の不利)
いまさらそんな自明の理に敗れるのか?
(ひとりづつ削ろう。まずは)
メンデ。奴は力も技もない。
稲妻と波濤。右手に剛剣、左手に柔剣を宿し、荒れ狂う海のごとくマスケルとテクニカに斬りかかる――
「無刀流 惑星」
フリをしてさっと身をひるがえし、メンデの懐へ。
「させるか!」
追ってくるマスケルとテクニカの剣を背に受けつつも、メンデの脇を斬り抜けた。
「うぬぅ。ぬかったわ」
「まずはひとり」
横腹を掻っ捌いた。急所こそ外してやったがすぐに止血しなければ命にかかわる深手。だというのに、
「メンデ。大丈夫ですか?」
「なんのこれしき。うおぉりゃぁー!」
雄叫びひとつ上げただけでみるみる傷がふさがっていくではないか。
「お前、ホントに人間か?」
「ガッハッハ。見てのとおりだ!」
……なるほど。どうやらこいつもマスケルやテクニカと同じ。
「ジェイよ。類まれな剣の使い手よ。お主の剣を持ってしても我の心は斬れぬ!」
理の外。どいつもこいつも狂ってやがる。剣に!
「だったら今度は真っ二つにしてやる。根性ではどうにもならない、死を、与えてやるぞ」
「斬れるか? ジェイ。斬ることを怖れるお前に」
「……なんだと?」
「斬りたくないのなら剣を置け。覚悟のないやつに黄昏の流星剣を持つ資格なし!」
「言ったな!?」
散々斬ってきた。いまさらこんなおっさんひとり手にかけたところでなんだっていうんだ。
(クソッ!!)
クロノスを殺したときの記憶が蘇る。生暖かくぬるりとした血の感触。汚れた手。最期の言葉。
(クソクソクソッ!!)
ためらってはダメだ。斬る。そう思わなければ斬れない。動機が欲しい。こいつらを斬る動機が! ……剣。そう、剣を手に入れて魔王を振り向かせるんだ! だから俺は、こいつらを殺さなければならない、のか?
(落ち着け)
惑わされるな、ハッタリだ。どんな狂人であろうと腕のひとつでも斬り落とせば泣いて許しを乞うさ。そうに決まってる。
(そうでなければ困る)
腹をくくり、三人に斬りかかった。




