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32話目 古都

 無事、祭りが終わり、俺たちは旅を再開した。


「あのさあ」


 この日は俺が騎乗し、モニカとユリアは歩きだ。


「君たちは巫女候補の第一位と第二位だよ。それがあんな騒動を起こして……」


 ふたりの喧嘩により宿の調度品はめちゃくちゃ。弁償したら巫女の報酬はほとんど残らなかった。


「だってモニカが……」

「ユリアがつっかかってきたから」

「あ”、テメェのせいだろうが」

「ひとのせいになさるの?」

「ふたりとも静かに!」


 まったく。


「状況わかってる? 俺たちお金ないよね」

「それはユリアが……」

「テメェが机ぶっ壊したからだろ」

「言い訳しない!」


 ふたりは北と南にそっぽを向く。


「パーティである以上、協力しなきゃいけないのはわかるよね? 必要なのは! 巫女にどちらが相応ふさわしいか決めることじゃない。金だ。そうだね?」

「よくありませんわ! こんな女に敗れるなどクラウンスフィードの家格が」

「こんな女?! 親の七光りが偉そうに!!」


 ……もうダメだ。あとは時間が解決するのを願うしかない。


師匠ししょー! うさぎを捕まえてきました」

「リナーが一番だよ」


 もうコンテストはこりごりだ。俺はリナーと仲(むつ)まじく旅を進めた。



 古都アンティグワ。帝都として栄華を誇ったのもいまや昔。魔族がこしらえた山脈を貫く坑道から奇襲を受け失陥。のち賢者が奪還するもすっかり荒廃していた。

 現在は新たに入植してきたものらによって復興が進められている。

 

 廃墟の中、被害をまぬがれた立派な屋敷で看板を掲げて営業している冒険者ギルドがある。俺たちはそこで仕事を探すことにした。


「たのも~」


 ギルドを訪ねるのは二度目。以前はすぐ脱会したからまた登録からだな。


「あの、新規でお仕事したいんですが」

「はい。こちらで受付をお願いします」


 リナーのときみたいに割のいい仕事があればいいけど……あれ? なんで皆ついて来ないんだろう?


「どうした?」

「よろしいかしら」


 モニカが白銀の腕輪を見せてくる。


「また無駄遣いしちゃって」

「違いますわ。貴方がいない二年の間、わたくし冒険者として働いていましたの」

「へ~、そうなんだ」


 いいメシ食ってただけじゃないのね。見直したぜ。しかしお嬢様が冒険者とは。きっと浮世離れしたこと言って皆に迷惑をかけたに違いない。


「で、そのことと腕輪となにか関係あるの?」

「わたくし、ギルド最上級の白銀等級の冒険者なんですの。これはその証ですわ」

「師匠、ボクも!」


 見ればリナーも同じ腕輪をしている。ふたりとも力はあるから不思議じゃないけど、なんというか感慨深い。


(こないだまでリナーは子どもでモニカもただの学生だったんだけどな)


 皆、成長していくんだな。


「おお、やるな」

「恐縮っす」


 俺も負けていられない!


「じゃ、俺とユリアで登録してくるわ」

「ダーリン、ごめん……」


 ユリアは金の腕輪をしている。んー、これはどういうことだろう?


「金ってどれくらいすごいの?」

「白銀のひとつ下っす」


 実力があるのは認めるけど、 素行とかは評価に影響しないんですかね? もしかしてギルドのお偉いさんを脅したんじゃ……。


「それどうしたんだ?」

「勇者と一緒に旅しているときに……」


 そうだった。勇者パーティの一員としてあちこち巡ってたんだよな。だったら金くらいは当然か。


「登録するのは俺だけってわけね」


 俺ひとりルーキーなんて、ちょっと恥ずかしいな。

 ともかく登録を済ませ、


「わたくしに相応ふさわしい仕事はあるかしら?」


 モニカの名義で一番稼ぎの良い依頼を受けることにした。


「ちょうど大きな仕事がありまして……」


 どうやら街はずれにある陵墓りょうぼで魔族が目撃されたらしい。


「墓荒らしか」

「はい。埋葬品もそうですが、遺体も心配で」


 死霊術師ネクロマンサー。死者を冒涜ぼうとくする禁忌きんきの術を使用する者が魔族にはいる。先のフォボスのようなやからだ。


厄介やっかいですわね。数はどれくらいかしら?」

「十人以上と報告があります」

「それは……」


 敵地へ潜入するにしては数が多すぎる。


「モニカ。やばいかもしれないな」

「そうですわね」


 事は単なる道徳的問題にとどまらない。陵墓には貴重な魔道具が眠っていたり、現代に伝わっていない魔法が記された魔導書が収められていた例もある。古代の魔獣が封印されていて、誤って封印を解いたがために数千人の被害者を出した、なんてこともある。

 いずれにせよ放っておくことのできない事案だ。


「すぐ行こう」


 早めに対応しておくにこしたことはない。が、


「お待ちください」


 受付の人に止められた。


「この依頼はすでにアンティグワ三勇士にお願いしていて、現在はバックアップ要員をつのっているところなのです」


 アンティグワ三勇士。賢者とともに魔族からアンティグワを奪還し、その後の治安維持活動で功績のあった三人を称したものだ。


(あいつら強かったな)


 ザイヤ、ハッシュ、モルデガ。それぞれが熟練の戦士で、アンティグワ奪還戦では俺の手足となってよく働いてくれた。って、あれ?


「一番若いモルデガでも七十歳を越えるはずだが、まだ現役なのか?」

「いえ、お三方はすでに勇退され、いまは新たに信任された三名が称号をいでおります」

「そうか」


 あの三人の後継ならいい腕をしているに違いない。きっと頼りになるだろう。


「ちょうど新アンティグワ三勇士の皆さんが会議室におられますので、ご紹介しましょうか?」

「ああ頼む」


 楽しみだな。

 受付係に案内されて一階奥、両扉の会議室へ。


「失礼します。魔族捜索隊に参加希望の冒険者様をお連れしました」


 扉を開けてに入ると、チャラ男、メガネの女、金持ちのお坊ちゃんみたいなのが長机の向こうで腰かけている。


「参加希望ねえ。俺たちと吊り合う冒険者なんだろーな?」

「もちろんでございます。こちらモニカさんとリナーさん。お二方は皆さんと同じ白銀等級の冒険者です」

「へー」


 値踏みするような目を向けられたモニカは毛虫を見るような目で見返した。


(一緒に戦うんだからトラブルはダメだよ)

(わかってますわ)


「ご紹介にあずかりましたモニカ・クラウンスフィードですわ」

「おう、俺っちはデイヤ。よろしくな」

「……私はミーシュ・ザナック」

「僕はペロリコ家の御曹司おんぞうし、チコ・ド・エル・ペロリコさ。チコ様と呼んでくれたまえ」

「ごきげんよう。皆様」


 そうそう。なんでも穏便が一番。俺たちも自己紹介する。


「俺はジェイ」

「アタシはユリア」

「ボクはリナーっす」


 と、メガネの女がリナーに興味を示した。


「貴方がリナー……。弓術大会の話は聞いている。思ったより若い」

「運がよかっただけっす」


 おお謙虚。でも俺の背に隠れてないで堂々としたほうがいいぞ。


「ユリアは何等級なんだい?」


 デイヤはユリアが気になったようだ。


「うっざ、話しかけんなカス」

「おいおい、つれないねー。ユリアは金等級か。やるじゃん。でもここから白銀等級になるまでが大変なんだよなー。先輩として色々教えてあげようか?」

「話しかけんなっつってんだろうが!」

「おー怖いねー。でも、そういうの嫌いじゃないぜ。ところでジェイは……」


 デイヤが俺の腕をのぞきこみ、


「マジ? ルーキー?! ちょっとヤバくない?」


 手首をつかんでほかのふたりに見せびらかした。


「……正気?」

「君さあ、ここがどんな集まりかわかっているのかい? ここは僕たちのようなエリートが重要な会議をする場所なんだ。見世物じゃないんだよ? ああ、ひょっとして僕たちのファンかな? あとでサインしてあげるから邪魔しないでもらえるとうれしいねえ」


 デイヤの手を振りほどく。皆を集めて作戦会議だ。


(こいつら許すまじ! 慈悲はない)

(師匠。どいつから〇りますか?)

(あのチャラ男はアタシに任せてね、ダーリン)

(ちょっと。一緒に戦うのだからトラブルはダメって話でしょう?)


 モニカはため息交じりに、


「わたくしのパーティに口出し無用ですわ」


 場を収めようとした。


「おいおいモニカちゃん。メンバーはちゃんと選んだほうがいいぜ。知り合いがいないんだったら、俺っちが紹介してもいいけど?」

「……貴方、本当に白銀等級? 良いメンバーをそろえるのも仕事のうち」

「クラウンスフィードといえば音に聞こえた名門の家柄なのに、こんなのを従者につけるなんてよほど人材がいないんだね」


 あぁモニカさんの怒りゲージが溜まっていく。ただでさえ巫女選びの件で機嫌悪いのに。


(ごめん。俺がルーキーなばかりに)


 モニカにまで恥をかかせてしまった。なんとかしなきゃな。


「すみません。こないだまで王都で騎士をしていたもので、さっきギルドに登録したばかりなんですよ。まあでも、戦闘経験はそれなりにありますよ。ドラゴンだって討伐したことあるし」


 とりあえずこんなところか。嘘も方便。前世は城勤めだったし、探られてもはぐらかせる。


「ドラゴンねえ……」

「……証拠は?」

「ドラゴンくらい僕だって討伐したことあるけどね」


 とにかく顔合わせは済んだ。あとは打ち合わせだけど、


(前途多難だな)


 言いようのない不安を覚えるのだった。

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