Gänger<ゲンガー>
SVはダブルで予約しました。
今日も疲れたな。
社長の熱に浮かされて、上司の檄にうつむいて。
先輩は現実にうなされて、後輩は幻想に打ちさわぐ。
中途だから同僚はいないんだけど。それはもう慣れた。
金を稼がなきゃしょうがないし、どうしようもないよね。
帰宅前の買い出し。閉店間際のスーパーマーケット。
値引きシールが貼られたそれを手に取った。
自分の仕事は評価してほしいくせに、他人の仕事は値引きするんだねって。
なけなしの良心はうずくけど、それはもう慣れた。
別に貼ったの私じゃないし。貼るのを待ってたワケじゃない。
間が悪くレジに行列。他のも見ようか。
何の気もなく寄った菓子コーナー。目に付いたそれを手に取った。
子供の頃、夢中になったゲームのキャラ食玩。今年で25周年だってさ。
四半世紀も続いてるのか、すげーな、なんて無感動に。それはもう慣れた。
買い物カゴにひとつ入れた。あ、あのレジ空いてる。
家に帰って飯喰って、食後の珈琲はカフェインレス。明日も早いしね。
忘れかけた菓子箱を開けると、紫オバケのソフビ人形。と、キャラメル。
やぁキミか、子供の頃はお世話になったね。元気してた?
疲れたような心の声に、シニカルに笑う。それはもう慣れた。
キミは相変わらず、歯を立てて笑っていた。昔からそうだったね。
キミは子供の頃から人気者だ。だってすっごく強いんだよ?
初代の頃から、対戦ガチ勢なら必ずパーティに選んでたね。
そんな人形を横目に、キャラメルを手に取る。
夜だしな、カロリー控えたいよな。珈琲は苦いけど。それはもう慣れた。
そしてキャラメルはゴミ箱へ。
と、思って手が止まる。
一体なにをしようとしてるんだ? 食べ物を粗末にするなんて。
キミと私が重なって、雁字搦めな自分に気付くんだ。
お菓子を買ったのに、お菓子がオマケ? それに慣れた自分に嫌気が差す。
目的と手段が入れ替わって、当たり前をも見失う? なんだそれ。
どうしてこうなった? って、主人公が言うんだよ。
どうしようもないのかな? 本当にそうかな? って、私が思うんだよ。
幼稚園の頃だったら、隣の誰かが笑ってくれたらそれで良かったんだ。
形ばかり大人になると、複雑で、厄介で、ややこしくてさ。
気付けばカタチばかり見繕う、カッコワルイオトナの出来上がりさ。
世のため、人のためなんてさ。目的は、その動機は、でっかく掲げてさ。
でも疲れたでしょ? 手段は、その手間は、ちっちゃくしたいでしょ?
なのに、目的と手段が入れ替わるとかさ、それが日常だって言うんならさ。
ワケ分かんないよね、大きくすりゃいいの? 小さくすりゃいいの?
ねぇ、どうすりゃいいの?
きっとキミの名は、ドッペルゲンガーから取ったんだよね?
でも、そこで区切っちゃうと、オバケらしさはなくなるんだ。
それは(何か)する人。歩行者や医者みたいに、英語なら-erや-orに当たる言葉。
ドッペル、は英語ならダブル。二重写しのキミ。
答えは最初から、そこにあったんだ。
私はキミになりたいんだ。キミのように生きたいんだ。
自身の欲望だの他人の期待だのを巻き込んで、大きくなりすぎる目的だとか。
ただただ面倒で、なるべく何もしたくなくて、小さくなりすぎる手段とかさ。
そのふたつは、ダブルで注文して、一致させなきゃダメなんだ。
だから、私はキミになりたい。私も何か、する人に。
キミみたいに、ひとつの時代を作れたらいいね、でもそこまでは望まないよ。
ちょうどいいところを探りたいんだ。
キャラメルを口に放り込んで、すっかり冷めた珈琲を啜った。
奇跡の出逢いってほどじゃないね、でも甘みと苦みはちょうどいいよ。
こんな疲れた夜にはぴったりさ。
そして私は、キミを棚に置いたんだ。
???「大きくなる話(短編「学生ローン~」)、小さくなる話(短編「平和って~」)を上げたので、中間の丁度いい話を書いてみました」
†「で、今回もなぜオイラに報告するし」
???「顔が見たくなっただけだよ」
†「……何言ってやがんだよ」
???「……」
†「えっと……まだ何かあんの?」
???「頼むから、死んでくれるなよ」
†「え? ええ!?」
???「じゃあな」
†「え、どこ行くんだよ!? おい、待てっつってんだろ!?」
次回、『のうなし案山子 vs 最悪の魔王、カネガス=ヴェーテ』。近日更新!
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