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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第5章
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August Story2

差出人不明の手紙の内容とは───?

 中に入っていたのは、パソコンから印刷されたであろう、一枚の紙だった。横書きで、文章が綴られている。


「“拝啓 中野優樹菜様”」


 無機質な文字を、優樹菜は読んだ。


「“私は、逢瀬高校の生徒です。中野優樹菜さん、あなたに、お願いしたいことがあり、この手紙を書いています”」


 そこで行が空き、優樹菜は続いている文字に、目を見開いた。


「……“私は、先日、あなたが、”ASSASSIN“という組織のメンバーであることを、偶然により、知りました。ですが、安心してください。私は、他の誰にも、話していません。今後、話すつもりも、一切ありません。だから、この、誰とも知れない、私の話を、どうか、聞いてほしいんです”」


 まるで、今、直接語り掛けているような言葉だ───。


「“私には、祖母がいました。隣町に暮らしていましたが、休みの日には必ず会いに行くほど、私は祖母が大好きでした。祖母は、いつも私を暖かく向かい入れてくれました。その祖母は、2年前に、亡くなりました”」


 優樹菜は、本人が記したように、誰とも知れない人物の心情を汲み取り、手紙を握る指に力を込めた。


 次の行には、こう書かれていた。


「“ですが、祖母が、何故、亡くなったのか、私は知りません”」


 優樹菜は声に出してから、もう一度、目で、その文字をなぞった。


「“ある日、突然、祖母が亡くなったと知らされ、その時は、何で亡くなったのか、考える余裕もありませんでした。しばらく経って、ふと、そういえば、祖母の死因を聞いていなかったと思って、両親に尋ねました。"おばあちゃんは、どうして亡くなったの?"と。ですが、両親は、答えてくれませんでした。"言えない、話せない、ごめんね"。そう、母は、泣きながら言いました。父は、"ごめんな、ごめんな"と言いながら、逃げるように、私を抱きしめました"」


「"私はそこで気付きました。両親には、祖母の死因を、私に話せない理由があるのだと。祖母は、病気や、自然死以外のことで亡くなったのだと。それも、私が知って、深く悲しみ、絶望するような死に方だったのだと。私は、それが何なのか確かめようと思いました"」


「"両親に黙って、祖母の家に向かいました。祖母は夫である祖父を早くに亡くしたので、一人暮らしをしていました。家に着いた私は、一人の男性を見かけました。その人は、祖母の家の隣に住む、祖母と友人であった女性から、何かを聞いていました。その男性は、警察官でした"」


「"警察手帳を女性に見せていたので、そうだと分かりました。警察官は、女性に、祖母についての聞き込みをしていました。私にも、その質問の内容は聞こえました。祖母が亡くなる直前、何か異変を感じるような出来事はなかったか、祖母の家を見知らぬ誰かが訪ねてきたことはなかったか、など。女性は、心当たりはありませんと、当惑したような表情をしていました"」


「" その様子を見て、私は思いました。警察官と女性のやり取りを見て、直感しました。祖母は、何者かに殺されたのではないか、と”」


 息が続かなくなって、優樹菜は深く、息を吸った。


「“自殺という可能性は、考えませんでした。それは、女性が警察官に訊いていたので分かったんです。その人が、"自殺ではなかったんですよね?"と尋ねているのが聞こえたんです。警察官は、"そういうわけではないです"と答えていました。普通、殺人事件があれば、真っ先に、その事実は被害者家族に知らされるはずです。そして、警察の人が、家を訪ねてくるはずです。しかし、私の家に、それはありませんでした"」


「"私は、警察官の元に駆け寄って、こう尋ねました。祖母の死の原因を教えてください、と。警察官は、両親と同じように、答えてくれませんでした。辛そうに目を逸らして、"今は言えない"と、そう言いました。そのことと、両親のことを思い出して、私はこんな結論に至りました。祖母は、この世界で、隠れた存在に、殺されたのではないか、と”」


 "隠れた存在"───優樹菜は、その言葉を呟くように繰り返した。


「“警察も、その事実を隠したくなるような、私のような子どもが触れてはいけないような、そんな世界に生きている人物が、祖母を殺した。とすれば、全てに納得が行くような気がしました。ですが、それは、私の想像に過ぎないことなのかもしれませんでした。だから、私は、真実を知りたいと思いました。私の想像が、事実なのか───どうなのか。必ず、真実を突き止めたいと"」


 文字の形や色は、全て同じはずなのに、“必ず”という部分に、強い力が籠っているように、優樹菜はには見えた。


「“ですが、そのまま、何も進展がないまま、2年という月日が経っていました。私は、祖母の死因について知ることを、諦めかけていました"」


「"しかし、2年が経った今、私は、中野優樹菜さん、あなたのことを知りました。そして、同時に、この世に、本当に殺し屋というものが存在するのだと知りました。祖母が殺されたのか、それをしたのは、殺し屋なのか、私には、確かなことは、何も分かりません。だから、どうかお願いです。祖母の死の真相を、調べてください。以下は、私のメールアドレスです。お返事、必ず待っています”」


 優樹菜は手紙を置き、ゆっくりと、深く息を吐きだした。頭がずきりと痛んだのは、暑さのせいではないだろう。


「どう思う?」


 こめかみを抑えて、優樹菜は勇人を見た。


 勇人は何も言わなかった。目の動きさえ、見せなかった。


 優樹菜は今、勇人の家の、勇人の部屋にいた。半ば、強引に押し入るような形で来てしまったが、その時は、封筒の中に何が入っているのか、謎だったのだから仕方がない。


「……どこで、私がメンバーだって知ったの……?」


 優樹菜は手紙を見つめて呟いた。どこで、何から、誰から───手紙の主は、“ASSASSIN”に辿り着いたのだろう。


(だけど、同じ学校にいることは確かだし、言葉遣いは綺麗で丁寧───悪い人ではなさそう……)


 そして、この人物は、救いを求めている。他でもない中野優樹菜───自分に。


「余計なことに首突っ込むなよ」


 その声に、優樹菜は視線を上げた。


勇人の瞳が、自分の姿を捉えていた。


「余計なことって……」


 そう声に出すものの、後の言葉は続かなかった。


 確かに───この手紙の内容は、依頼として扱うのには、情報が不十分かもしれないし、普段の活動よりも優先して取り組むべき事態なのかと考えると、答えが出しにくい。


(けど……)


 このまま放っておいていいのだろうか───。


 優樹菜はもう一度、最初から手紙を読んだ。


「とりあえず……家帰ってから考える」


 優樹菜は手紙を折り目に沿って畳みながら言った。


 ここで、この依頼を受けるかどうかは、まだ───決められなかった。


 封筒をしまい込む時、鞄の中に、白いビニール袋を見て、優樹菜は、「あっ」と思った。


 そうだ───これを持ってきていたのだった。優樹菜は、勇人を見た。


「お昼、まだ食べてないでしょ」


 問いかけながら、優樹菜は、鞄の中に手を入れた。


「これ───あげる」


 優樹菜はビニール袋のまま、勇人にそれを差し出した。


 母が「軽く食べられるように」と持たせてくれた、プラスチック容器に入った弁当だ。「家に帰るまでにお腹空いたら、どこかで食べなさい」と母は言った。


「いらねぇよ」


 勇人はそれに手を伸ばさなかった。


 優樹菜は「いいから」と押し付けた。


「私、帰ってから葵の分のお昼作らなきゃいけないの。それで、ついでに自分の分も作るから」


 だからあげる───と、優樹菜は言った。


 しかし、数秒経っても、勇人は動きを見せなかった。


「もう……」


 優樹菜は立ち上がり、


「ここ、置いとくから」


 勇人の机に、袋を置いた。


「じゃあ、私帰るね。明日も、ちゃんと学校来てね」


 廊下に出る直前、優樹菜は勇人の視線が自分に向いているのを感じた。

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