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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story18

明かされる、残酷すぎる真実───。

 部屋中が、一気にざわめいた。


 斗真は耳鳴りを感じ、心臓が止まってしまったのではないかという錯覚に陥った。


 “私と一緒に、死んでください”───何を言っているのか、理解したくないと、斗真の脳は、斗真に助けを求める。


(なん……だよ……、それ……)


 斗真はただ、西村を見つめることしかできない。


(おかしいよ……)


 正気を失った初老の瞳は、子どもたちを見て離れない。


(施設長は……、こんな人……じゃない……)


「どうせだから教えてやる」


 その場で、斗真たちを監禁し続けていた男が口を開いた。


「俺らは、殺し屋だ」


 そう言って、もう一人の男を銃口で示す。


 部屋がざわめきは起こらなかった。それほどに、男の言葉は、衝撃的で、非現実的だったのだ。


「こいつに仕事雇われて、今日、ここに来た」


 淡々と、もう一人の男は言った。こいつ───施設長、西村のことであることは、既に、疑いの余地がなくなっていた。


「こいつの依頼、面白れえから、教えてやるよ」


 隣の男が、笑いながら続く。


「このじいさん、死のうと思ってんだってよ」


 銃口で横原を突かれ、西村は、深く、項垂れた。


「こいつは、お前らが思ってるような真っ当な人間じゃない。ギャンブル依存症に片足突っ込んでる、どうしようもないじじいだ。ギャンブルで何度か大負けして、借金まみれで、働いても働いても、金に追われる───そういう生活に、疲れちまったらしいぜ。そこに病も襲って、生きる意味が何なのか、見失ったってよ。でもよ、死ぬ勇気が中々湧いてこなくて、だったら誰かに殺してもらおうって言って、俺らのとこに来たんだ。“殺してください”ってな」


 男はクツクツと笑い、西村を見た。


「俺は言ってやったよ。お前みたいな、どこぞのじいさん殺したって、何の得にもなりやしねえって」 


「そしたらよ」と、男は吹き出した。


「“大勢ならどうだ”ってすがりついて来たんだよ」


 男が語る言葉に、子どもたちは答えることができない。ただ、西村の頭が、深く、深く下がって行くのを、見つめることしかできない。


「“私にとって、施設に通う子どもたちは、家族同然なんです。あの子たちとともに死ねるのなら、私は何も怖くありません”───そう言ってたな、こいつ」


 もう一人の男が、話に加わった。


「お前らをここに集めたのは、その為なんだよ」


 鋭い目付きで、男は子どもたちを見回した。

「このじじいと、お前らをまとめて殺す───それが俺たちの目的だ」


「だって、一人殺すより、こんな大勢の方が、楽しいに決まってるもんな」


「職員とお前らを分けたのも、こいつの望みだ」


「本当は、すぐにでも取り掛かりたかっただが、注文の品が届くのが遅くてよ」


「それを待って、こいつをここに連れてくることに、計画を変えたんだ」


「注文の品───何だか、気になるだろ?」


 男はそう言って、ドアの方を向いた。


「おい!入ってこい」


 呼びかけられ、現れたのは、細身の体型に、ふきでものができた頬をした若い男だった。


 手に、緑色のボールのようなものを握っている。


「こいつは、武器屋だ」


 男は、若者を隣に立たせると、子どもたちに向かって言った。


「この中には」


 若者はチラリと、手に握ったものを見て、


「毒ガスが入っている」


 何気ない会話をするように、それを持ち上げた。


 部屋に、ざわめきが再来した。


 斗真は身体が激しく震え出し、小刻みに、首を振る。


(おかしい、おかしい、おかしい、おかしい……)


 頭に浮かぶのは、それだけだった。


 若者は無造作に、西村に毒ガスの入ったボールを手渡した。


「俺らは外に出る。安心しろよ、苦しいの何て一瞬だ。死んだ後は、俺らが綺麗に処理してやる」


 男は掌で、西村の肩を勢いよく叩いた。その音と、「いや!死にたくないっ!」という、少女の叫び声が重なった。


「何か言ってやれよ」


 男は声がした方に目を向け、西村に言った。


 西村は顔を上げた。


 その目は、充血しきって、血のような色を帯びていた。


「みな、さん……」


 その声は、震えていた。


「わたしは……、よわい人間です。……みなさんと同じです。行き場がなく、彷徨う、幽霊のような存在です。……わたしは、そんなみなさんを、救いたい。ですが、今の私には、それができない。……できないのなら、死ぬしかないんです。……みなさんと、一緒に」


 斗真の恐怖は、絶頂に達した。


(もう……、だめだ……)


 こいつには、何を言っても響かない───そう思った。


 西村を含めた男4人を見る斗真の視界は、歪みはじめた。


(……いや……だよ……)


 涙のせいなのか、意識が遠のいているのか、斗真には分からなかった。


(死にたくない……。……こんなやつに、殺されたくない……)


 斗真は叫び出したくなった。


 大声で喚いて、この場から逃げ出したくなった。


 頬を、何かが伝った。


 涙なのか、汗なのか、今の斗真にとっては、どうでも良かった。


(……俺は……、まだ、この世界に、生きたい……)


 隣で、息を吐く音がした。


「甘えたこと言ってんじゃねえよ」


 声がした。


 斗真のすぐ隣で、少年の声が、聞こえた。


「お前の人生、他人に押し付けんなよ」


 斗真は、隣を見た。


 部屋中の、全ての人間の視線が、彼に集まった。


 人々の呼吸が、重なった。


 だから───実犯人である男3人が、床に倒れこむことになった原因を、斗真を含めた、彼以外の子どもたちは、直接、見ていなかった。


 綺麗なまでに、バタリと、男3人は倒れた。


 斗真は息を呑むより先に、目を見張った。


 何が起こっているんだ───そう、はっきりと思った。


「警察だ」


 直後、男性の声がした。


 斗真は、声のする方を見た。


 西村の方に向かって歩いて行く、一つのシルエットがあった。


 警察を名乗った男性は、手に持った何かを上着にしまい込みながら、西村を真っすぐに見据えていた。


 西村は、呆然と立ち尽くしている。足元には、男3人がいる。


 斗真は男性の横顔を見た。斗真の父と、同じくらいの年齢の人だった。


 男性は西村の前で立ち止まると───ふと、視線を僅かに動かした。


(え……?)


 その目は、斗真を向いた。


 斗真はその目を見つめ返した。そして、気が付いた。


 その瞳が、安心を写したことに。


 男性の目が逸れてから、斗真は勇人の方を向いた。


 見えたのは、少しだけ汚れた白いスニーカーだけだった。

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