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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story17

監禁された子供たちの前に現れた人物とは───。

 斗真は真横で感じた、風を切るような気配に、顔を上げた。


 見ると、葵がその場で立ち上がっていた。


 葵は素早く、勇人の肩を叩くと、斗真には聞き取れない早口で、何かを伝えた。そうして、身を翻し、向こうに駆け出して行ってしまった。


 その目立った動きに、ついに、男が反応した。


 斗真は背中に悪寒を感じ、葵の背中を追う男の視線から、目を離せなくなった。


 男は目を細め、やがて、何かを疑ってみるように、首を伸ばした。


 斗真は反射的にその方向を振り返った。そこには、葵の姿はなかった。

 

 男が一歩、踏み出した靴の音に、部屋中に、波のように緊張感が広がった。斗真は思わず、身震いをした。


 視線をドアの方に向けながら、男は手を動かした。


 持ち上げた指の中には、トランシーバーがある。


 男が通話口に向かって、口を動かすのを、斗真は、呼吸をするのも忘れて見入っていた。


 静まり返った部屋の中に、荒れた機械音が響き、男が口を動かす。斗真はその口の動きを、読み取った。「わかった」と、男は言った。


 男が手を下ろし、視線を別の場所に移す。


 斗真は止まっていた息を、一気に吐き出し、肺いっぱいに、空気を吸い込んだ。


(頭が、くらくらする……)


 眩暈を感じ、斗真は額を抑えた。


 そのまま、再び、ドアに目を向ける。


 中野葵───あの少女が一体、何者なのか、斗真には未だ、想像もつかない。


(だけど……、あの子はきっと……)


 一人で外に出て外部と連絡を取りに行っているのだろうと、斗真は思った。


(能力で、それをやってるんだ……)


 そう考えるも、あの小さな少女がこの場の救世主になるとは、斗真は思えなかった。


(だって、小学生の言うことなんて、誰も信じない……。話したところで、警察は動いてくれないよ……)


 それを、もっと早く気付いて、教えてあげたら良かったと、斗真は、強い後悔を感じた。


(俺は、いつだってこうなんだな……)


 胸が苦しくなった。


(大切なことに……、後から気付くんだ……)


 きつく目を閉じ、斗真は顔を背けた。


 直後───ドアが開く音がした。


 斗真は、はっと目を開けた。


 部屋に入って来たのは、葵でも、助けに駆け付けた警察でもなかった。


(え……?)


 知らない男と、よく知る人物が、そこに立っていた。


(……施設長……?)


 施設長───西村には、世話になったことが、これまでに何度かあった。


 両親からの勧めで、この施設を利用すると決めたきっかけも、西村にある。斗真は彼と初めて会った時から、「この人が経営しているのなら、信頼が持てそう」と大きな安心を覚えたのを、よく覚えている。


(何で……?)


 斗真は男に肩を押されて歩き出す西村を、呆然と見つめた。


(どうして、ここに……?)


 西村は視線を下に向けたまま、部屋の中央まで歩いてきた。


 男2人が西村を挟み込むように立ち、斗真たちを見下ろす。


 西村の表情は、暗い。目が光を失ってしまっている。───その表情は、とても、怖かった。


 斗真はごくりと、空唾を飲み込んだ。


 男───たった今、入ってきた方───に背中を小突かれ、西村は前によろけた。


 そして、顔を上げた。


「……皆さん」


 か細く、今にも消えてしまいそうな声だった。


「こんなことに巻き込んでしまい……、本当にごめんなさい」


 声には、既に、涙が混じっていた。


(そんな……)


 斗真は居たたまれない気持ちを感じた。


(施設長は……、何も悪くない……よね……?俺たちと一緒に、この男たちの計画に、巻き込まれただけで……)


 謝る必要など、ない。だから───お願いだから、そんな悲しい目を、しないで欲しい。


「これは……、全て、私の責任です」


 西村は顔を上げ、子どもたちを見回した。


「皆さんは……、悪くありません……」


 顎から床に、涙が零れ落ちるがままに、西村は言った。


「ごめんなさい……」


 そして、深々と、頭を下げた。


「……ゆる、して……」


 悲痛な声に、斗真は、拒絶反応を覚えた。


(嫌だ……)


 耳を抑えようとしても、手が動かなかった。


(聞きたくない……。泣かないでよ、先生……)


 金縛りにあった時のように、斗真は身体を硬直させ、「やめて」と、誰にも───自分にさえも聞こえない声で懇願する。


 しかし、その願いは打ち砕かれた。


「許して……、ください……」


 男性が出したとは思えないほど、弱々しく、高い声を出し、西村は、遅い動きで、頭を上げた。


 汗に濡れたような顔で、西村は、斗真を見た───気がした。


「……私と一緒に、死んでください」


 ※


「やっぱり、これ、警察に連絡した方が、良いんじゃ……?」


 職員のながさわの言葉に、すみれは、頭を振った。


「まだ、中に子どもたちがいる。目立った動きをしたら、何をされるか分からない」


「じゃあ、どうしたいいんですか!?」


 そう、すみれの前に立ったのは、この施設の管理人、でんまさおみだ。


「だから!」


 すみれは、苛立ちから、声を荒げた。


「それを今、考えてるんだって!」


「落ち着いてください!二人とも」


 兵戸が、すみれと伝田、二人に間に割って入った。


「今は、ここで争っている場合ではありません。伝田さん、河井先生の言葉を、信じましょう」


 落ち着いた声に、二人は反論しなかった。


 すみれは「すみません」と伝田に詫び、同僚13人に、こう言った。


「今、詳しいことを話している時間は、ないんです」


 すみれは、管理人室から外に出てから、13人にこう言った。


「ただ、私は、この状況を解決してくれる人たちのことを知っています。今、その人たちは、私たちと、子どもたちのために動いてくれています」


 半ば強引に全員を納得させてしまったが、その時は、すみれを含めた14人は理性を完全に失ってしまっていた。何とか、手首を結ばれた紐を協力し合って外した直後に、すみれはそう言ったのだ。


 その後、外に出るために、すみれは事務所にある冷蔵庫から、飲料水の入ったペットボトルを取り出し、能力によって中身に「鍵を開ける」効果を生み出した。それをドアノブにかけ、ドアを開けることに成功した。


「施設長は……、犯人が何を狙っているのか、最初から知っていたんですね……」


 永沢が言った。


「だけど、あいつが、素直に子どもたちを解放するとは思えない……」


 伝田が激しく、髪の毛をかきむしった。


「僕たちにできることは……、ないんでしょうか?」


 兵戸が、すみれを見た。


 すみれは携帯電話を握りしめていた。


「私たちにできることは」


 すみれは目を閉じ、そうして───ゆっくりと、開けた。


「信じて待つ───それだけです」

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