July Story16
それぞれの事件が、隠された真実に向けて、動き出す───。
蒼太は、里道に聞こえないように気を付けながら、息を吐き出した。
ただ座っているだけだが、身体は既に疲れ切っていた。
あれから───里道が押し入ってきてから、どれくらいの時間が経ったのだろう。体感としては長い間、こうしている気がするが、実際はそれほど経っていないのかもしれない。
せめて、時間を確認したい───。
「あの」
目を上げた時、新一が身を乗り出すのが見えた。里道にではなく、豌藤に対してだった。
「時計、外していらっしゃるんですか?」
豌藤は短く、「え……?」と声を上げた。
「いえ、壁掛け時計が見当たらないので、皆さんは普段、どこで時間を確認されているのかなあと。ふと、気になったんです」
蒼太は「たしかに……」と思いながら、豌藤を見た。
豌藤の手首には、腕時計が巻かれていない。
壁掛け時計がないのなら、他にどうやって、時間を確認しているのだろう。
それに、壁掛け時計を外すことに、何か、意味はあるのだろうか。
豌藤は「え、ええと……」と目を泳がせた。
「こ、壊れてしまったんです。……針が動かなくなってしまって……、だから、外しました……」
新一は「ああ、なるほど」と納得したように頷いた。
「結構、長く使われていたんですね」
新一の微笑みに、豌藤は「そ、そうです……」と、ぎこちなく答えた。
蒼太は豌藤の反応を、不思議に思った。
(何だろう……?)
蒼太は小さく、首を傾ける。
(言いたくないこと聞かれた時みたいな……、そんな反応……)
奥にいる女性銀行員二人は、蒼太たちと同じように、初めて理由を知ったように、「そうだったんだ」と小声で言い合い、顔を見合わせていた。
蒼太は、里道はどうだろうか───と目を向けた。
里道は目を、これまでで一番険しくさせていた。
蒼太は驚いた。
里道の、その視線は、真っすぐに、豌藤を捉えていたのだ。
※
「こっちにも、共犯者がいるのかもしれない」
翼は、光を振り返った。
「監視カメラは、全部止められてる」
光は紙の上でペンを動かし、
「銀行の設計図は、流石に調べられないよね」
視線を上げて、そう言った。
翼は銀行の監視カメラの映像が映った画面を見つめた。設置されている4つ全てが、真っ暗で、何も見えない。
「だけど、“みはらし”ほど、大きな建物じゃないし、外から、中の様子は調べられるかな……」
チラリと視線を上げ、英二と話している優樹菜を見る。
すると、英二が「できました」と顔を上げた。
「それぞれの、部屋の状況です」
できあがったのは3つの図だった。
子どもたちが監禁されているイベントルーム、すみれがいる事務所、管理人室───それぞれ、立てこもっているのは一人だ。
「犯人は、それぞれ一人だけど、問題は、イベントルームと、事務所に、人質の人たちがいるっていうところだよね……。犯人を捕まえる時に、大勢の人に顔を見られることになる」
優樹菜の言葉に、光が、「たしかに……」と頷く。
「顔を隠すとか、そういう対策をしたとしても、私とあおちゃんの体格からだと、”子供”だということは、すぐに知られてしまいそうですよね……」
「事件解決後の説明も、難しくなりそうですね」
翼が見つめると、優樹菜は「そうだよね……」と、顎に手を当てた。
「……私、もう一度、お母さんに連絡してみる。何か、いいアドバイスがもらえるかもしれない」
そう言うと、優樹菜は立ち上がり、廊下に向かって駆けだして行った。
その、直後、英二が「おっと」と声を上げた。
「どうしました?」
翼は英二に目を向けた。
「妻から、連絡です」
そう言った英二は、スマートフォンを手に持っていた。そこから小さな音が漏れていることに、翼は気が付いた。
「電話?」
翼と光、2人の声が重なる。
英二は頷き、
「もしもし?」
と、耳元に、携帯を運ぶ。
「はい、僕です。───ええ、そうです。───んっ?何が、起こったんですか?」
英二が目を丸くするのを、翼は見た。
「えぇっ!?」
直後、英二は大声を上げ、その場で飛び上がった。
「そんなことが……?───危機的状況ですね」
眉間に皺をよせ、眼鏡を指先で押し上げた英二を見て、翼は胸騒ぎを覚えた。
「今、こちらでは潜入の計画を立てていたところです」
英二はそこで、大きく息を吸った。
「───大丈夫です。”ASSASSIN”のみんなを、信じましょう」
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