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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story9

新一が蒼太の通信機を使ってしていたこととは───?

「今ね、みんな、本拠地にいるんだよー。みんなって言っても、優樹菜と翼と光だけど。翼の通信機と繋がってて、翼があたしに指示出す時だけ電源点けるから、こっちの声は聞こえてないの。それで、あたしは指示に反応しないようにって言われてるの。変なこと言ってたら、怪しまれちゃうからだって」


 葵は「それから……」と、ここに来るまでに起きた出来事を思い返す。


「ああ、そうだ。勇人が通信機の電源落としてるの、優樹菜怒ってたよー。“何してくれてんだ、あいつこの野郎”みたいな、言い方は違うかもしれないけど、そんな感じのこと言ってた」


 ようやく、そこで勇人の視線が葵に向いた。


「いつまで話してんだよ」


 葵は「えー、だってー」と、すぐに切り返した。


「久しぶりに会えて嬉しいんだもーん。それに、この2週間くらい、ずぅーっと、勇人のこと心配してたんだよ、あたし。優樹菜に勇人のこと訊きすぎて怒られるくらい」


 葵が言った時、通信機から、翼の声がした。


『あおちゃん───その男、殺し屋』


 葵は男を見た。うろうろと、落ち着かない様子で部屋の中心を動き回っている。


 手早く、葵はポケットから、証明証を取り出した。


 勇人以外のメンバー5人に、最近、新一から手渡された“ASSASSIN”のメンバーであることを示す、手帳だ。


 メモスペースを開き、挟んでいたボールペンで、「殺し屋」と書き込んだ。肩を叩きながら、同時に、勇人の目の前に、メモを差し出す。


 勇人の目は葵が書いた文字に向き、男の方を向いたが、すぐに逸れた。


『あおちゃん、まだ、動かないで。もう少し、情報が必要だから』


 翼の声に、葵は見えていないと分かっていながら、大きく頷いた。


 葵はあの男が殺し屋だとして、何が目的なのかを考えるのは、自分ではなく本拠地に残った3人がやってくれるだろうと思った。


(そういえば、蒼太、まだ来てないのかな)


 ふと、思い、葵は反対側を振り返った。


 すると、濃い茶髪をした、勇人と同い年くらいの少年と、目が合った。


 少年は「あっ」という表情をし、慌てた様子で視線を逸らしたが、葵は「ん?」と首を傾けた。


「ねえねえ」


 勇人の服の袖を、葵は引いた。


「あの人のこと、勇人、知ってる?」


 葵が示すと、勇人が僅かに首を動かして、少年に目を向けた。


 その目の動きに、葵は「そうなんだー」と声を上げた。


「知ってる子、なんだね」


 改めて、少年を見つめてみると、途方に暮れたような薄茶色の瞳が下を向いているのが分かった。


(勇人の知り合いってことは、優樹菜も知ってるのかな?)


 首を傾け、葵は部屋を見回した。


(ほんと、子どもだけしかいないんだな)


 一番小さい子で、小学1年生くらい、この中に、大学生くらいの年齢はいないようだ。皆、怯えたよう

な目をしていて、目に涙を浮かべている子も、中にはいる。


(あっ)


 葵は不意に思い出した。


(“大人しくするから”って、優樹菜と約束したんだった)


 葵は次に指示があるまで、なるべく喋らずに過ごすことを決めた。


 肩を勇人の右腕に触れるようにして寄りかかると、身体を離されたため、葵はその後、同じことをしようとはしなかった。


 ※


「おっと、妻からメッセージが来ました」


 河井英二の声に、3人は一斉に目を向けた。


「なになに?───”犯人の狙いはおそらく施設の方、もしくは子どもたち。大人と子どもを別の場所に分けたのは意図的なものだった”」


「計画としてあったってことか……」


 翼が、呟くように言った。


「だとしたら───、殺し屋は……、子どもたちを狙ってるってこと……?」


 優樹菜は、そう言う自分の声が、微かに震えるのが分かった。


 翼が、服山陸の顔をじっと見つめる。


「……殺し屋とて、一人の人間ですし」


 そして、静かに口を開いた。


「子どもを殺すということには抵抗を示すタイプも、多いんです。この服山が、以前にも同じように子どもを殺害していたケースがあるなら、その可能性は濃くなりますね」


 英二が、興味深そうに翼を見つめる。


「子どもたちに何かをする可能性があるのかどうか、分かっていた方が、こちらとしては動きやすいですよね」


 光の言葉に、優樹菜は「そうだね……」と、立ち上がった。


「私、お母さんに連絡してみる。服山陸に前科があるかどうか、調べてもらえないか、頼んでみる」


 机の端に置いていた携帯電話を手に取った優樹菜は、その隣にある通信機が光っていることに気が付いた。


 誰かから、連絡が入っているのだ。


 優樹菜は手に取り、「蒼太くん……?」と声に出して言った。


 今、ここにいない葵、勇人、蒼太の中で、一番、優樹菜に連絡を取ろうとする可能性があるのは、蒼太ではないか。


(携帯には、連絡ない……)


 優樹菜は胸騒ぎを感じながら、通信機を耳に付けた。


 しかし、何も聴こえない。


 優樹菜は「蒼太くん?」と呼びかけた。


 すると、返ってきたのは蒼太の声ではなく、何かが何かに当たる、音だった。


 優樹菜は「え……?」と指で通信機を抑え、その音が何なのか確かめようとした。


 コン、コン、コン……と、リズムを取るように絶え間なく鳴っている。


 優樹菜ははっとした。


「モールス信号……?」


 英二が「はい?」と、優樹菜を見上げる。


「すみません、先生───」


 優樹菜は早口に言い、鞄を取り上げた。


「ここ、お願いします」


「んんっ?」


 英二が、目をぱちくりさせる。

「私、警察署に行ってくる」


 優樹菜は河井に答えずに、翼と光に言った。


「蒼太くんの通信機から、モールス信号が届いてるみたいなの。きっと、社長が蒼太くんと同じところにいて、社長が送って来てるんだと思う」


 優樹菜は鞄を持ち上げ、二人の答を待たずに、「じゃ、お願い」と言い残し、走って部屋を出た。


 ※


 蒼太は新一が絶えず鳴らし続けている物音を聞いていた。


 男の様子に変化はなく、トランシーバーに語り掛けたり、音を聴いたり、その後で苛立っていたり、同じことを繰り返している。


(街中で銀行のシャッター閉まってたら、誰かが不信に思うんじゃないかな……?)


 蒼太はふと、そんなことを思って、「いや……」とすぐにその考えを撤回した。


(思わないか……。今日、祝日だし、休んでるだけって思われるかも……)


 警察が来てほしいのか、来てほしくないのか、蒼太には分からなかった。


(呼んだら危ない目に遭うし、でも、誰かが気付いてくれないと、ずっとこのままいなきゃいけない……)


 息を吐き、膝に顔を疼くめる。


(たまたま、あの時間にここに来ただけなのに、何でこんなことに巻き込まれないといけないんだろ……)


 それは、仕方がないだろうと言う気は、蒼太の中に、存在していなかった。


(だって……、悪いのは全部、この人だし……)


 恨めしさに、男を見つめる。


(この人がここに来なかったら、ぼくは今頃、社長と本拠地に行って、みんなと会えてたのに……)


 急に心細くなって、蒼太は、両腕で膝を抱え込んだ。


(みんなが気付いて、助けに来てくれないかな……)


「あの、すみません」


 声に、蒼太は顔を上げた。


 新一が男に向かって、片手を上げていた。


「この子がトイレに行きたいと言っているのですが、私が付き添っていくので、お借りしてもいいですか?」


 蒼太は目を見開いた。そんなこと、一言も言っていない。


 それに───蒼太は男が自由な動きをすることを許すとはとても思えなかった。


 男は新一に向かって目を細めると、何かを考えるように間を置き、


「3分だけやる」


 ぼそりと言った。


「ありがとうございます」


 新一は微笑み、話について行けていない蒼太の肩を「行こう」と叩いた。


「あ……、カウンターの奥です」


 銀行員の男性が、おずおずと手を上げた。


 新一は、「ありがとうございます」と、柔らかく男性に頷いた。


「おい、待て」


 呼ばれて振り返ると、男がカウンターの上を差していた。


「携帯、そこに置いて行け」


 二人は言われた通り、携帯電話を並べて置いた。


 先に新一が軽々とカウンターを乗り越え、蒼太は自分の胸の辺りまであるテーブル部分に手を付けた。勢いを付けて身体を持ち上げると、足をかけた。降りる時は、新一が手を貸してくれた。


 蒼太は男の視線を背後に感じながら、逃げるように新一の隣を歩いた。



 奥のドアを開けると、トイレのマークはすぐにあった。


 新一はトイレには入らず、その場で振り返った。蒼太は不意打ちを食らい、心臓をドキリとさせた。


「ごめんね、何も説明せずに、借りてしまって」


 新一は蒼太の通信機を指でつまむようにして掲げた。


「あっ……、いえ……」


 蒼太は首を横に振り、声を潜めると、


「さっき、鳴らしてた音……、あれって……?」


 控えめに、そう問いかけた。


「あれは、モールス信号と言ってね」


 新一の答えに、蒼太は、首を傾けた。


「時間があまりないから、詳しい説明は省かせてもらうけれど、音による通信で、メッセージを送ることができるんだ。音のパターンがあって、使用したり、解読するには専門的な勉強が必要なんだけど、私が知っている中では、舞香さん───優樹菜ちゃんと葵ちゃんのお母さんが、解読を得意とされていて、舞香さんの協力を手配してくれないかなと思って、優樹菜ちゃんに繋いでいたんだ」


 いつもより早口な新一の説明に、蒼太は理解が追い付くと、「あっ……」と声を上げた。


「社長が鳴らした音を解読してもらえたら……、助けを呼ぶことに繋がるっていうことですか……?」


「その通り」


 新一は頷いて、微笑んだ。


「さっきは、私と蒼太くんが銀行で立てこもりに巻き込まれたこと、犯人の目的はお金ではないらしいこと、それから───」


 新一は声の穏やかさはそのままに、目を真剣なものにして、


「犯人が“フィルス”を持ち歩いていること」


「フィルス……?」


 初めて聞く言葉だが、良くない物だということに察しがつき、胸がざわめいた。


「殺し屋の多くが用いる、銃についたあだ名なんだけど───私が見たところ、あの男は、それを持っているんだ」


 新一の答に、蒼太は「じゃ、じゃあ……」と声を震わせた。


「あの人は……、殺し屋なんですか……?」


「それはまだ分からない」


 新一はゆっくりと首を振った。そして、「ただ」と、首の後ろに右手を回し、こう言った。


「あの男の行動は、殺し屋だと仮定すると、どうにも矛盾するような気がするんだ。“フィリス”は裏社会の武器屋が商品として扱っているみたいだから、殺し屋じゃない、ただの犯罪者が持ち歩いていてもおかしくはないと思うし」


 新一は腕時計をチラリと見て、「もうすぐ3分だね」と言った。


「せめて、あの男の目的が分かるといいんだけれど」


 蒼太はドアに身体を向けながら、こくりと頷いた。


(でも、どうやって……?そんなの……、本人にしか分からない……)


「それとなく、釣ってみるよ」


「えっ……?」


 蒼太は振り向いた。


 見ると、新一は目を笑わせていた。


「ちょっと、仲良くなってみようと思うんだ」

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