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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story8

”みはらし”の立てこもり犯の正体は───殺し屋。

彼らの目的は、一体?


「あおちゃん、矢橋さんに会えたみたいですね」


 翼がパソコンの画面から目を離し、優樹菜を振り返った。


 優樹菜は画面を覗き込み、ほっと息を吐いた。


 葵の通信機がある位置───葵がいる位置示す、青色の点が地図上を止まっているのが、その証拠だった。


 オフィスに残った3人は、葵の通信機に備え付けられた位置情報を追っていた。葵が今いるのは“みはらし”の2階にある、「小ホール」という名の部屋だ。


「かなり広く見えるけど、それだけの人数がいるのかな?」


 光が翼に尋ねる。


「今日は祝日だし、あり得ると思う。むしろ、犯人もそれを狙ったのかもね」


 翼はテーブル上の、自身の通信機に指を触れ、


「あおちゃん、こっちも準備できたよ」


 と、呼びかけた。


 優樹菜が「返事はしなくていいから」と念を押した甲斐があってか、葵の声は返ってこなかった。


 数分後、パソコンにメールが届いた。


「来た」と、翼はそれをクリックする。


 画面に浮かび上がって来たのは男の写真だった。


「ブレブレじゃない……」


 優樹菜は歪んだ像を見つめ、呆れた。


 葵は言われた通りにしたことに間違いないのだが、やはり、失敗を欠かさなかった。


 翼が葵の出発前、倉庫室から取り出してきたのは腕時計の形をした機械だった。


 腕時計の時計がある部分には真四角の黒い備品が付いていた。折りたたみを開くと、小さなパソコンのような形になり、上部分は画面、下には2つのボタンがある。1つはカメラのマーク、もう1つはメールのマークだった。


「開くと、自動で電源が点くから、後は撮りたいものを画面に写してカメラのボタンを押せばいいだけ。撮った後は、メールのボタンを押してくれたら、こっちのパソコンに写真が届くから」


 翼の説明に、葵は「わかった!」と、大きく頷いていた。


「だけど、何もないより、大分進みます」


 翼は優樹菜の言葉をフォローし、画像に編集を掛け、画をより鮮明にした。


 男の顔がはっきりと浮かび上がる。


 黒い短髪に、角ばった顔をしている、一見、どこにでもいそうな30代くらいの男───優樹菜はその目に何が映っているのか探ろうと、じっと画面を見つめた。


「一応、データに掛けますね」


 翼は言い、殺し屋のデータバンクに、男の顔を照合させた。


 この時、優樹菜はこの男はただの犯罪者だと高をくくっており、翼と光も同じように感じているのだろうと思っていた。


 ───が、その予想は裏切られた。


 翼は表示された結果を見ると、通信機を手に取り、


「あおちゃん───その男、殺し屋」


 と、手早く伝えた。


 優樹菜は「どういうこと……?」と呟くように声を上げ、画面に映った男の写真を見る。葵が送って来た写真と、どう見ても同一人物だ。男の名は、ふくやまりくというらしい。


「殺し屋が立てこもりをすることって、あるんですか?」


 光の問いかけに、優樹菜はかぶりを振った。


「私は、聞いたことない。大抵、殺し屋って、証拠を出さないように、人目に付かない場所を選ぶから」


「それに、人質を取ったり、手の込んだことをして時間を掛けているのも、おかしいですよね」


 翼が言った。


「全て、依頼者の指示なんでしょうけど───、狙いは、“誰”なんだろう?」


 殺し屋の仕事は依頼者から依頼された人物を殺害することだ。依頼の内容通り、確実に。そこに、子どもたちを監禁し、大人たちを拘束するという手順は、どういう場合に、必要となるのだろう。


 優樹菜が考え始めた時、翼が、通信機を指で押さえた。


「あおちゃん、まだ、動かないで。もう少し、情報が必要だから」


 優樹菜は葵が頷いた様子を、脳裏に見た。


「あっ、誰か、来たのかも」


 光が、不意に声を上げた。


 言われてみると、階段を上がる足音が聞こえてきた。


「こんにちはー」


 そう、間延びした声がし、河井英二が顔を覗かせた。


 3人が挨拶を返すと、河井は「お邪魔しますね」と丁寧に頭を下げ、部屋に入って来た。


「先生、その辺りに座ってください」


 優樹菜は正面のソファを手で示した。


「わかりました」


 河井は「おいしょ、おいしょ」と声を出しながら、言われた場所に腰を下ろした。


「いても何の役にも立たないかもしれませんが、来てしまったので、よろしくお願いします」


 そして、再び、深く頭を下げた。


 河井と面識のある翼は、「いえいえ」と首を振った。


「あっ」


 河井は初めて顔を合わせる光に気が付いたようで、


「私立逢瀬高等学校で理科の教員を勤めております、河井英二と申します。54歳です」


 3度目となる、礼をした。


 優樹菜は「良いですから」と河井を窘め、時計を見上げた。


(蒼太くん、遅いな……)


 時刻は11時を回ったところだった。


 ※


「あの……」


 すみれの隣で、おずおずと声を上げた者がいた。


 ひらのりふみだ。すみれよりも後輩で、年齢は40代半ば。ウェーブのかかった茶髪をしているが、彼は非異能力者である。


 銃を持った男は兵戸を見て、「何だ?」と淡々とした様子で声を上げた。


「すみません───あなたの目的は、一体、何なんでしょうか……?」


 男に拘束された15人が持っているであろう疑問を、兵戸は投げかけた。


「お前らには関係のないことだ」


 男は顔色を変えなかった。


 すみれは「関係ない?」と、声に出して言った。


「子どもたちを人質にとって、私たちの身代わりみたいにさせてるくせに?」


 兵戸が「河井先生……」と呼ぶ声がし、男が睨むような視線を寄越したが、すみれは動じなかった。


「同じだ」


 男は言った。


(同じ……?)


 すみれは眉根を寄せる。


「お前らは子供らのこと考えれば、何もできないのと同じように、子供らもお前らのこと考えれば、何もできないだろ」


 自分以外の14人が顔を見合わせるのをすみれは感じ取った。


「それ、答えになってない」

 

今度は男を入れた15人の視線が、すみれに集まる。


「私たちが知りたいのは、あなたたちの目的。そして、それを達成するのに、子どもたちを巻き込む必要があるのかどうか」


 すみれは目を細め、男に問いかける。


「大勢の子どもたちがいることは、あなたの計画にとって重要なことなの?」


 声を抑えると、男の表情に、僅かな変化があった。


 すみれは考えていた。犯人は一体、立てこもりを起こして、何をしたいのだろうか───と。


「施設長」


 すみれは西村を呼んだ。


「は……はい」と、部屋の向こう側にいる西村は、すみれと目を合わせた。


「もしかして、私たちをここに呼んだのは、指示されたからですか?」


 男を目で示すと、西村は男の顔色を窺い、「そ、そうです」と、すみれに向かって、忙しなく頷いた。


 すみれは西村に頷き、男を真っすぐに見据えた。


「大人と子どもを別の場所に監禁することは、最初から、計画としてあったのね?」


「だったら───」という声は、男の「黙れ」という力の籠った言葉によって、掻き消された。


 男が銃口をすみれに向けると、女性職員は息を呑み、男性職員は目を見開いて身を乗り出した。


 ただ、すみれは動じなかった。


 男はすみれを見下ろし、ただ、呼吸と瞬きを繰り返すと、すっと視線を背けた。


 そして、銃口を、反対側に向けた。


 ───銃声音に、部屋中は、どよめきに包まれた。 


「これは本物だ。分かったろ?」


 男は床から昇る細い煙を背に、言った。その目は、すみれを向いている。


 すみれは何も言わず、何も反応せず、ただ、その鋭い眼光を、真正面から受け止めた。

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