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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story6

立てこもり事件を解決すべく、メンバーたちは調査を始める───。

「立てこもりってことは、殺し屋じゃないの?」


「殺し屋だろうとなかろうと、今は関係ない。捕まえるのは、私たちじゃなくてもいいの」


 優樹菜は葵に答えながら、通信機を耳に掛けた。


「勇人に、連絡取るの?」


「出るかどうか、分かんないけど、一応ね」


 優樹菜は答え、通信機のダイヤルを勇人の番号で回した。勇人が耳に付けていないにしても、鞄の中に持ち歩いていたら、音で気が付くかもしれない───そう思ったのだ。通信機を通した一方的な会話なら、立てこもり犯は気が付かない可能性が大きい。


 しかし、耳に届く音は、何もなかった。


「あいつ……、電源切ってる」


 優樹菜は苛立ちを感じ、通信機を半ば乱暴に外した。


「怒んないでよ、優樹菜ー」


 葵が優樹菜の腕に手を触れた。


「怒ってない」


 優樹菜は眉を寄せたまま、そう言った。


「施設の中の状況、調べてみますね」


 翼がパソコンを手に戻って来た。


「監視カメラが止まってなかったらいいんですけど───」


 画面を開き、翼はパソコンを操作しだした。


 数分後、「うーん……」という翼の声に、優樹菜は「だめだった?」と問いかける。


「はい……。全部、止められてます」


「えー、じゃあさ、あたしが瞬間移動で、ぴょって行って、犯人をやっつけるのは?」


「それをするにも、部屋の位置情報は必要でしょ。犯人がどの辺りに立ってるのかとか」


「んー、たしかにねー」


「それに、すみれ先生の方もありますしね。どちらかを刺激すれば、もう一方が何かする可能性もあるし、外に他に仲間がいるのかもしれない……」


 翼が口に手をあてる。


「やっぱり、中の状況が、知りたいな……」


 葵が手を真っすぐに上げたのを、優樹菜は見た。


「何やってるの?」


 問いかけると、葵は「え!?」と、目を丸くした。


「わかんない?“あたしが見に行く!”のアピール!」


 葵は自信満々にそう言ったが、3人の反応は、薄かった。


「え!?だめ!?」


 葵が慌てたように、手を下ろす。


「いや、確かに、何かあったら、こっちに戻って来れるし、適役だなって思うけど……」


「あおちゃん、元気だからなあ」


 優樹菜の言葉に、翼が苦笑しつつ続いた。


「“みはらし”に通ってる子たちは、みんな、色んな事情を抱えてるから、大人しい子が多いんだよね。それに、男の人に銃を向けられた状況なら、尚更静かだと思うし」


 優樹菜は翼を見た。翼もかつて、“みはらし”に通っていたことがあるのだ。


 葵は「ああ、そっか」と納得した後、「でもさ」と、すぐに声を上げた。


「勇人のそばにいたら、そんなに違和感なくない?」


「いや、違和感だらけよ」


 優樹菜は即答した。勇人と葵の並びは、どう考えても不釣り合いだ。


「だって、勇人も勇人で、状況理解してるだろうし、落ち着いてるから、何か、こういうこと慣れてそうな2人ってことにできそうじゃない?」


「それはマズいでしょ。怪しまれることになるんだから」


 優樹菜の言葉に、葵は最早、動じない。


「あー、もう、分かったよー!なるべく大人しくしてるから!指示してくれたら、ちゃんとその通り動くし!」


 葵は右耳につけた通信機を指さす。


 優樹菜は妹をじっと見つめた。この子が“ちゃんとやる”ところを、いまいち想像できない。だが、向こうで何が起こるか分からない。何かあった時、こちら側にすぐに連絡を取る手段として、葵の瞬間移動は良い方法だ。


「わかった」


 優樹菜はゆっくりと頷いた。


「葵、行って」


 葵の顔がぱっと輝いた。


「うん!もちろん!」


 ※


「暑くないかい?」


 新一に尋ねられ、蒼太は顔を上げた。


 見ると、新一の目はいつもと変わらず、穏やかなままだ。


 蒼太は声に出さずに頷いた。


「災難な目に遭ったね」


 新一は苦笑いを浮かべた。


「お昼までには帰りたいなあ」


 その能天気な口調に反応したのは蒼太だけではなかった。


「おい!余計なこと、話すなよ」


 無線に向かって話しかけていた男が、いきなり振り返った。


 新一が「すみません」と穏やかな声で頷くと、背を向け、苛立ったように、トランシーバーに向かって何かを言った。


 銀行員たちは固まってしまったように、座っている。


 蒼太はシャッターに目を向け、「今、何時なんだろ……?」と思った。


 見上げられる範囲に、時計は見当たらない。


(気になるけど、携帯見たら、怒られそう……)


 荷物は男によって回収されず、蒼太はスマートフォンも、鞄に入ったままだった。


(ほんと、何がしたいんだろう、この人……)


 時間が経てば経つほど、銃を持ったまま無線にしきりに話しかけている男への謎が深まって行く。


 不意に、蒼太の耳に、そっと、手が触れた。


「ごめんね」


 新一だった。


 蒼太が「あ……」と声を上げた時には、蒼太が左耳に付けていた通信機は、新一の手の中にあった。


 新一は「ちょっと借りるね」と、蒼太に笑いかけると、手を後ろで組み、カウンターに通信機をコンコンと打ち当て始めた。


 蒼太が「え……?」と、その動きを見るも、新一は何も説明せず、リズムを刻むように、その動きを繰り返した。

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