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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第4章
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July Story5

銀行強盗のはずなのに、金庫に向かわない───?

犯人の狙いは一体?

 蒼太は新一の隣に、身を隠すようにして座っていた。


 新一の向こう側には、銀行員が三人、並んで座っている。男性一人、女性が二人だ。三人は、瞳の色から判断して、非異能力者のようだった。


 女性の内の一人───シャッターを閉めるように指示された、茶髪の女性は、「ごめんなさい……」と、唇を噛みしめた。


「私の判断が、もう少し早かったら……」


「そんなことはないよ」


 黒い髪をワックスで固めている中年の男性は、女性の肩に、そっと手を触れた。


「突然のことだったんだ。それに、通報をして、良い結果になっていたとは限らない」


 もう一人の、眼鏡をかけた女性が「そうですよ」と、小声で頷いた。


 蒼太を含めた5人はカウンターを背にして、横並びに座らされた。


 そうさせた男は今、蒼太たちに背を向けて、無線機に向かい、何かを語り掛けている。


 蒼太は冷や汗をかいた身体を、震わせた。



「───あの」



 声を上げ、片手を上げた者がいた。


 新一だった。真っすぐに、振り返った男を見つめている。


「一つ、良いですか?」


 男が目を細めるのを、蒼太は見た。


「何だ?」


「あなたは、強盗が目的ですか?」


 新一は手を下ろし、平然とそう問いかけた。


 男の目が、更に鋭くなる。


「───あ?」


「いや、お金が目的なら、何故、すぐに金庫に行こうとしないんだろうと思ったんですよ。それに、あなたは大きなバッグを持っていない。目的は、お金じゃないのかと思ったんです」


 新一の饒舌ぷりに、銀行員三人は目を丸くし、蒼太は「たしかに……」と心の中で呟いて、男を見た。


 男は気が立ったように、「うるせえ!」と怒鳴り声を上げた。


「俺の目的を、お前らに教える必要はねえ。黙って座ってろ」


 言われた通り、新一はカウンターに背を付け、その後は何も言わなかった。


 蒼太は男を見つめ、「だとしたら……」と想像する。


(この人は、何で銃を持って、銀行で立てこもってるんだろう……?)


 ※


 すみれは壁に額を付け、目を閉じた。


 手首を後ろに固定されてしまっては、何もできない。


 15人は突如現れた男によって、拘束された。


 銃を持った男は15人を見回している。


(でも……、何かしなきゃ)


 すみれは思考を巡らせた。


(子どもたちも、同じような目に遭ってるんだから……)


 唇を噛みしめ、男が言った言葉を思い出す。


「あっちでも、俺の仲間が同じことをやってる」


 あっち───施設であることを、疑う余地は既になかった。


(私たちが何かすれば、子どもたちに危害がいくって、こいつは言った)


 すみれの頭に浮かぶのは、自分がカウンセリングを担当している子どもたちの顔だ。皆、すみれにとって、大切な存在だ。その子たちのことを思うと、下手な動きはできない。


(それに……)


 きつく、すみれは目を閉じる。


(……勇人が、あの中にいる)


 亡き姉───さくらの長男。すみれは今日、甥と会う約束をしていた。すみれにとって、どの子どもたちよりも、大切で、一番に守るべき存在───それは何にも代えられない。


 勇人のことを考えた時、すみれは「あ……」と、誰にも聞こえないほど、小さな声を上げた。


(……頼っても、いいかな)


 自分の心に、すみれはそう問いかける。


(それで、助けられるなら……)


 答えはすぐに返ってきた。


 すみれは頭を下に向け、白衣の襟に口を寄せた。


 ※


 優樹菜の元に電話が掛かってきたのは、時刻が10時50分になった時だった。


 着信音に、優樹菜は机に置いていた携帯電話を手に取った。


 画面には、逢瀬高校の理科教員───河井 英二えいじの名前が表示されていた。


(河井先生……?)


 番号は交換し合っているのだが、今まで電話で話したことは一度もなかった。


「もしもし?」


 呼びかけると、「ああ、中野さん」という声が返って来た。


「突然、申し訳ないです。今、お話できますか?」


 いつも通りの、緊張感のない声に、優樹菜は頷いた。


「はい、大丈夫です」


「あまりに突然で、僕も驚いているんですが」


 英二はそうは思えない口調で話を切り出した。


「先程、妻から連絡があったんです。いや、メッセージというべきなのかな」


 優樹菜はその声に耳を傾けた。


「僕と妻は特殊な連絡方法を用いていまして」


「ああ、前に、すみれ先生に教えてもらいました。通信機みたいなやつですよね?」


 優樹菜は河井すみれに以前、見せてもらったピンマイクの形状をした機械を思い出した。そのマイクに向かって小声で話しかけると、機械が音声を聴きとり、設定されたデバイスにメッセージが表示されるという仕組みらしい。河井夫妻の場合、二人はお互いにこの機械を持ち歩いていて、お互いのスマートフォンに伝達されるよう、設定しているそうだ。


「そうです、そうです。僕のスマホに、妻からのメッセージが、たった今、届いたんです」


「どういうものだったんですか?」


 優樹菜は落ち着いた口調で、ノートを引き寄せ、ペンを握った。自分にこうして連絡をしてきたということは、“ASSASSIN”に関する情報なのだろうと悟ったのだ。


「ゆっくり、言いますね」


 英二言った通り、直後、話すスピードを落とした。


「今から、読み上げます。───私は”みはらし“の事務所にいる。そこで職員全員、14人と一緒に、銃を持った男に拘束されている」


 優樹菜は目を見張った。ペンを握った手に力が入る。


「今、全員無事。だけど、施設の方には子どもたちが同じような目に遭っているみたい」


 優樹菜はその情報に、動揺を感じながら、英二の言葉通り、ノートに走り書きをした。


 正面に座った葵の目が、優樹菜に向く。


「警察を呼んだら、子どもたちに危害を加えると脅された」


 英二はそこで一息吐き、こう言った。


「だから、私は何もできない。けど、中に、勇人がいる」


「えっ……?」


 優樹菜は声を上げた。


(矢橋くんが……?)


「中の状況がどうなっているか分からないけど、“ASSASSIN”を呼んで欲しい───以上です」


 英二はそこでふうと、息を吐きだし、


「物騒なことが起きるものですねえ……」


 と、呟くような声で言った。


「先生」


 優樹菜は即座に考えを纏め、英二を呼んだ。ここで迷っている暇はない。


「はい?」


「こっちに来てもらっても良いですか?“ASSASSIN”の本拠地です」


 すると、英二が「ふふ」と小さく笑った。


「今、向かっているところです」


 優樹菜は「流石」と思ったが、口には出さず、


「今から、メンバーに伝えます」


 電話を切った。


「どうしたの?優樹菜」


 葵が首を傾けていた。


 優樹菜は、葵、翼、光の三人に向かって言った。


「緊急の依頼がきた」

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