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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第3章
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June Story26

五十四奏多の本名が、ついに、明らかに───。

 五十四奏多の本名は───池逹(いけだち)準夜(じゅんや)


 奈須琉輝からその名を聞き、一夜明けてから、メンバーたちは、その姿を辿った。


「───出た」


 翼の声に、蒼太は画面に映った、写真を見た。


 ウェーブのかかった栗色の髪に、薄紫色の瞳をした男性が、そこにいた。


 その目は何処か虚ろで、頬は骨ばっている。幽霊のような真っ白な肌は見るからに、不健康そうだった。


 一方、その肩書に似合わず、池逹準夜は微笑していた。それが尚更、この男の存在を不気味なものに変えている───そんな気がした。


「年齢は、30歳」


 翼が表示された生年月日から、年齢を割り出した。


「五十四奏多とは、似ても似つかない……」


 優樹菜が呟くように言った。


「ですけど───」


 翼は画面をスクロールし、優樹菜を振り返った。


「能力は、一致しています」


 5人が一斉に見た先には、文字が浮かんでいる。


『能力詳細:能力者の血を吸うことで、その者が持つ能力を手に入れることができる───』


「周りに、姿が見えない、声が聞こえないっていうのは、人から奪った力によって、できたことだったんですね」


 翼の言葉に、優樹菜がゆっくりと頷いた。


 その可能性を、5人は昨日、15人の能力者を調べた時、思いつくことができていなかった。


 蒼太は考える。あの時、すでに15人の中に、池逹準夜は存在していたのだと。目にしていたはずなのに、あの時は気にも留めていなかったということ───寒気がして、蒼太は小さく肩を震わせた。


「今まで、何人くらいの人たちの能力、奪ってきたんだろ……」


 葵が、呟くように言って、腕を組む。


「そうだね……。できることなら、五十四に能力を使われた人たちを調べておきたいところだけど、時間がないな……」


 翼が、時計を見上げる。


「……待って……」


 その、微かな声に、蒼太は、目を向けた。


「優樹菜?」


 葵がその肩に手を触れる。


「いや……、ごめん。私……今から、変なこと言うかもしれない、けど───」


 優樹菜は視線を動かし、4人を、それぞれ見つめた。


 蒼太は優樹菜が大きく動揺しているのを感じ取った。


 翼が何か口を開きかけた時、優樹菜は声を震わせて、こう言った。


「……矢橋くんが、過去に池逹に襲われたってこと、ない……?」


 ※


 優樹菜は屋上の扉を、勢いよく開けた。


 あまりに力と速さを込めたため、つんのめりそうになったが、何とか堪え、急ぎ足で裏に回った。


「矢橋くん」


 優樹菜は呼びかけながら、勇人に向かって携帯電話の画面を向けた。


 息が切れて、心臓が飛び出しそうになりながらも、優樹菜はこう問いかけた。


「こいつ───知ってる?」


 勇人の目が池逹準夜に向かい、すぐに逸れた。


 優樹菜はその反応に、確信を持った。


「知ってるんだよね?」


 勇人に近づき、重ねて尋ねる。


「この男に、昔、会ったことあるんだよね?」


 この男───池逹準夜。


 今、子供の姿で、五十四奏多を名乗り、勇人の命を狙っている男。


 優樹菜は奏多にビル群で拘束された時のことを思い出していた。


 その時、奏多は別れ際、その場から、姿を消した。


 その様子は───今思い返して見ると、勇人が能力を使った時と、全く同じだった。


 勇人の視線は逸れたままだ。


 優樹菜はここで躊躇っている場合ではないと、勇人の制服の袖を掴んだ。


「ねえ、聞いて。この池逹準夜は、今、五十四奏多っていう偽名で、子供の姿をしてるの。黒髪で、真っ黒い目をしてて、身長は中学生くらい。もし、そいつを見かけても、絶対に相手にしないで。こいつ───」


 優樹菜は勇人を見つめ、息苦しさを感じながらも、はっきりとこう言い切った。


「矢橋くんのこと、狙ってる」


 数秒して、勇人が首を動かした。


「───だとして何だよ」


 放たれたその声に、優樹菜は、言葉を失った。


 勇人が優樹菜の手を振り払うように、手首を下げる。


 優樹菜は自分のよりも細くて綺麗なのではないかと思うほど、白くて長い、勇人の指先を見た。


「……何だよって、何」



 そのまま───自覚がないまま、優樹菜の口は言葉を話した。


「だとしてって何?そのまんまの意味だよ、分かんない?」


 優樹菜は顔を上げた。


 怒りで、勇人のことを突き飛ばしてやりたくなった。そうすることで、勇人に自分の言葉を納得させられるのなら、そうしたって良いと思えただろう。


「何で、分からないの?どうして分かろうとしないの?みんなとか、お父さんとか、周りの人の気持ち考

 えてよ」


 優樹菜の頭に浮かんだのは、矢橋亮助が言った自分への感謝の言葉、メンバーが五十四奏多について調べることに奮闘してくれたこと、和田琉輝が動いてくれた時、蒼太に誓った約束────全て、忘れてはならない、思い出だ。


 そこには全て、勇人に対する気持ちがある。


 優樹菜は大きく息を吸い、少しでも冷静になろうとした。


「……自分の命、軽いものだなんて思わないで。それ、間違ってるから」


 もう、勇人と優樹菜の目は合っていない。構わず、優樹菜は続けた。


「生きてる意味が感じられないんだったとしも、死なないで。それでも───適当でも、生きてみようって思ってよ。それで……矢橋くんが生きててくれることで、救われてる人、いっぱいいるんだよ」


 その時、予鈴が鳴った。


 昼休み終了間際を知らせる鐘だ。


 優樹菜は振り返り、視線を戻して、勇人を見つめた。


「お願いだから───生きてね」


 優樹菜はその目に、語り掛けた。


 そして、まだ、他に何か言えることはあったのではないかと思いながら、背を向けた。


 その一方で、優樹菜の中にある、勇人を助けたいと思う気持ちは、未だ、一時も揺らいではいなかった。

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