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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第3章
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June Story22

優樹菜との交渉の前日。奏多のもとを訪れた人物かいた───。

 奏多は中野優樹菜と別れた後、基地へと戻った。


 いつも通り、1階から階段で地下へと向かう。


その間、頭の中に浮かんでいたのは、昨日、中野優樹菜の後を付け、彼女と言葉を交わした帰りに、こうして、この階段を下っていた時のことだ。


 その時、奏多は、室内に、孝太郎以外の人物の気配を感じて、大きく、息を吐きだした。


 ドアを開け、中に入り、来訪者と目を合わせ、笑みを浮かべた。


「お久しぶりです。クラリス」


「───あーあ、待ちくたびれた。どこ行ってたの?」


 来訪者は、奏多がいつも座るソファに座っていた。その後ろに孝太郎が立っている。


「少し、町の方へ。いかがなさいましたか」


 奏多は前に進み、問いかけた。


「深ちゃん、死んだんだってねー」


 孝太郎が目で、奏多に頷きかけてきた。


 奏多は「はい」と答えた。


「尾身さんが捕まったので、不要だろうと思い、処分しました」


「奏多くんさー」


 来訪者は奏多を呼んだ。


「何か、やろうとしてる?」


 奏多は表情を変えなかった。


「何か、とは、具体的に何でしょうか」


「それをこっちが聞きたいんだよ~。思い当たる節、ないの?」


 来訪者は先ほどからずっと、左手で右手の爪を繰り返し触っている。


「さあ。浮かびませんね」


 奏多は答えた。


「嘘つき」


 来訪者は笑った。


「最近、“ASSASSIN”のこと嗅ぎまわってるらしいじゃーん」


 孝太郎は真っすぐ、奏多を見つめている。


 奏多は、来訪者から目を逸らさなかった。


「駄目ですか?」


「言ったよね。“ASSASSIN”には手を出すなって」


 奏多は「ああ」とわざと大げさなリアクションをした。


「そういうことですか。ご安心を。僕は“ASSASSIN”に危害を加えるつもりはありません」


「だったら、何が目的なの?」


 来訪者の目が鋭くなった。


「クラリスは、何故、“ASSASSIN”のことを擁護しようとするんですか?」


 奏多は穏やかに問いかけた。


「話、逸らしたね。奏多くんのそういうとこ、嫌い」


「すみません。───ですが、これは、ボスから教えられたことなんです。お前の武器は言葉だ、と」


 来訪者は奏多を“気に入らない”という目で見つめた後、息を吐きだした。


「……理由は教えない。けど、別に“ASSASSIN”に思い入れがあるわけじゃないとは言っておく。───いっそ、解散してなくなればいいのにって、思ってるくらい」


 奏多は黙ったまま、一つ、頷いた。


「奏多くん、あなたは優秀だよ。優秀すぎて周りが霞むくらい」


「ありがとうございます」


 奏多は頭を下げた。


 視線を上げると、来訪者が、じっと、自分のことを見つめていた。


「だからって信頼してるわけじゃないよ」


「分かっていますよ。僕は信頼とは程遠い人間です。十分、自覚しています」


「じゃあ───もう一度聞こうか。目的は何?」


 奏多は微笑み、即座に答えた。


「深瀬の話で、尾身さんが“ASSASSIN”に捕まるところを見たというのがあったんです。その場所が、ここに近いところだったっていうことも。それで、“ASSASSIN”が次にどう動くのか調べておこうと思い、数日前に、少しばかり、調査を行っていました」


 そして「もし怪しいなら」と先手を切る。


「この先、一週間、僕の行動を監視して頂いて構いません」


 孝太郎の目の色が変わった。


 奏多は来訪者に感づかれないよう素早く視線を向け、目で“大丈夫”と伝えた。


 来訪人は奏多の額に穴が開くほど、強い視線を寄越した。


 やがて、その目を保ったまま、


「わかった。───そうする」


 と、言った。


「場合によっては───分かるよね?」


「はい。重々承知しているつもりです」


 しばし、奏多と来訪者の視線がぶつかり合った。


 互いに、瞳に写す色は違えど、迷いない、強い意志があるのに変わりなかった。


 先に、来訪者が逸らした。


「帰る」


 ぼそりと言って、来訪者は立ち上がった。


「お送りしましょうか」


「いらない」


 奏多の申し出をきっぱりと断り、来訪者は部屋を横切っていく。


「じゃあね」


 背を向けたまま、ひらりと片手を上げ、部屋を出て行った。


 孝太郎が深く、息を吐く音に、奏多は振り返った。


「いつからいたの?」


 足音が遠のいていくのを確認してから、ドアの方を指すと、


「2時間前くらいからだ」


 孝太郎が答えた。


「僕のこと、ずっと待っててくれたって?」


「入ってくるなり、奏多はどこに行ったんだって、恐ろしい目をしていた」


「へえ」


 奏多は声を上げた。


「あの人にしちゃ、珍しいね」


 言いながら、冷蔵庫へと向かう。部屋の隙間にすっぽりと収まる小型の冷蔵庫を開け、ペットボトルを手に取った。


「ところで、あれはどういうつもりだ?」


 孝太郎は奏多から目を離さない。


「あれって?」


 奏多はペットボトルの蓋を開け、飲料水を一口、口に運んだ。


「一週間、監視しても良いって。お前のことだから何か策があるんだろ」


 水を呑みこみ、奏多は「流石」と笑った。


「察しが良いね」


 孝太郎に対し、中野優樹菜との交渉の話を伝えると、彼はこう言った。


「監視されながら、殺しの計画を立てるのか」


 こういう時の孝太郎は鈍い───そう感じながら、奏多は「違うよ」と首を振った。


「計画なんて、とっくにできあがってる。この期間でやることは───そうだね、計画の修正、かな。これは、僕にとって、人生で最後の殺しになるだろうからね。念には、念を入れたいんだよ」


 孝太郎の身体が緊張するのを、奏多は感じとった。


「お前……奏多、本当にそれでいいのか」


「だって」


 奏多は孝太郎の危惧を笑い飛ばした。


「僕らだって、いつかは死ぬんだ。僕は自分の人生を後悔しないために、この選択をした。誰かのためじゃなく、自分のために殺しをしたいんだよ。そのために死ぬことになったとしても、それで良い。むしろ本望だよ」


 奏多は孝太郎の目が動かないのを見て、話を続けた。


「僕が死んでも、君は責任を問われない。だって、今回のことで僕に協力してないし、何より、今までの功績があるからね」


 奏多は口元だけで微笑してみせた。


「君にはたくさん世話になった。間違いなく、そう言える。だけどね、孝太郎、この世界には、優秀な殺し屋がたくさんいるんだ。そのうちの誰かが、今後、君と組むことになる。君には、僕じゃなくても、いいはずだよ」


 そう言って、ペットボトルを元の場所にしまおうと、視線を逸らす。


「……俺は、お前と、最後まで一緒にやりたかった」


 孝太郎が、呟く声が、聴こえた。

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