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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第3章
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June Story14

五十四VS優樹菜。

戦いの幕が上がる───。

 優樹菜は絶対に相手にこれ以上、動揺を見せたくなかった。


 自分が相手より弱いと認めることだけは何があってもしたくなかった。


 何も怯えてなどいない、既に予想してあったことだ。それが事実でないにしろ、そうだったと装うことがこの場合、正しい行いなのだ。


 だから───、優樹菜はそれを行った。


 “ASSASSIN”のメンバーとして相応しい態度を相手に示した。


 強気な視線で相手と向き合い、敵対視を露わにする。


 一方、相手は、それが視界にさえ入らないとでも言うように、


「君は中野優樹菜───だよね?」


 優樹菜の名を口にした。


 これほどまでに名前を呼ばれたことに動揺したのは、生まれて初めてだった。 


(どこで知ったの……?……どうやって調べたの……?)


 “ASSASSIN”に関する情報は強力なセキュリティによって守られている。


 どんなハッキング能力を持った人間でも、その壁を打ち破ることは不可能だ。優樹菜は以前にそれを証明する光景を目にしたことがあった。


 それに加え、メンバーたちは自分が“ASSASSIN”であることを、家族にも話さないようにしようと決めていた。それが例外なのは“ASSASSIN”と繋がる部署で働く親を持った優樹菜と葵、そして、勇人だけだ。


 つまりそれは───言葉で伝えない限り、知られることはないということだ。


 一体、この殺し屋はどんな方法を用いたのだろうか。


 そう思った時───ふっと小さく笑う声がした。

「“何で私の名前知ってるの”って顔」


 殺し屋は、囁くように言った。


(見透かされてる……)


 優樹菜の体は意識せずに反応した。


「いいよ、教えてあげる」


 一方的に、少年はこう切り出した。


「仲間から聞いたでしょ?専用所前のバス停で殺し屋に出くわしたって話」


(……何で……?)


 優樹菜は終に動揺を隠しきれなくなった。


(どうして、知ってるの……?)


 確かに、優樹菜はその話を聞いていた。


 昨日、いつも通りメンバーが集まるオフィスに入った優樹菜は蒼太からこんな話を聞いた。


「さっき、専用所で先輩とバス待ってた時、中学生くらいの人に、声掛けられたんですけど……」


 その時、翼は席を外していた。


「その人、殺し屋なんじゃないかって思って、ぼくたち、駅で降りて、あの……奈須琉輝さんのところで調べて貰ったんです。そうしたら……やっぱりそうで……」


「おじさんのとこに連絡したら、“子供の殺し屋は危ないからこっちで調べる”って言われたー」


 葵がその後に告いだ。


 優樹菜はそれに対し、「それなら任せた方がいいね」と、同調し、それ以上深くは訊こうとしなかった。───それを今、後悔することになるとは思いもよらずに。


「そう」


 少年は優樹菜の心の中の声と対話するかのように頷いた。


「それが僕───五十四奏多」


 少年───五十四奏多は、何がそんなに楽しいのかと尋ねたくなるほど、笑顔だった。


「君の仲間の一人に、発信機と盗聴器を付けたんだ。僕の知り合いに、機械の専門家がいて、どちらもそいつが作ったレアもの。どういう仕組みか知らないけど、離れた場所から操作できて、一つの個体から複数に分離して、取り付けた人間の周りにいる人間の体にも付けることができるんだ」


 子供の声で饒舌に話す姿はとても薄気味悪く見えた。その何の悪意も感じていないという空気が優樹菜を追い込んでいく。


「つまり、君の仲間一人から、君を含めた他のメンバーにも同じことができるってこと」


 それを聞いた瞬間。優樹菜の背筋に激しい悪寒が走った。


(……それって……、つまり……)


 更に追い込むように、奏多は続けた。


「だからそうさせてもらったよ。君の後を付けることができたのも、名前を知ってたのも、君が聞いた話を知ってたのも、全部、発信機と盗聴器があったから」


 優樹菜は耳を塞ぎたくなった。


 一日の行動や言動を監視されていたのだ。それが自分自身だけではなく、メンバーや自分と会話を交わした人たちも同じ立場だと思うと、耐えられないような気持になる。


「まあ、ここまで長く話しといてなんだけど」 


 不意に───、奏多が無機質な口調になった。


「僕の目的は君たち“ASSASSIN”の行動を監視したいわけでも、危害を加えたいわけでもないんだよね」


(……は……?)


 優樹菜は、唖然とした。


「……どういうこと……?」


 こうして声を出して話すのを久しくしていないような感覚で、優樹菜は口を開く。


(だったら……、何が目的なの……?)


「だから、何度も言うように、僕は君が大人しくしてくれたら君には何もしない。僕の目的は君でも、“ASSASSIN”でもない。───ただ、君が必要なんだよ。目的を果たすために」


(何なの……?何が言いたいの……?)


 優樹菜は眩暈を感じた。


 この子供の殺し屋は何処まで自分を追い込み、惑わせれば気が済むのだろう。


「あなたの言ってること、まるで分からない」


 優樹菜の口を出たのは掠れた声の、そんな言葉だった。


「回りくどい説明をするのは僕の癖なんだよ」


 不機嫌な恋人を説得するかのような口調で奏多は答えた。


「だけど、君は嫌いみたいだね。良いよ。僕の目的を教えてあげる」


 奏多はそこで声のトーンを抑え、


「僕は“ある人”のことを君に教えて貰いたいんだ。───君たちの会話を聞いて分かったことがある。昨日、集まっていたのは君を含めた5人」


 囁くように語り出した。


「僕は会話を断片的に聞いて、“ASSASSIN”のメンバーは5人なんだと推測した。けど───」


 優樹菜は、小さく息を呑んだ。


「違ったんだ。もう1人、いるよね」


 奏多の目は狂気を宿していた。その目を見て優樹菜は、大きな恐怖を感じた。


「驚いたよ。まさか、“ASSASSIN”のメンバーだったなんて」


 不意に、奏多は視線を下に向けて笑った。それは優樹菜に対してではなく、6人目の“彼”に向けて語り掛けているような口調だった。


「僕の目的は───君たちの仲間」


 そして殺し屋は“彼”の名を優樹菜に告げる。


「矢橋勇人」

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