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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第3章
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June Story10

優樹菜の親友の存在と、その親友からの、突然の問いかけ───。

「ゆきー」


 呼ばれて優樹菜は顔を上げた。


 思っていた通り、席に近づいてきたのは角元(かどもと)(あかね)だった。


「なに?」と問うと、茜は、


「トイレ行かない?」


 と、優樹菜を誘った。


 優樹菜はチラリと教室の時計を確認する。昼休みは始まったばかりで、戻ってから昼食をとる時間はしっかりと確保できそうだった。


「良いよ、行こう」


 優樹菜は茜と教室を出た。


「……って言っても、化粧でしょ?」


 廊下に出てすぐ、茜の手に黒いポーチがあることに優樹菜は気が付いた。


「さっき授業中寝ちゃってさー、顔崩れちゃったんだよねー」


 茜が目を擦りながら答える。


「バイト大変なのは分かるけど、成績だけは私も助けてあげられないから、家でちゃんと寝なさいね」


「んー、頑張る」


 優樹菜の言葉に、眠そうな声で頷く茜。彼女はほぼ毎日町内のコンビニエンスストアでアルバイトをし、夜9時頃に帰宅した後は夜中まで起きているらしい。


 優樹菜はそれにより、授業中居眠りが増え、茜の成績が下がるのではないかと心配していた。


「学校行って、それからバイトして、それで1日過ぎるのもったいないなって」


 以前、優樹菜が「遅くまで起きている理由」を尋ねると茜はこう答えた。


「家帰って、“趣味に時間使わなきゃ”って気持ちになって、いつまでも起きちゃうの」


 優樹菜は茜のその言葉を100%まで理解することはできなかった。


(私も学校に行って、それから本拠地に行く、そして帰ってご飯食べて、お風呂入って、家族と話して、寝る───それで一日が無駄になってるって思ったことは無い)


 ただ、それは人それぞれの考えであり、茜に自分の生活を押し付けることはしてはいけないことだという考えに優樹菜は至った。


 女子トイレは、職員室の向かい側に位置していた。


 茜がトイレのドアを開け、優樹菜も中に入るのに続こうとした───その時。


 職員室から顔見知りの生徒が廊下に出てくるのが見えた。


 優樹菜は「あっ」と思うも、体の半分以上が既に中に入っていたため、目の前を通り過ぎていく彼を引き留めることはできなかった。


「ん?誰かいたの?」


 茜に問われ、優樹菜はドアを閉めて「うん」と頷いた。


「矢橋くん。今、ちょうど職員室から出てきたの見えて」


「ああ、なるほどね」


 茜は洗面台の前に掛けられた鏡越しに自らの顔を見つめていた。


 後ろからその姿を見て、優樹菜は「本当に真逆」と心の中で呟く。


(私と、茜)


 髪を茶色に染め、毎日濃い化粧で登校し、制服に関しては、シャツは第二ボタンまでを開け、スカート丈は膝より上───この学校に「一応ある」と言われる校則を完全に無視した見た目をしているのだ。


 茜の隣に立ち、横目で正面の鏡を見ると、きっちりと校則を守った格好をしている、桃色の髪をした女子高生の姿がある。


「ゆきはさ、メイクとか興味ないの?」


 茜が睫毛にマスカラを塗りながら尋ねてきた。


 優樹菜は「うーん……」と言葉を探し、


「ないわけじゃないけど、時間もお金もかかることだから、今は別にやる必要ないかなって」


 と、答えた。


「たしかにね、それはそうだわ」


 茜は頷いた後、「あたしはさ」とポーチを探りながら言った。


「社会に出たら嫌でも毎日清潔な恰好して外出なきゃならないでしょ?こんな派手な見た目楽しめるうちに楽しみたいなって思うからやってる」


「そう、なんだ。そういう考えね」


 優樹菜は茜の言葉に完全には共感できずとも、深く感心した。


 茜は一見、近寄りがたく気が強そうだが、内面はしっかりと自分を持っていて、他人に深く思いやりがあることを優樹菜は知っている。入学当初、クラスに馴染めずにいた優樹菜に最初に声を掛けてくれたクラスメイトが彼女であった。


「そういえば」


 ポーチのファスナーを閉めた茜が優樹菜を向く。


「ゆきと矢橋くんって、付き合い長いんだっけ?」


 茜が唐突に話題を変えるのは良くあることだが、勇人の名前が出たことに優樹菜は驚いた。


(茜から矢橋くんのこと訊かれること、今までになかった……)


「そうだけど……、どうして?」


 問いかけると、茜は「矢橋くん」と、クラスメイトの1人に対する印象を述べ始めた。


「ゆき以外の人と話してるとこ、見たことないから」


 そこで茜は声を少しだけ抑え、


「こんなこと言ったら悪いけど、“周りのことどうでもいい”って思ってそうに見えるんだよね、矢橋くんって。だから、自分から他人と関わらないし、周りも“そういうことか”って離れてる気がする」


 と、言った。


 それは、的を射すぎていた。


 優樹菜はそれが自分以外のクラスメイトの大半が感じているものだということを察し、「そう……、だね」と、答えるしかなかった。否定するに相応しい根拠が、見つからなかったのだ。


「ゆきといる時はどうなの?矢橋くん」


「え、どうって……」


 続いて質問され、優樹菜は更に戸惑った。


(何でそんなに矢橋くんのこと気になってるの?茜……)


「別に……、私から話しかけないと話さないし、私だからってどうこうはないと思うよ」


 質問の意図が分からないまま答えると、茜は「ふーん……」と、何処か憂い気に頷いた。


「な、なんでそんな矢橋くんのこと訊くの?何か、きっかけでもあった?」


 茜の反応に優樹菜は思わず、率直に尋ねた。


 すると、茜はじっと、優樹菜を見つめ、「だって……」と、口を開いた。


 その時、ドアが開き、女子生徒が中に入ってきた。その子の後ろに、2人いる。


 鏡の前にいる2人を見て、「あっ」と顔をし、廊下に戻ろうとした仲良し3人組を、茜は「ああ、待って」と、引き留めた。


「あたしたち、終わったから、良いよ。───行こ、ゆき」


 自らと同じような格好をした3人組とすれ違う茜の後を、優樹菜は追った。


 そうして廊下に出て、教室まで戻るまでの間、茜は「お昼食べ終わったらさっきの授業のノート見せて欲しい」と、頼んできた。


 どうやら話題は今度、2人きりになった時に持ち越されたようで、優樹菜は何処かほっとした気持ちで、「良いよ」と、頷いた。

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