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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第2章
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Ⅿay Story13

殺し屋への、切ない真相の取調が、始まる。

「佐藤学さん」


 翼が呼びかけると、自首した殺し屋は目線を上げた。監視カメラの映像で確認した時と、全く同じ顔をしている。


 警察の捜査により、佐藤学が水野道正を殺害したと証明された後、˝ASSASSIN˝による、取り調べが行われることになった。


「あなたの取り調べを担当する、˝ASSASSIN˝の、萩原翼です」


 蒼太は続いて自己紹介はせず、翼と同時に頭を下げた。


「˝ASSASSIN˝……?」


 佐藤の目の色が変わった。驚いているようだ。


「聞き覚え、ありませんか?僕の名前」


 翼が佐藤の正面に腰を下ろす。


「……ああ、あるよ」


 佐藤は少しの間の後、頷いた。


「今から、いくつか質問をします。今から、会話の内容は録音されます。その内容によって、あなたの刑期が決まります」


「刑期……死ぬまでの日数ってことか?」


「はい。詳細は、今の時点では説明できませんが、佐藤さんにとって不利な証言が出たからと言って、刑期が短くなるとは限りません。……では、早速、始めます。あなたは水野道正さんを殺害したと、自首されましたが、何故、水野さんを殺害したんですか?」


 佐藤は目を逸らし、ぽつりと言った。


「雇い主からの指令だ」


「その、雇い主が水野さんを殺すように依頼した理由を、知っていますか?」


「˝もう、あいつは必要無い˝と、そう言われた。俺は、その時になって水野の存在を知ったが、同じ雇い主に雇われていた者同士だったらしい。いらなくなったからお前が殺せと金を渡された」


「なるほど。……次に、あなたが今まで殺害した人数を教えてください」


 蒼太は佐藤の回答をメモし終え、佐藤を見る。


 佐藤は即答で「6人だ」と答えた。


「それは、それぞれ同じ雇い主の指示によって、ですか?」


「いや、違う。6人とも、別人だ」


「では、今回の雇い主について、詳しく知っていますか?」


 佐藤は首を横に振った。


「全て、メールでやり取りをしていた」


「メール、ですか」


「だから、顔も名前も、性別さえも知らない」


 翼は「それでは」と真っすぐに、佐藤を見つめた。


「今回の、水野さん殺しの話から逸れて、訊きたいんですが、その雇い主から、中学生の女の子を殺害するように指示されたことに間違いありませんか?」


 翼の問いに佐藤は目を上げて、「ああ」と、頷いた。その、物分かりの良い、すんなりとした受け答えに蒼太は、この佐藤という男が本当に殺し屋なのかと疑いそうになった。


「その時、雇い主はどんな指示をあなたにしましたか?具体的に教えて下さい」


 そこで佐藤は少し考えこんだ後、


「……学校帰り、歩いている時を狙えと言われた。それから、一発で必ず仕留めろ、できなかった場合は逃げろ、と」


(それで、できなかったから、逃げた……)


 蒼太は監視カメラの映像を思い出した。


 あの時、佐藤が光を追いかけなかった理由は雇い主からの指示だったのだ。


「他には?何か、言われませんでしたか?」


 翼が尋ねると、佐藤は翼と目を合わせ、ゆっくりとこう言った。


「襲う時、˝野ヶ崎中の制服。お前……˝」


「˝ASSASSIN˝の萩原翼だな───そう言えと、言われた?」


 佐藤の言葉を翼が継いだ。


「ああ。その通りだ」


 佐藤が目を伏せる。


「その、あなたが襲えと言われた女の子の名前は、雇い主から訊いていましたか?」


「……一度訊いたきりだから、思い出せないが、˝萩原翼˝では無かった」


 佐藤の言葉に蒼太は心の中で「え……?」と声を上げる。


(佐藤は、先輩を狙うところを上村さんと勘違いしたんだよね……?それって、今の話だと、雇い主が、伝える名前を間違えたからってことになる……。でも、そんなことあるのかな……?だって、そうだとしたら、雇い主は上村さんの名前も知ってたってことになる……)


 組織のメンバーである翼の名前が知られているのなら不思議に思うことは無いが、光は関係の無い、普通の女子中学生だ。その光が、人の命を狙うことを頼むような危険人物に何故、名前を知られているのだろう?


 翼はそこについて質問をせず、


「話を水野さんに戻します。もう、警察の方にお話しされたそうですが、もう一度、僕たちにあなたは水

野さんをどこで、どのようにして殺害したのか聞かせてください」


 と、質問した。


「殺害方法は……指示された。空き工場に水野を呼び出してあるから、お前もそこに行け、水野をガスで

眠らせておく、水野の心臓を刺して、死体に細工をしろ、と言われた。……その後、死体を指定の場所に運べと」


「細工に使った道具は?自分で購入したんですか?」


「いや……、それは送るからと言われた。言葉通り、俺の自宅に画用紙と筆が送られてきたんだ」


 蒼太はノートに「画用紙、筆」と記入しながらその組み合わせに「絵を描く道具」という印象を持った。実際にそれらは、口を塞ぐため、顔に血で印を付けるために使われたのだが。


「では……、次に、あなた自身について訊きます」


 翼がそう言うと、佐藤の目の色が僅かに変わった。自分のことを訊かれるとは予想していなかったようだ。


「佐藤さん、あなたは何故、殺し屋になろうと思ったんですか?」


 威圧を全く感じさせない翼の声に、佐藤は俯き、沈黙という反応を見せた。


 答に迷っているようだ。


「……それに答える必要は、あるのか?」


 しばらくして、佐藤がぽつりと言った。


「はい。少なくとも、僕は、あなたに対する質問で一番重要だと考えています」


 佐藤は再び、口を閉ざした。


 蒼太はペンを止め、佐藤を見つめる。


 これまで質問に正確かつ迅速に答えて来た佐藤が、この質問に迷っているのは何故なのだろうか───その答の断片を、蒼太は翼から、聞かされていた。


「……佐藤さん」


 翼が呼ぶと、佐藤は少しだけ顔を上げた。


「言いましたが、あなたの受け答えによって、あなたの刑期が決まります。……それはあなたがどういう理由で殺しを行って来たのかが、大きく影響してくるんです。その理由について僕は、想像に過ぎないのかもしれませんが、考えがあります。それが、もし合っているのだとすれば、あなたの刑期が長くなる可能性があります。ですが、それをあなた自身の口から聞くことが重要なんです」


 目を動かすも、佐藤は答えようとしなかった。


 それは自分が持っている秘密を明かすわけにはならないと、強く思っているように見えた。


 しかし、それは次の翼の言葉で崩れることになった。


「あなたが自供しても、妹さんに害が行くことはありませんよ」


 佐藤が目を上げて、「……本当か……?」と、声を上げる。それは今まで、まるで自分の事を諦めているような脱力した態度とは違った、人間らしい声と、表情だった。


「それと……妹のこと、知ってるのか……?」


 翼は頷き、


「あなたのことを調べたんです。その時に、あなたの本名が蜷川学さんだということを知りました。別の

件で、偶然、妹さんの汐里さんを知って、お話を伺いました。───そこで、あなたがお兄さんであることを汐里さんが教えてくれました」


 佐藤はそれを聞くと、身体の力が抜けたように顔を下に向けた。


「汐里さんは、あなたの帰りをずっと待っていると仰っていました」


「汐里が……?……俺を……?」


 上がった佐藤の顔には驚きと悲しみが混じった色が浮かんでいた。


「汐里さんに、自分のしたことを告白して、会うために───話してください」


 翼の、その言葉がきっかけとなり、佐藤学───蜷川学が殺し屋になった経緯が、自身の口から語られることになった。

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