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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第12章
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February Story5

脅迫音声を送った犯人───その人物像を練るメンバーたちだが───。

 優樹菜と勇人が、崎坂睦月に話を聞きに行き、本拠地でメンバーが合流した後、情報を共有しあった6人は、それぞれの仕事へと移った。


 解決班の3人───勇人、葵、光は、班の仕事へと向かい、残った3人───優樹菜、翼、蒼太は、オフィスで脅迫音声の送り主について捜査を進めることになった。


 優樹菜の提案で、前回の事件と、今回の脅迫音声に関わった人物の詳細をノートに書きだしてまとめることになり、蒼太は、優樹菜が「才加凛子」、「殺し屋」、「謎の人物(脅迫音声の送り主)」と書き込む姿を見つめた。



 才加凛子

 ・“ASSASSIN”に恨みを持っている。

 ・“ASSASSIN”のことを過去に調べていたことがある。

 ・元情報屋。“ASSASSIN”に罪を暴かれたことがきっかけで、“ASSASSIN”のことに踏み込むのはもう御免だと思っていた。

 ・しかし、そんな折、謎の人物(=脅迫音声の送り主)に、“ASSASSIN”について知りたがっている殺し屋がいると聞かされる。

 ・その殺し屋と会った際、大金と引き換えに、"ASSASSIN"のメンバーについて調査してくれないかと頼まれる。

 ・金は欲しいが、自分の手は汚したくないと思っていた時、偶然出会った崎坂睦月を利用することを決める。

 ・現在は警察に逮捕されている。



 殺し屋

 ・組織のメンバーから、“ASSASSIN”のことを調べて来いと命令された下端。

 ・当初、“ASSASSIN”のことを知る才加に直接依頼を持ち掛けたのかと思われたが、謎の人物の仲介があったことが判明(才加より先に、謎の人物と出会い、“ASSASSIN”のことを調査する術を教えてほしいと頼んだ可能性が高い。謎の人物に依頼金を支払った可能性も)。

 ・当初、組織の上司から命じられていたのは、メンバーの情報だけのはずであったが、後に、証拠として、メンバーの死体を持って来いと言われる(自分は“ASSASSIN”と接触する勇気がなく、才加にその話を持ち掛けたが、才加が睦月に罪をなすりつけようとしたことで、睦月が実行犯になりかけた)。

 ・才加が捕まったことを知っているのかなど、現在の消息は不明。



 謎の人物(脅迫音声の送り主)

 ・才加と殺し屋を繋いだ仲介業者。

 ・殺し屋と繋がるルートを持っている(殺し屋の存在を知っている)。

 ・才加とはメールでやり取りをしていた。

 ・才加に、「再び金を稼ぐ気はないか?」と、再犯を示唆。

 ・おそらく、才加と同様、殺し屋から依頼料を受け取る約束をしていたと考えられる。

 ・睦月が入手した“ASSASSIN”の情報は、才加の手からこの人物に渡っていた。

 ・"ASSASSIN"本拠地の所在を知っている。

 ・才加が逮捕されたから2週間。本拠地に脅迫音声を置いて行った。

 ・現在、“ASSASSIN”が所有する、殺し屋の情報が記録されたデータベースを要求している。



 現在、判明している情報を確認しあったところ、以上の事項が書きだされた。


「この、私たちの情報を欲してた殺し屋を捕まえられれば、脅迫音声の送り主に辿り着けるかもしれないけど……」


 優樹菜が、ペンを握った手を耳元に当てながら、ノートを見つめる。


「才加がその殺し屋に関する情報を多く持っていない以上、僕たちが自力で見つけるのは、難しそうですね……」


 翼が、優樹菜の言葉を継ぐ。


「そうだね……。……やっぱり……地道に、この人物について調べていくしかないのかな……」


 優樹菜が、指先で、「謎の人物」の文字を指す。


 蒼太は、優樹菜の人差し指が示す場所を見つめて、「あっ……」と、声を上げた。


「どうかした?」と、優樹菜の瞳が、蒼太を向く。


「これ……参考になるかどうか、分からないんですけど……」


 蒼太は、「ここ……」と、優樹菜の人差し指が置かれた場所の下に、指を向けた。


「才加と、謎の人物がメールでやり取りをしてたってことは……才加の携帯には、まだ、その時のメールアドレスが残ってるんじゃないかなって……」


 蒼太の指先に向いた優樹菜の瞳が、ゆっくりと、見開かれた。


「たしかに……。それが知れたら、こいつの正体に近づけるかも……」


 優樹菜の言葉に、翼が頷く。


「才加の取り調べを担当した警察の担当者に、確認をお願いした方がいいかもしれませんね」


「そうだね。私、行って来る」


 優樹菜が、資料室の電話を使うために立ち上がる。


 蒼太の後ろを通りすぎる時、優樹菜が「ありがとう、蒼太くん」と、肩を叩いてくれた。


 ※


 一方、その頃。


 標的の出現スポットへと向かう解決班の3人の中でもまた、脅迫音声の内容が話題に上がっていた。


「なんか……“ASSASSIN”って、あたしたちが思ってるよりも、色んな人から舐められてるのかな?」


 葵が、半分不満げ、もう半分は不安げな表情で、そう問いかけてきた。


「殺し屋たちは、“ASSASSIN”のこと怖がってることがほとんどなのに、殺し屋以外の犯罪者って……あたしたちのこと、全然怖がってなくない……?」


 葵に見つめられて、光は、「うーん……」と、言葉を濁した。


 ───確かに、そうかもしれないと思った。


 人間は、目に見えないものを恐れる生き物だと、光は思う。


 殺し屋たちの大半は、自分以外の殺し屋が、“ASSASSIN”に捕まったという話を聞き、「いつか自分も同じようになるのではないか」という恐怖心を覚えている。


 しかしそれは、彼らが、“ASSASSIN”の正体を、知らないからだ。“ASSASSIN”のメンバーの正体が、全員、年端のいかない子どもだと知れば、殺し屋たちは、“ASSASSIN”を恐れることなどしないだろう。


 才加凛子や、脅迫音声の送り主は、メンバーの正体を知っている───。


 だからこそ、“ASSASSIN”という名の裏に潜む陰に怯える必要がない……。


「少なくとも……脅迫音声の送り主は、自分に、すごく自信があるタイプなんじゃないかな……?」


 光は、言葉を選びながら答えた。


「自尊心が高くて、自分は誰にも負けないって思ってる……“ASSASSIN”なんていう組織は、自分が脅迫したら、簡単に動くって、思ってるような……」


「───逆だろ」


 その声に───光は、はっとして、言葉を止めた。


「物事全部が自分の思い通りに動くように自惚れた奴が、あんな遠回しな方法、すると思うか」


 自分を見つめた勇人の言葉に、光は、「……たしかに……」と、答えた。


「犯人がそこまでの自信を持っている人物なら……顔を隠して、声も加工して、そのうえ、私たちに直接接触しないような方法で、データベースを渡すよう要求するなんてこと、しない気がする……」


「じゃあ……犯人は、あたしたちのこと下に見てるわけじゃなくて……怖がってるってこと?」


 葵が、首を傾けながら発したその言葉は、脅迫音声の送り主の人物像を探る会話を打ち切るきっかけになった。───いつの間にか、今回の目的地、標的の出現スポットである廃ビルに辿り着いたからだ。


 ※


 午後5時45分。


 6人が合流したオフィスのテーブルには、一枚の紙が置かれていた。


 A4サイズの紙の表面には、中央部分にのみ、横書きの文字が書かれている。



 “nail man @*** mail.com”



 才加凛子に、“ASSASSIN”を追うように依頼した人物───“ASSASSIN”に脅迫音声を送った人物の、メールアドレスである。


「……そのアドレスは、すでに、削除されているみたいです」


 パソコンの画面から顔を上げた翼が、静かな声で言った。


「試しに、メッセージを送ろうと思ったんですけど、駄目でした」


「才加が捕まった後、このアドレスが警察に知られて、自分に捜査の手が及ぶのを防ぐために、消したってこと……?」


 蒼太は、それを聞いて、資料を握った指先に、力を込めた。


 脅迫者のメールアドレスが分かれば、その正体へと繋がる手掛かりが掴めると思ったのに───相手は、蒼太が思っている以上に、狡猾だった。


「もう6時だし……今日は、ここで終わりにしようか」


 優樹菜が、5人を見回す。


 それに反論を示すメンバーはいなかった───が、蒼太は、壁に掛かったカレンダーを見上げて、心の中に、どんよりと不安の煙が立ち込めていくのを感じた。




 "明日の24時までに、殺し屋のデータベースをUSBメモリにコピーしろ"'




 ───残された時間は、蒼太が想像していた以上に、僅かなのかもしれない。

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