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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第11章
325/341

January Story39

睦月に訪れる、新たな未来───。

 本拠地一階、社長室にて。


 新一は、亮助からの電話を受けていた。


 才加凛子の取り調べの結果───その中に、今後の”ASSASSIN”の活動に影響するかもしれない情報があったのだという。


「才加凛子は、前回の逮捕をきっかけに、一時は犯罪から遠ざかっていたようだ」


「それが、何のきっかけで、再び、殺し屋たちと関わりを?」


「ある人物から、そそのかされたらしい」


 亮助が言った。


「釈放されてから、数ヶ月が経ったある日、才加が情報屋時代に使っていたアドレスに、こんなメールが届いたようだ」



 ”才加凛子、再び、金稼ぎをする気はないか?”



「そのメールには、他にも、”ASSASSIN”の情報を欲した殺し屋がいることや、もしも、その殺し屋の依頼を受けたら、大金が手に入るという旨の内容が記されていた」


「つまり……才加凛子と、殺し屋を仲介した人物が存在していた……ということですね?」


「そうだ」と、亮助が頷く。


「才加凛子は、金が欲しいという欲望を湧き上がらせながらも、また同じ過ちを繰り返すかもしれないという危惧から、その依頼を受けることを迷っていた。そんな中、崎坂睦月くんに出会い、崎坂くんに自分の肩代わりをさせることで、依頼料を手に入れようとした……」


 新一は、窓の外に見える、灰色に染まった空の色を見つめていた。


「才加は、”仲介業者”と、メールでやり取りをしていただけで、直接顔を合わせたことはないらしい」


「つまり……」という亮助の声に、微かな緊張が走る。


「これから先、その人物が、”ASSASSIN”に何らかの関わりを持つ可能性は、十分にある。才加をそそのかし、再び犯罪の道へと誘ったのは───才加より、更に狡猾で、多大な権力を所有している人物なのかもしれない」


 ※


 ブレザーの上に、コートを羽織り、リュックを持ち上げる。


 部屋を出て、玄関に向かって廊下に進む。


「睦月」


 靴を履こうとしたところで、後ろから呼び止められた。


 振り返ると、居間から、佳織が顔を覗かせていた。


「寒いから、マフラー巻いていきなさい」


 そう言って近寄ってきた佳織が、睦月の首に、グレーのマフラーを通す。


 前なら、「そんなの、自分でやるから」と、冷たく引ったくっていたであろうマフラーの生地。


 睦月が罪を犯そうとしたあの日から───2日が経った。


 警察署から、帰った後。


 睦月は佳織に、自分が考えていたこと、しようとしていたことを、全て、打ち明けた。


 それを聞いた佳織は───睦月に対して、絶望も、失望も、しなかった。


 ただ、いつものように「睦月、今日のご飯、何食べたい?」───そう言って、笑った。



「はい───できた」



 佳織が、睦月の顔を見上げて、笑顔を浮かべる。


 睦月は、その笑顔を見つめて、


「……お母さん」


 そう、呼びかけた。


「なに?」と、佳織が、首を傾ける。


 佳織の茶色い髪は、黒い目は、自分と、全く似ていない───2人が、本当の親子ではない証拠。


 けれど───今の睦月には、その"証"が、とても暖かく、感じられるのだった。


「ありがとう……いってきます」


 睦月は、佳織に向かって、微笑んだ。


 佳織の顔に、驚きの表情が浮かんだ後───くしゃっと、喜びの表情が広がる。


「いってらっしゃい」


 佳織が、ポンと、睦月の両肩を叩いた。


 ※


「睦月、おはよー」


 教室の中の喧騒はいつも通りで、睦月が席に着いた瞬間にしたその声も、いつもと同じだった。


「ああ、颯。おはよう」


 睦月は、机の横に立った颯の顔を見上げた。


 睦月と目が合った颯は、「ん……?」とでもいうような表情で、睦月の顔をじっと、見つめてきた。


「どうかした?」


 首を傾けると、颯は、「いや……」と声を漏らした。


「何か……睦月、今日、いい感じだね」


「えっ?」


「いつもより、元気そうに見えるっていうか、晴れ晴れした表情してる」


 颯に言われて、睦月は、窓ガラスの方を向いた。


 目を大きく見開いた、灰色の髪と瞳をした少年が、青空に透けて写っていた。


 ※


 土曜日の朝。


 崎坂睦月が関わった事件が解決してから、一週間が経った。


 8時に目を覚ました蒼太は、一人、リビングでテレビを見ながら朝食を食べていた。


 亮助はすでに仕事に行ってしまい、勇人はまだ起きてきていない。


 朝食を食べ終え、何の気なしにつけたワイドショーをぼんやりと眺めていると、外から、バイクの音が聴こえてきた。


 続けて、玄関のドアポストが開閉する音がし、蒼太は、視線を上げた。


 見上げた時計が示す時刻は、9時20分。


 どうやら、郵便配達が来たようだ。


 椅子から立ち上がり、玄関へと向かう。


 ポストに挟まっていたのは、一枚の、封筒だった。


 薄紫色の、横書き封筒を手に取り、宛先を見つめて、蒼太は、「ん……?」と、声を上げた。


「兄ちゃん……?」


 てっきり、この家の家主である、亮助に宛てられた手紙かと思いきや、そこに書かれた名前は、「矢橋勇人 様」となっている。


 蒼太は、封筒を裏返しーーーはっと、息を呑んだ。


 背後で、階段を下って来る音がした。


 蒼太は、くるりと、振り返った。


「兄ちゃん……」


 呼びかける声が、僅かに、上ずった。


「これ……」


 手に持った封筒を、勇人に向けて差し出す。


「……手紙。兄ちゃんに……崎坂さんから」


 自分が書いた手紙ではないし、中に何が書いてあるのか分からないーーーそれなのに、蒼太の手は、緊張で震えた。


 それは、不安によるものではなく、期待によるものだった。


 勇人の手が、封筒の端を掴む。


「わざわざ何だよ」


 それは、蒼太に向けられているようで、ここにいない、”彼”に問いかけているような言葉だった。


 そのまま、居間に向かって歩いて行く勇人の背中を見つめて、蒼太は、勇人に気付かれないように、そっと、笑顔を浮かべた。



(第11章 完)



第11章、完結いたしました!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!


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