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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第11章
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January Story29

優樹菜に心を裏切られた睦月は、罪を犯すことを決める───。

 生きる世界に、光が見えなくなったのは、いつからだろう。


 狭い空間の中、”母”の暑苦しさに鬱憤を募らせた我が家。


 時間と規則で生徒たちを縛り付け、自由を許さない学校。


 睦月は、ずっと、自分の居場所を見つけられずにいた。


 だから、早く大人になりたかった。


 自由になりたかった。


 そのための術が、ほしかった───。


 だからだ───と、睦月は思う。


 僕が、あの女の無茶な頼みを、何の考えもなしに引き受けたのは、その術が、手に入ると思ったからだ。


 それが───金がもらえるのなら、どうだってよかった。


 そんな、堕落に堕落した僕の心に、光を差し込んでくれたのは───優樹菜だった。


 逢瀬高校の前で、4年ぶりに再会した時の、胸の高鳴り。


 休日に、偶然を装って出会ってから、喫茶店で2人で過ごした時間。


 公園のベンチで、僕が心に隠した真実が知りたいと言った、優樹菜の、真剣な眼差し。


 優樹菜だったから───優樹菜を、傷付けたくなかったから、僕は、嘘をついた。


 そして、もうこれ以上、悪事に加担するのはやめようと、決意した。


 女に僕の心を追い込むような頼み事をされた───”ASSASSIN”のメンバーを殺せと言われた時も、僕は、優樹菜のことを、信じていた。


 優樹菜なら、僕を信じてくれるって、信じてた───。



 ───でも、違ってた。



 優樹菜は、僕のことを、理解してくれない。


 優樹菜は、僕が”光”を見ようが、”闇”に落ちようが、どうだっていいと思ってる。


 だったら、優樹菜の”光”を、僕が、奪ってやる───。



 睦月は、台所の、シンクの前に立っていた。


 深夜0次の家の中は、静まり返っている。


 佳織が寝ている気配でさえ、感じられない。


 流し台の下───引き出しの扉を開く。


 扉の裏に引っ掛けてある包丁───番奥にあるものを、手に取った。


 持ち上げて、角度を変えてみると、刃の中に、自分の顔が映った。


 何も感じていないような瞳───思わず、ふっと、乾いた笑いが漏れる。



 ───僕はいつから、こんな顔になったんだろう。



 ポケットに押し込んでいたタオルを取り出し、包丁を包む。


 ※




「───もしもし?」


 居慣れた部屋に、静かな声が響く。


「……僕です。あの、昨日、した話なんですけど。あなたの言う通りにするつもりなので、詳細が決まり次第、連絡してもらっていいですか」


 カーテンを閉めていない部屋の中に、外から光が差し込んでいる。月なのか、それとも、単なる街灯なのか。


 睦月は、スマートフォンを握った腕を下ろした。


 視線の先に、本棚が見えた。


 いつもあったはずなのに、睦月はまるで、それがそこにあるのに、初めて気付いたような気を覚えた。


 本棚の一段目───サッカーボールのフィギュアが飾ってある。


 ああ───そうか、と思った。


 僕が、光を失ったのは───。


 睦月は、顔を背けた。


 今、昔を思い返したって、何の意味にもならない。


 もう───僕には、過去も、現在いまも、未来も───もう、何も、必要ないんだ。

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