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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第11章
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January Story9

勇人と優樹菜が逢瀬高校に通っていることを知った睦月は、2人に会いに行くことを決意する。

「……今、どうしてるんだろうな。勇人」 


 ぽつりと、颯が言った。


「高校は……?どこの学校に進んだかとか、颯、知ってる?」


 尋ねると、颯は、睦月の方に顔を寄せて、小声で、こう言った。


「……逢瀬高校」


「えっ……?……そうなの?」


 睦月は、驚きながらも、小声で答えた。


「うん……やっぱり、1年生と2年生の時、学校に来れてなかったって言うのが、影響してたんじゃないかな……。勇人、小学生の時は、すごく勉強ができる子だったけど、中学校になってからは……勉強どころじゃなかったと思うし」


「そっか……。そうだよね……」


 睦月は、目を伏せた。


 まさか、この町内で悪い噂の絶えないあの高校に勇人が進学しているとは思っていなかった。


「あっ、そうだ……たしか」


 颯の声に、睦月は、視線を上げた。


「優樹菜も……勇人と、同じ高校に行った気がする」


 睦月は、自分の目と口が同時に開くのを感じた。


 遅れて、「えっ!?」と、声が出た。


「ゆっ……優樹菜が……!?どうして……?」


 颯は、「何て言うか……」と、形の整った眉を下げた。


「優樹菜も、中学で、ちょっとしたトラブルに巻き込まれてたみたいで……本当は、ここ……和達高校の志望だったらしいんだけど、事情があって、逢瀬高校に、変えたんだって」


 颯の言葉は、睦月の頭に、半分ほどしか入ってこなかった。



 ”私のために働きなさい。私のために、人を探すのよ。あんたの能力を使って───ね”



 女が言っていた言葉が、頭に響く。



 ”私の頼みを叶えてくれたら───お金をあげるわ”



 僕は、”ASSASSIN”という組織を調べなくてはならない。


 その組織には───勇人と、優樹菜がいる。


 ただ───今、睦月の頭の中は、「組織のことなどどうでもいい」という言葉で埋め尽くされていた。


 僕は──2人が今、どうしているのか、確かめたい。


 睦月は、強く、そう思った。


 ※


 私立逢瀬高校は、和達高校の反対側に位置している。


 乗り慣れない路線のバスに乗って、睦月は、「できたら近づきたくない」と思い続けていた学校の校舎の前まで到着した。


 そうして、校門を目指して歩き始てすぐ、睦月は、ぴたりと、その足を止めた。


 まさか、こんなにすぐ見つけられるなんて───。


 期待していなかった分、睦月は、うろたえてしまった。


 校門の出入り口のすぐそば。石垣に寄りかかるようにして、一人の少年が立っているが見えた。


 黒く、癖のある髪をした少年。


 ひと目見ただけで、彼だと、わかった。


 睦月の記憶の中にある姿よりも、ずっと背が高くて、制服を着た姿は、とても大人びて見えた。


 彼は、何をするわけでもなく、制服の上から着た黒い上着のポケットに手を入れて、立っていた。


 睦月は、その姿に、そっと、近寄った。


 心臓が、ドクドクとしている。


 5年ぶりの再会───自分の感情が、よくわからなかった。


「あの……」


 校門の前までたどり着いた睦月は、彼に、声を掛けた。


「勇人……だよね?」


 僅かな間の後、彼───勇人の視線が、自分に、向いた。


 赤い瞳───その目を見つめて、睦月は、はっと、息を呑んだ。


 その目は、自分の記憶にある勇人のものと、随分と、違っていた。


 穏やかさ───彼の内面を表していたはずのあの柔らかな色が、消えている。


 代わりにあるのは、見るものを深く射抜くような、鋭さだった。


「あっ……あの……」


 睦月は、思わず、身を引いた。


「え、えっと……ひ、久しぶり……」


 自分から声を掛けておいて、何を動揺しているんだ───そう、自分で自分に呆れながら、睦月は、引き攣った笑みを浮かべた。


「ぼ、僕のこと、覚えてる……?ほら……小学校の時、同じクラスだった、崎坂睦月……」


 そう、睦月が次々と重ねている間、勇人は、視線を1ミリも動かさなかった。


 "凝視"という言葉では足りないほどの長さで、睦月のことを見つめ続けている。


 睦月は「何か言ってくれよ……」と心の中で祈ってしまった。暑くないはずなのに、首筋に汗が流れている気がする。


 続く言葉が見つからなくなった睦月に対し、ようやく、勇人の体が僅かに動いた。


「何してんだ、こんな場所で」


 それは、何の前触れもない問いだった。


 しかし、睦月は、突然質問されたことよりも、その質問をした勇人の声が、想像していたよりもずっと低い声色だったことに驚いた。


「えっ……?え……えっ……と……」


 睦月は、言葉に詰まった。


 そんなことを訊かれるなんて、思ってなかった───いや、考えてみれば、そう疑問に思うのは、当然のことだろう。


 放課後に他校に赴くということは、それなりの理由があるはずなのだ。


 まさか、「この学校にいるって知って会いに来たんだ」などと言えるはずもなく、睦月は、目を右往左往に泳がせた。


 気のせいではなく、本当に汗が吹き出てきた。


 落ち着け。質問に答えればいいだけだ。


 適当に嘘を話して、誤魔化せばいい。


 そう思うのに、頭の中にある思考の経路は、動いてくれない。


 目の前にいるのは、確かに、小学生時代の同級生の、”彼”であるはずなのに、見た目も、声も、全く違っている───颯から勇人のことを聞いた時、それなりの覚悟をしてきたはずだったのだが、睦月の動揺は、丸きりおさまらなかった。


 どうしよう?何て答えたらいい?


 誰か───誰か、教えてくれ。


 そう、思わず目を瞑りそうになった時──「ちょっと」という、少女の声が、した。


「廊下で待っててって言ったのに……。どこにいるのかと思って、探したじゃない」


 校門の奥から現れたその少女は、勇人に向かって、不機嫌そうに言った。


 睦月は、目を見開いた。


 桃色のロングヘア―。賢そうな、黄色い瞳。


「……優樹菜……」


 睦月が呼びかけると、少女は、振り返った。


 その目に、徐々に驚きの感情が浮かんでいくのを、睦月は見た。


「えっ……?」


 少女が、声を漏らす。


「睦月……?」


 名前を呼ばれた瞬間、睦月の心臓は、ドクン、と鳴った。


「ひ……久し、ぶり……」


 平常を装って、挨拶を口にする。耳が熱くなっているのが、バレていないだろうか。


「久しぶり……。けど……どうして、ここに……?この学校に、何か、用事……?」


 優樹菜は、戸惑いと、睦月に対する気遣いが入り交じったような瞳で、そう尋ねてきた。


 訊かれている内容は勇人と同じなのに、違うような気がするのは何故だろう───睦月は、「ああ……えっと……」と、視線を斜め上に向けた。


「……こ……この先に、僕の母さんが働いてるお弁当屋さんがあって……そこに用事があって歩いてたら……勇人の姿が見えて、それで……」


 半分本当で、半分嘘だった。


 佳織が働いている弁当屋がこの先にあるのは事実で、その存在が不意に頭をかすめたので、ここを通った理由を説明するのに使おうと思いついたのだ。


 睦月が”勇人”と口にすると、優樹菜は、「ああ」と納得したように頷いて、僅かに勇人のことを振り返った。


 勇人は校門に寄りかかったまま、睦月と優樹菜のやり取りを見つめていた。


「それにしても……本当に久しぶりだね。同じ町に住んでるのに、学校が変わった途端、全然会えなくなっちゃよね、私たち」


 優樹菜が、そう言って笑顔をみせた。


 睦月は、頬が熱くなるのを感じた。


「そう……だね」とか細い声を返すのが、精一杯だった。


「睦月は今、どこの学校に通ってるの?」


 優樹菜が睦月の服装を見つめるようにして訊いてきた。


 睦月は「ああ」と、自分が着ているロングコートを見下ろした。上着が見えないと、どこの学校の制服を着ているのか判別しにくいのだと、そこでわかった。


「和達高校だよ」


 そう何気なく答えてしまってから、睦月は、「あっ……」と思った。


 そして───気付いた時には、遅かった。


 優樹菜は、はっとした目をしたかと思うと、直後に、その目を、曇らせた。


 睦月が反射的に「ごっ……ごめん……」と言いそうになった時、優樹菜は、「……そっか」と、目を笑わせた。


 優樹菜の後ろに立った勇人の視線が、優樹菜の背中に向くのが見えた。


 言葉に詰まった睦月に対し、優樹菜は「───じゃあ」と言った。


「私たち、この後、用事があるから、もう、行くね」


「あっ……」


 睦月は、頷いた。


「ごめん……引き留めたりして」


「ううん。久しぶりに会えて、嬉しかった」


 優樹菜が「またね」と、片手を上げる。


「うん……また……」


 睦月は、火照った頬が、風に冷やされていくのを感じながら、優樹菜に、手を振り返した。

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