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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第11章
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January Story5

謎の女を追った睦月が辿り着く先は───?

 女性の背中を追っていくうちに、睦月は、いくつもの路地を通り抜けた。


 女性が一体、どこに向かおうとしているのか、自分が今、町の中のどの辺りにいるのかも分からずに、ひたすら、赤いキャリーケースを追い続けた。


 キャリーケースが、狭い路地裏の角を曲がった。


 睦月は、息を切らしながら、その後を追った。


「……あれ……?」


 睦月は、立ち止まった。


 目の前にあるはずの、女性の姿が、見えない。


 どころか、視線の先にあるのは、建物の壁。───行き止まりだった。


(嘘だろ……)


 そんなはずは───。


 キョロキョロと辺りを見回した睦月の背後で、「ふふふ」という笑い声がした。


「こんなところまで付け回してくるだなんて、大したものね」


 睦月は、はっとして、振り返った。


 黒い帽子、真っ黒なサングラス、真っ赤な唇、黒いロングコート、黒いブーツ、赤いキャリーケース。


 行方を追っていたはずの存在が、今、目の前に立っている───。


「あなた、高校生?ダメじゃない。こんな時間に、外出しちゃあ」


 声が、出なかった。


 気付かれていた───後を追っていたことを、知られていたのだと、わかった。


「この辺りの子?親御さんは、どうしてるの?」


 女は、唇を笑わせて、睦月にそう問いかけてきた。


「警察、呼んだほうがいいかしら。そうしたら、あなた大変ね。親だけじゃなくて、学校にも連絡しなきゃいけなくなるわよ、きっと」


「……ぼっ……、僕……」


 漏れ出たのは、か細い声だった。


 女は、すっと、睦月のことを、見据えた。


 サングラスの奥で、きつく睨まれたような気がして、睦月の肩が、ビクッと動いた。


「……どうして、私の後を付けるわけ?」


 低い声で、問われ、睦月は、「あっ……あの……」と、後退った。


「しどろもどろになってないで、答えなさいよ」


 女が一歩、睦月に近づく。女が履いたブーツの踵が、地面を叩いた。


「どんな理由で、私のことを追いかけてきたの?あなた、私のこと、知ってるの?あなた一体、何者?」


 続けざまに質問されても、睦月は、「え……ええと……」と、目を泳がせるしかなかった。


「答えなさいよ!」


 女が、怒鳴った。


 その声は、発砲音のような大きさで、辺りに響き渡った。睦月は、ビクッと、肩を揺らした。


「ごっ、ごめんなさいっ……!」


 睦月は、慌てて、頭を下げた。


「ぼっ、僕は……ただの、高校生です……!たしかに、あなたの後を付けてしまったけれど、大きな理由があったわけじゃなくて、その……」


「……誤魔化すつもり?」


「……え……?」


 思いがけない言葉に、睦月は、ぽかんと、口を開けた。


「……あんた、私が何なのか、分かってるんでしょ?」


「いっ、いや……ぼ、僕は、あなたのこと、何も知らないです……。ただ……見かけたことがあるだけで……」


「はっきり言いなさいよ!」


 睦月の弁明は、女の耳に、まったく届いていないようだった。


 女は、激しい靴音を鳴らしながら、睦月のもとへ近づいてきた。


「もう一度聞くわ。あんた、一体何者?」


 詰め寄られる瞬間、サングラスの奥にある、女の目が、見えた。


 怒り───その目は、その感情に、満ちていた。


「まさか、あんた」


 急に、女の声色が変わった。


「”ASSASSIN”のメンバーじゃ、ないでしょうね」


 睦月は、「え……?」と、女を見つめた。


(アサ……シン……?)


「……違うの?」


 女の目の中に浮かんだ炎が、僅かに、小さくなった。睦月の反応を見て、違うと、気付いたようだ。


「ぼっ、僕は……さ、崎坂睦月と言います……!」


 睦月は、早口に、そう告げた。


「和達高校の、1年生で……きょ、今日……学校の授業中に、あなたが、校門の前に立って、校舎を見つめている姿を、見ていました……」


 そう告白すると、女は、ゆっくりと、目を見開いた。睦月の言葉に、驚いたようだ。


 睦月は、女が何かを言ってくる前に話し終えようと思った。


「それで……あなたのことが、気になっていたんです。で、でも……さっき、コンビニの前であなたを見つけたのは、本当に、偶然で……だけど、これは、単なる偶然じゃないかもしれないって思って……気付いたら、あなたのことを、追いかけていました……」


 睦月は、スニーカーのつま先を見つめながら、「その……、理由は……」と、口にした。


「自分でも……よく、わからないんです……。でも……あなたと会って、話すことができたら、僕は、僕自身を、変えられるんじゃないかって……そんな予感が、して……」


 女は、じっと、睦月のことを見つめている。


「……僕は、今、自分がしている生活が、窮屈で、仕方ないんです。どうにかして、抜け出したいけど、僕は、そのための道具を、何も持ってない……。だから、その……」


「───つまり、あんたは」


 女が、口を開いた。


「私が、裏社会にいる人間だって、思ったっていうこと?」


 そう問われて、睦月は、顔を上げた。


("裏社会"……)


 それは、あまりに馴染みのない言葉だった。


 しかし、同時に、とても、納得の行く、"答え"でもあった。


 そうか───自分は、この女のことを、そう感じていたのか。


「……そうね。その予想は、あながち、間違ってはいないわ」


 女は、静かな声で、そう言った。


 そうして、女は、何かを思案するように、数秒間、口を閉ざした。


「……あんた、能力者よね?」


 ふと、何かを思いついたかのように、女が、言った。


「どんな能力、持ってるわけ?」


 問われて、睦月は、「え、ええと……」と、息を吸い込んだ。


「居場所を、察知する能力……です。誰かの名前とか、顔を、頭に思い浮かべると、その人が現在いま、どこにいるのか知れる……っていう……」


 睦月の答えに耳を傾けた女は、「……へえ」と、声を上げた。


 女の口元が、ゆっくりと、歪な笑顔を作った。


「あんた、自由がほしいのよね?」


 女が、声色を変えた。


 その、優しさを偽るような声に、睦月はビクリと肩を揺らしながら、「はっ、はい……」と、頷いた。


「つまり───お金がほしいってこと?」


 睦月は、はっと、目を見開く。


 その反応を答えと受け取ったのか、女は、満足げに、頷いた。


「ここまで付いてこられて、素性まで察せられて、あんたをただで帰すことはできなくなってたけど───あんた、ツイてるわね。便利な能力を宿してくれた両親と、強情な心を持った自分に、感謝なさい」


 女は、睦月に近づき、「……あんた」と、囁くような声で言った。


「私のために働きなさい。私のために、人を探すのよ。あんたの能力を使って───ね」


 女は、睦月の目の前で、にっこりと、微笑んだ。


「私の頼みを叶えてくれたら───お金をあげるわ」

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