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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第11章
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January Story2

願う自由と、窮屈な現実───。

 和達かずたち高校は、北山町の中にある高校の中で、最も生徒数の多い学校である。


 その理由を、睦月は、「公立の学校である」ことと、「偏差値が、高くもなく低くもない。まさに中間」であることだと思っている。


 1年D組の教室のドアを開けると、クラスメイトが起こす喋り声の渦に包まれた。


 数週間ぶりの再会を懐かしむ声───それらを、それとなしに聞きながら、睦月は席についた。


「睦月、おはよー」


 その声に顔を上げると、一人のクラスメイトが近づいてくるのが見えた。


「ああ、はやて、おはよう」


 福住ふくずみ颯は、睦月にとって、小学校時代からの友人であった。


 小学3年生から6年生までの4年間を同級として過ごした2人は、「同じ中学に入っていたら、中学3年間も同じクラスだったかもね」と言い合うことが、多々あった。


 睦月は、緑ヶ丘小学校の6年生だった夏、当時住んでいたアパートを出て、緑ヶ丘中学校の学区外の地域である、現在の家へと引っ越した。そのため、緑ヶ丘中学校へ進んだ颯を始めとする小学校時代の同級生とは、別の中学校へと入学することになったのだ。


 それだけに、颯と同じ高校に入学し、クラスメイトになるという出来事については、全く予想していなかったことで、入学式で顔を合わせた時の、驚きと嬉しさが入り混じった感情は、今でも強く、睦月の胸の中に残っている。


「どうだった?冬休み」


 颯にそう尋ねられ、睦月は「どうって言われてもなあ……」と頭を掻いた。


「特に大きな出来事もなく、ひたすら暇な毎日を過ごしてたよ」


「何だよ、それ。いいんだか、悪いんだか、分かんないな」


 颯は苦笑した。


 その顔を見ながら、ぼんやりと、睦月は「爽やかだなぁ……」と、思った。


 颯は、自分にないものを持っている人間だと、睦月は思う。


 身長が165cmの睦月に比べ、颯は、180cmの長身。顔が小さく、肌が白い。黒い髪は艶やか、大きな瞳は、いつも煌めいている。


「クリスマスは?どっか行かなかったの?」


 颯は、睦月の机に手を付き、そう問いかけてきた。


「行く相手も、場所もない。普通に、いえにいたよ」


「そっか……。家でってことは、家族と、ご馳走食べたりしたの?」


 そう問われて、睦月は、一瞬、言葉に詰まった。


「……食べてない」


「えっ?」


 颯が、目を見開く。


「同じものは食べたけど、同じ時間には、食べてない」


颯が、意表を突かれたような目で、自分を見つめている───睦月は、はっとした。


「ごめん……空気、悪くして……」


「いや……俺の方こそ、ごめん。無神経なこと、聞いた」


 颯が、目を伏せる。


 二人の間に、沈黙が訪れた。


「……颯は、冬休み、どうだった?」


 場の空気を変えようと、そう質問してから、睦月は、「あっ」と気が付いた。


「そっか。颯は、部活……か」


 そう口にすると、目を上げた颯が「うん」と、頷く。


「お正月休み以外、ずっと練習漬けだったよ」


そう、颯は微笑む。


 颯は、バスケットボール部に所属している。バスケ部顧問の輪西わにし教諭は、「時間さえあれば練習しろ」という思考の持ち主らしく、睦月は、「そんな部活には絶対入りたくない」と思うが、バスケットボールを何より愛する颯にとっては、違うらしい。


「……いいな、颯は、毎日が、充実してて」


 睦月は、呟いた。


 颯が「え?」というような目をする。


 颯は、今を生きている。充実した日々を、大切に過ごしている。


 僕とは、違う───。


 戸惑いの表情を浮かべる颯の顔を見つめた瞬間、ホームルーム開始を告げる、チャイムが鳴った。


 ※


 数式を読み上げる教師の声を聴きながら、睦月は、窓の外を見つめていた。


 睦月の席は、窓際の一番後ろにある。


 窓ガラスに映っている、一人の少年。


 灰色の髪に、クリーム色の瞳。


 その瞳の中には、気怠さという名の感情が、浮かんでいる。


 自らがしているそんな目を見つめて、睦月は、息を吐きだした。


 自分の顔は、あまり好きではない。


 窓一面に映る灰色の雲が、自分の心情の表れのように感じられて、余計に憂鬱な気持ちが増す。


 目を逸らそうとした直前───あるものが、目の端に映った。


(ん……?)


 校門の向こう側───歩道の奥から、一人の人物が歩いてくるのが見えた。


 黒い帽子を被り、黒いロングコートを着ている。どうやら、女性のようだ。


 睦月の目を引いたのは、その女性が引きずっている───赤いキャリーケースだった。


(観光客……?この近くに、観光スポットなんて……ないよな)


 睦月の中では、キャリーケースを引きずって歩いている人は大抵、旅行を目的にしている人という認識があった。


 あの人は一体、どこに向かって、歩いているのだろう───。


 そう、考えた時。


 女性が、立ち止まった。


 そこは───校門の前。


 その顔は、真っすぐに、この場所───和達高校の校舎に、向いていた。


 睦月は、息を呑み、びくりと、身を引いた。


 見られた───そんな気が、した。


 女性は、校舎から顔を背けると、再び、歩き出した。


 睦月は、しばらく硬直したまま、動けなかった。


 教師が数式を読み上げる声が、遠く、聴こえた。


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