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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第10章
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December Story50

隠すことができなかった秘密───そして、母の最後。

「あれは……4年前のことだ」


 4年前───それは、母が、亡くなった年だった。


「さくらから電話を受けた時……俺は一瞬、言葉を、失った。それは……さくらが告げた内容に動揺したというより、それを告げたさくらの様子に動揺したと言った方が、正しいのかもしれない」


 "男が殺し屋だということが、息子に知られてしまった"───そう、俊二に告げた母。


 その言葉の中の、"息子"というのが、誰のことを指すのか、蒼太は、すぐに分かった。


 自分ではない。自分は、父が───清水清隆が、殺し屋出会ったという事実を、最近になるまで、知らなかったのだから───。


「……どう、やって……?」


 蒼太は、俊二に、問いかけようとした。


「どうして……、兄ちゃんは……?どんなきっかけで、知ったんですか……?」


 俊二は、首を、横に振った。


「その経緯について、俺は知らないんだ。ただ……偶然のようなものだったんだと思う。さくらが予期していないところで、君のお兄ちゃんが、何かを感じ取ってしまった。そして、そのことを、さくらに───お母さんに、問いかけようとした」


 そして、母は、知った。


 勇人が、一緒に暮らす"父親"の正体を、知ってしまったことを。


「"本当のことなの?……そう聞かれて、私は、答えることができなかった"……そう、さくらは、言っていた」


「俺は……」と、言った俊二は、膝の上の両手を、それを見つめる蒼太が、痛々しく感じるほど強く、握りしめていた。


「……何を答えればいいのか、何をしてあげればいいのか、すぐに、思い付けなかった。起きてしまったことを、なかったことにはできない。……ただ、"大丈夫だ"と、励ますことしか、できなかった。子どもが、"殺し屋"という存在が知ってしまったということを、御神たちに対して隠すことができれば、それでいいんだ……と」


 それでいい───その言葉で、母の心が救われることがなかったことは、明らかだった。


 俊二の表情に、声に、そのことに対する後悔が、深く、刻まれていた。


「俺は……さくらたち家族にとって、その出来事が、溝のようなものを生まないように……それまでと変わらない暮らしが続くようにと、願っていた」


俊二は、膝の上の両手を動かし、その指先を組み合わせて、握りしめた。


「……だけどな」


 暗い声で語られた呟きは、蒼太に向けてというより、自分自身に向けて、告げているようであった。


「……現実は……想像よりも、ずっと、残酷だった……」


 ※


「さくらから……再び電話が掛かってきたのは、それから……一週間くらい後のことだった」


 一週間───その期間は、母にとって、どのようなものだったのだろう。


 蒼太は、それは、俊二でさえも、知らないのだろうと思った。


 母は、俊二に、その間にあった出来事のことを、伝えなかったのだろう。


 きっと───その7日間は、母にとって、様々なことを思い、悩んだ、辛い日々のはずだったから……。


「さくらは、一週間前とは違って……明るく、和やかな口調で……俺に、こんなことを、問いかけてきた」



 ”滝原さん、聞いても、いいですか?”



 ”滝原さんの目から見て、私って、どんな人間ですか?”



「それは、全く予想につかない質問だった。どうして、そんなことを聞くのか、わからなかった。ただ、さくらがする質問なら、そこには必ず、意味があるはずだと思えた。俺は、心に浮かんだ答えを、そのまま、口にした」



 "いつも、真っすぐで、嘘がない。芯が強く、一度決めたことは曲げない。何事にも、どんな困難にも立ち向かう勇気がある。そして、何よりも、強く、優しい心を持っている。それが、さくらだと、俺は思うよ”



「そう応えると……さくらは、少し、間をおいて、笑うような、喜ぶような、噛みしめるような声で、こう、言ったんだ」



 "ありがとうございました"



「それが……」と、俊二は、言った。



「それが……俺とさくらが交わした、最後の会話だ」


 蒼太は、音もなく、目を、見開いた。


 俊二は、蒼太の顔を見て、辛そうに、その目を、逸した。


 そして、向けた視線の先───コートの左ポケットの中を、手で、探り出した。


「……俺が、さくらが亡くなったということを、正式な形で聞いたのは、それから、1ヶ月後が経った頃だ」


 正式な形───その言葉に、胸が、ざわりとした。


 ただ、それを問うより先に、俊二が、ポケットの中から取り出したものを、蒼太に、差し出した。


「俺は……それを聞くより先に、さくらのことを、知っていたんだ。……いや、悟っていたと言った方が、正しいかもしれない」


 俊二が手に握ったものは、折りたたみ式携帯電話だった。


 蒼太が小さい頃、周りの大人たちが使っているところを見たことがあるそれは、俊二の手の中で、とても古びた姿をしていた。


「これは、俺が、ずっと、持ち歩いているものなんだ」


 俊二は、そう、微かに、口元を笑わせた。


「ボタンが壊れて押せなくなった部分が合って、そのせいで、普段は、新しく買った別の携帯を使っていいるんだけど、でも、これは、この先、一生……俺が死ぬまで、持ち続けるつもりなんだ」


 俊二は、赤色の携帯電話を、大事そうに、握った。


「4年前……さくらと交わした、最後の電話の後……」


 俊二は、蒼太の目を、真っ直ぐに見つめて、言った。


「この携帯に、さくらからの、メールが、届いたんだ」

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