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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第8章
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November Story28

御神輝葉の目的と計画の正体が、明かされる───。

「は……?」


 漏れ出た声は、震えていた。


「……な……に、言ってんの……?」



 輝葉の息が、首筋にかかった。


「言葉の通りだよ〜」


 言葉の通り───そうだ。私は、"そうなんじゃないか"と思いながら、今日、ここに来たんだ。


 御神輝葉───彼女の願いは、やはり、()()だったのだ。


 分かっていたはずなのに───優樹菜は、激しく、動揺した。


 見つめた輝葉は、薄っすら笑っていた


「そんなの、できっこないって思う?」


 優樹菜の心を見透かしたように、輝葉は言った。


「考えてみて?私の能力。願いを叶える能力───まさにうってつけでしょ?」


 視界がぐにゃりと歪むような感覚───優樹菜は、後ろに、数歩よろけた。


 何だろうこの感情は───自分は今、どんな顔をしているだろう。


「でもね、この能力、完璧なように見えて、欠陥だらけなんだ〜」


 優樹菜の動揺を無視するように、輝葉は言った。


「願いを叶えるためには、それ相応の代償が必要だし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 人間を変えることはできない───優樹菜は、その言葉の意味を理解するまでに、数秒の時間を要した。


「それができたら、私はもっとまともな人生歩めてただろうね〜」


 半ば独り言のように言った輝葉は、「不思議だと思ったことなかった?」と首を傾けた。


「私が私自身の望みを叶えたいんだったら、自分で叶えればいいんじゃないか───って。私の能力は、人の行動、思考、外見、内面、その他諸々、人間を変えてしまうことに関しては、効果を発揮しない。それは、他人だけじゃなくて、自分自身に対しても、ね」


 優樹菜の口から、「……それ……って……」と、声が漏れた。


「あんた以外の人が願った場合は……叶うってこと……?」


「そういうこと〜」


 輝葉は、にっこりと笑った。


「だから、あなたが、"誰かを変えたい"って私に願えば、叶えられるよ」


 さらりとした口調で、輝葉は言った。


 優樹菜は、見開いた目を閉じることができなくなった。


「だから……?……だから、あんたは……」


 優樹菜は、自分の声が震えていることを自覚した。


「自分では叶えられないから……だから、私たちに願わせようとしたの……?矢橋くんを、変えてほしい……って……」


「そうだよ〜」


 輝葉は、頷いた。


 そして、直後に、首を振った。


「そうだけど、その答えだと、60点かな〜。模範解答、教えてあげるね〜」


 そう言って、輝葉は語り出した。


 彼女が心の中で企てた───模範解答の、中身を。


 ※


「自分で願えないんだったら、誰かに願ってもらえばいい───そう思って、真っ先に浮かんだのが、あなたたち、"ASSASSIN"だった」


 輝葉は言った。


「あなたたち5人は、勇人の身近にいて、勇人のことをよく知ってることに、間違いなかったからね〜。だけど、ただ、"私のために願って"ってお願いして、すんなり受け入れてくれるほど、あなたたち5人は軽くないっていうのも、何となく分かってたからさ〜、作戦考えたんだよね〜、私」


「作戦……?」


「そ、作戦」 


 輝葉は、にっこりと笑った。


「"交換条件"にすればいいって思ったの。あなたの願いを叶えてあげるから、私の願いも叶えて───って」


 そう言った輝葉の瞳は───笑っているのに、とても、冷たく見えた。


「一見、美味しい話でしょ〜?自分の願い叶えられて、()()()もできるなんて」


「で……でも……」


 混乱しきった頭の中に浮かんだ言葉を、優樹菜は口にした。


「あんたの能力には……代償が必要なんでしょ……?」


「そうなんだよね〜。そこが厄介でさ〜。それを教えたら、願うのに迷っちゃうでしょ〜?───それにさ〜」


 その時───輝葉の目の色が変わった。


 優樹菜の背中に、鋭く、激しい悪寒が走った。


「私の願いを叶えてくれる前に、大っきな代償支払って、それで壊れられても困るわけ。確実に、絶対に、私の願いを願ってもらう───それが、私の望みで、私はそれさえ叶えられたら、それ以外のことは、全部どうでもいいの」


 そう、言い終えた後、


「だから、私、考えたんだ〜」


 輝葉は、笑みを浮かべた。


「それで、思い付いた。交換条件は交換条件でも、"嘘"の交換条件にしちゃえばいいんだって」

 

 その笑顔は、今までで、一番、邪悪に見えた。


「あなたの願いを叶えてあげるから、私の願いを叶えてほしい───本当のところは、あなたの願いは叶えてあげないけど、私の願いは叶えてほしい。そういうことにするつもりだったんだ〜」


 ※


「"あなたの願いを何でも一つ叶えてあげる"───そう言われたら、誰だって、"自分の願いは何だろう?"って考えるでしょ〜?」


 ニコニコと、輝葉は笑っている。


「特に、あなたたち5人は、それぞれに重くて暗い過去を持ってる───それについては調べて知ってたから、そこを利用しようと思ったの。"過去を変えたい"とか、"自分の身の周りを変えたい"とか、そういう切実な願いが欲しかった。そういうことを願うように仕向けようと思った。その願いには、価値があって、"叶えられるんだったら絶対に叶えたい"って思うはずのものだからね〜。それで、願いを出してもらって、それから、交換条件として、私の願いの話と、私自身はそれを叶えることはできないっていうのを聞いてもらうつもりだった。それからね、こう言うの」


 輝葉はクスクスと笑い出した。


「"私の願いを先に願って?───って。その後で、あなたの願いを叶えてあげるからって」


「もちろん」と、輝葉は言葉を続けたい。


「願いを叶えるには、代償が必要で、それは、自分が本心から思った願いじゃなかったとしても、()()()()()()()同じこと。代償の話は、願わせる前に教える気はなかったよ〜。それで怖がって、"願いたくない"って言われたら困るからね〜」


 輝葉は顎を引いて優樹菜を見下すような目をした。


「人の人格を変えるなんて、相当なお願い事だよね〜。ちょっとやそっとの代償じゃ済まされないよね〜。願った後、その子、どうなっちゃうんだろうね〜」


 優樹菜は、呆然と、輝葉を見つめた。


「……あんた……、それ……」


 優樹菜は、頭が空白になっていくのを感じた。


「本当に……叶えられると思ってるの……?」 


「全部が全部うまくいくとは、全然思ってなかったよ〜」


 輝葉は笑顔で答えた。


「トップバッターの、勇人の弟で、本命でもあった蒼太くんは、私があの子のこと傷つけたくないっていうことでナシにしたし、萩原翼くんと上村光ちゃんは、自分の願いを教えてくれなかったし、中野葵ちゃんは後一歩のとこでだめだった」


 ひとりひとりとの出会いと、そこで織りなした会話を思い出すような目をして、輝葉は言った。


「それに、私、いくつか失敗もしちゃった〜。蒼太くんに、私の願いの件は関係なく、君の願いは必ず叶えてあげるっていう約束をしちゃったのと、それで、あの子には代償の話を教えちゃったこと。それであの子、あなたに代償のこと話したでしょ〜?まさか、仲間に共有するとは思わなかったな〜。ま、そこは予想が外れたってことでいいんだけどね〜」


「───で」と、輝葉は、優樹菜のことを見た。


「あなたが5人の中の最後の1人だよ〜、中野優樹菜さん」 


 輝葉は笑っていた。


 その笑顔は、明るかった。


「大本命のあなたを最後にしたのは、他の4人のうち誰かが、私のことを疑うことなく、私の願いを叶えてくれるんじゃないかっていう期待があったから。その期待が叶えば、警戒心が強い上、正義感の塊なあなたと、こうして対決する手間がなくなっていいな〜っていう気持ちがあったからなんだ〜」


 輝葉は、笑顔を止めることをしなかった。


「代償のことも、私が立てた作戦のことも、全部全部知られちゃったけど、あなたには、そんなこと、関係ないよね〜?」


 輝葉は、優樹菜の心に語り掛けるように、そう言った。


「あなたにとって、勇人は特別だって、私、知ってるよ?だって───あなたと私が、勇人に抱いてる気持ちは、同じだから」



「だから、さ、中野優樹菜さん」



「あなたと、私のためじゃなくて、勇人のために、願い事、してくれない?」

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