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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第1章
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April Story17

葵の励ましを受けた蒼太が、次に向かう場所は───?

  オフィスには誰もいなかった。


 翼は、まだ倉庫室にいるのだろうか?と蒼太は思った。


 時刻は午後5時10分。後、20分もすれば、蒼太は帰らなくてはならない時間だった。


「あ……、そういえば……」


 蒼太は、ある事を思い出した。


「あの、みんなって……、˝ASSASSIN˝のこと、家の人に伝えてる……?」


 その問いに葵は「えっとね」と宙を見上げた。


「伝えてないのは、翼だけかな。あたしのお母さんと、勇人のお父さんが警察の人なんだけど、2人とも“ASSASSIN”のこと担当してるんだよね」


「あ……、そうなんだ……」


 そういうことか、と蒼太は納得した。


「蒼太くんは伝えないつもりでいるの?」


「うん……、絶対、心配かけちゃうから。……でも、ぼく、隠し通せるかが不安なんだよね……」


 今日のように、5時に帰ることができる日ならば父より先に家に着くことができるが、それ以上を過ぎると父に夕方を過ぎても出歩いていることを追及されかねない。

 

 そうなった場合、蒼太は、それを切り抜けられる自信が無かった。


「うーん、難しいね」


 葵が腕を組んだ。


 その後、葵は、不意に何か思い付いたように「あっ!」と、声を上げた。


「もし、遅くまで何してたんだって聞かれたら、あたしの家使って?」


「えっ……、いいの……?」


「うん!そうしたら、蒼太くん、怒られなくて済むでしょ?」


「そう……だね。……ありがとう」


「葵の家に行っていた」───そう言えば、父も納得してくれそうだ。


 残りの約20分間、蒼太は葵と共に学校の宿題をして過ごした。


 5時半になり、荷物をまとめ始めた蒼太に葵は、


「送ってく?」


 と、聞いてきた。


 それはつまり、葵の能力を使うかどうかということだった。


「あっ……、今日は、大丈夫……」


 蒼太は葵の誘いを断った。有り難い提案なのだが、いつまでも葵の能力に頼っていたら、翼に教えてもらった道を忘れてしまいそうな気がした。


「じゃあ、ここでバイバイだね」


「うん。あ……これ、洗って返すね」


 蒼太は葵に借りたハンカチを指していった。


「あ!忘れてた」


 葵が声を上げ、目を見開く。どうやら、蒼太にハンカチを貸したことをすっかり忘れてしまっていたようだ。


 蒼太は思わず、小さく笑ってしまった。


 そして、葵の目を見つめて、こう言った。


「……ありがとう。ぼく、がんばるね」


 勇人の事だけじゃない。葵は自分に他にも大切なことを、教えてくれた。


 葵は笑顔を浮かべ、大きく頷いた。


「うん!がんばろうね、一緒に」


 その言葉は、蒼太の心に、とても、温かく響いた。


「……じゃあ、また明日ね」


 蒼太は自分から、葵にそう告げた。


「ばいばい!気をつけてね」


 葵が、手を振った。


 ※


 蒼太は、部屋を出た。


 そして、今日も昨日は想像もしていないようなことが起こった、と考える。


(兄ちゃんと、話せた……。兄ちゃんが今、どんな風なのか知れた……)


 自分が期待していた結果では無かったものの、蒼太はこの場で落ち込むことはしなかった。浮かんだのは葵の顔だ。


(ここで諦めるたくないって、思わせてくれたから……)


 そう決まれば、次にすることが見えてくる。


(ええと……、名刺に電話番号書いてあったよね。でも、あの時は入るって決まる前だったからで、今は直接伝えに行った方が良いのかな……?)


 新一からの言葉を思い出しながら蒼太は階段を降りる。


(でも、どの部屋にいるんだろう……?)


 1階の廊下には電気が点いていた。


 蒼太は廊下を進んだ奥に気の厳重な造りのドアを見て、「あそこ……?」と声を上げた。


(違っても、怒られない、よね……?) 


 蒼太は廊下を進んだ。


 ドアの前に立ち、ノックをしてみた。


 すると、数秒してから、ドアが内側から開いた。


 新一は蒼太の姿を見て、驚いた様子も無く「ああ、お疲れ様」と、いった。


「あ、あの……、ちょっといいですか……?」


 蒼太は部屋が当たっていたことに安堵するのではなく、逆に緊張を感じてしまった。


「あの……、“兄ちゃんのお父さん”と話すの……、近い内にしたいんですけど……」


 蒼太は新一を見上げた。


「何曜日が良い?休みの日の方が良いかな?」


 特に、驚いた様子もなく、そう、尋ねられた。


「あっ……、できたら……」


「なら、今週の土曜日に頼んでみるよ。余程のことが無い限り、来てくれると思う」


(今週……、結構、すぐだな……)


 蒼太は自分が認識した形で˝本当の父˝に会うことに対して、やはり、不安を感じた。


 そんな蒼太に新一は、


「この前、話したんだがね、君が会おうとしてくれているのであれば、会いたいと言っていたよ」


 蒼太は「え……?」と声を上げた。


「そうなんですか……?」


「うん。亮助さんは、非常に真面目で、とても優しい人だ。けれども、君が亮助さんに会うのを不安に思うくらい、亮助さんも君に会うのを不安に感じていると思う。だから、最初はぎこちないかもしれないけれど、君が気になっていることには包み隠さずに答えてくれると思うよ」


 亮助───蒼太はその名を初めて知った。新一の口調から、新一は˝本当の父˝のことを信頼しているのだと蒼太は悟った。


(だったら……、大丈夫かな……?)


「そういえば、メンバーになることになったんだってね」


 新一が言った。


「それなら、明日、亮助さんの返事を伝えるよ」


「あ……、それって……ぼくがここに来た方が良いですか……?」


 蒼太は部屋を指していった。


「いいや、私が伝えに行くよ」


 新一が穏やかな声で答える。


「……わかりました。……ありがとうございます」


 蒼太は、ほっとして頭を下げた。


「うん。そうしたら、よろしく」


 新一は、そう微笑み、部屋の中へと戻って行った。

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