Nowadays
"ASSASSIN"第8章!
謎の少女の登場に、波乱の展開が……!?
是非、お楽しみいただけると幸いです!
「冬って寒いようで、暖かいよね」
唐突な妻の言葉に、私は思わず「ん?」と首を傾けた。
妻はコーヒーカップに入ったカフェオレを啜り、
「こうやって、暖かい部屋で、温かい飲み物飲んで、あなたと何気ない話してる時間、いいよなぁって思って」
と、言った。
妻は不意に、聞いているこちらがどう反応したらいいか分からなくなるほど、照れくさいことを言ってくる時がある。
私はそれを隠すために視線を上げて、「そういえば……」と口にした。
「去年の冬、茉奈と雪遊びした時、同じようなこと、思ったな」
去年は、降雪の多い年だった。小さな雪だるまくらいなら作れそうだと外に連れて行くと、冷たい風をもろともしない元気さで、茉奈は大いにはしゃいだ。
「こんなに寒いのに、見える景色は暖かいって不思議だなぁって」
「冬の寒さも、愛が作る温もりには勝てないってことなのかもね」
妻はもう一口、カフェオレを飲んで、ふぅと、息を吐き出した。
「何だか、冬って、感傷的になっちゃうなぁ」
「考えてみると、歌とかもそうだよね。冬の歌には、切ないものが多い気がする」
「たしかに……。みんな、冬になると、ちょっと、こう……ノスタルジックになっちゃうのかな」
その言葉をきっかけに、私たちはしばし、それぞれの思考に思いを馳せることになった。
妻とこうして2人きりで話すことは、毎日とは言わずとも、茉奈が寝てからの時間には、よくあることだった。
しかし、いつもこのような深い話をしているかと言われれば、決してそうではない。多くは、その日一日に起こった出来事や、茉奈がこんなことを言っていたと報告して笑いあったりする。
どうして今、こんなにしんみりとした空気になったのだろう。
これは冬の“寒さ”によるものなのか、もしくは、“暖かさ”によるものなのだろうか。
───考えてみて、私は、“結局、冬は寒いのか、暖かいのか”という議題に行きついてしまい、「何だかなぁ……」と声を漏らした。
「大人になると、難しいことばっかり考えちゃって、嫌になるね」
私は、妻に苦笑を向けた。
「最近、若い時のことを思い返すことが多いんだけど、何て言うかこう……子どもの時って、その時にしか見えない、"色"みたいなものが見えていたんだろうなってすごく思うんだ。大人になって、思い返すことはできるけど、実際に見ることはできない、不思議な色」
妻は「不思議な色……」と私の言葉を繰り返し、
「うん───何だか、分かる気がする」
と、頷いた。
ストーブが、「チチチ……」と、微かな音を立てた。
私はオレンジ色の暖かな光りに目を向けながら、コーヒーを一口、飲んだ。
「ねえ」
声に、私は妻を見た。
妻は、悪戯っぽく口元を笑わせていた。
「お話、聞かせてくれない?」
その言葉に、私は「何だよ」と笑みを溢した。
「どこかで聞いたことあるな。茉奈の真似?」
妻も「ふふ」と笑った。
「たまには、私も聞きたいなぁって思って」
「いいよ、分かった。本、取って来る」
私は椅子から立ち上がり、隣の部屋で寝ている茉奈を起こさないよう、そっと、書斎に向かった。
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