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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第7章
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October Story21

出会って一週間───「後何度、会って話せるだろうか?」残りの日数を数え始める2人。

(Jさんに、今日は何時頃からいるのか聞くの、忘れてた……)


 蒼太は僅かな後悔を感じながら、遊歩道を歩いていた。


 Jと出会って1週間が経ったこの日は日曜日。休日にJに会いに行くのはこの日が初めてだった。


 只今の時刻は午前10時。何時に家を出ればいいのか分からず、早すぎず遅すぎずのこの時間を選ぶことにした。


 蒼太は歩きながら、頭上の木々を見上げた。


 この前来た時よりも、葉の数が少なくなっているような気がする。


(10月31日まで……、後1週間だ……)


 蒼太はJとの約束を思い出した。同時に、その1週間の中でも、1日おきに会う約束であることを思う

と、Jに会える回数は、もうそう多くないのだと気が付く。


(約束……引き延ばしたりできないのかな……?)


 寂しさから、そう思ってしまう。


(31日を過ぎたら、“ASSASSIN”もいつも通り動くようになって、今みたいにたくさん会えることはなくなっちゃうかもしれないけど……)


 それでも、時々約束して会うことはできないだろうか───と、蒼太は思った。


(Jさんに、聞いてみようかな……)


 31日までの約束にしたのには、何か理由があるのか───どうか。


 蒼太は肩に掛けたリュックの紐を、ぎゅっと握りしめた。


 その答を知るのは、少しだけ怖いような気がした。


 思い返されるのは、Jが激しく咳き込んだあの光景だ。


(Jさんが……“もう、少しだけしか生きていられないから”って……そう答えても……、ぼくは……それでもいい……)


 どんな答が待っていようと、この先もJと会って話したい気持ちに、揺らぎはない。


(不思議だな……)


 あの池へと続く、並木道の出口を見つめながら、蒼太は思った。


(まだ、出会ってから1週間しか経ってないのに……ぼくの中で、Jさんが、“特別な人”になってる……)


 人と関わるのが苦手で、外にいる時間はなるべく知らない人と話したくない───そういつも、思い続けている自分が、自ら「この人ともっと話したい」と、そう思う存在。


(Jさんも……ぼくのこと、そう思ってくれてるかな……?)


 そう思っていてほしい───いや、きっと、そう思ってくれているはずだ。


「蒼太くん」


 後方からした声に、蒼太は振り返った。


 そこには、頭に思い浮かべていた人物がいた。


「Jさん……」


 Jは蒼太のもとに歩み寄って来た。


「今日は、早いな」


 Jは言った。


「あ……今日、学校、休みだったから……」


 答えると、Jは「ああ」と、納得したように頷いた。


「そうか───今日は、日曜日か」


 その様子から、蒼太は、Jがいつもこのくらいの時間にこの場所に来ているのだと察した。


「あっ……、Jさん……あの、咳は……?」


 問いかけると、Jは「もう、大丈夫だよ」と答えた。


「心配を掛けてしまって、申し訳ないな。よくあることなんだ」


 Jは何気ない口調でそう言って、先の道へと目を向けた。


「行こうか」


 蒼太は、こくりと、その言葉に頷いた。


  ※


「学校がない日も、同じ鞄を持ってるんだな」

 

 ベンチに腰を下ろすと、Jは蒼太の膝の上を見て、そう言った。


「スケッチブック……小さいカバンだと、入らないから……」


 蒼太が説明すると、Jは納得したように頷いた。  


 同じ鞄とは言え、この日は必要最低限の荷物をまとめていた。教科書を抜き、筆箱からペンを一本抜き出して、外側に付いた小さいポケットの中に入れてきていた。蒼太はファスナーを開け、中を探った。


 そうして手を引いた時───手の甲にくっついて来るようにして、ペンの他に外に飛び出たものがあった。


「あっ───」


 蒼太は咄嗟に能力で、地面に落ちていこうとしたそれを止めた。


 手で拾い上げて、蒼太は「あっ……」と気が付いて、Jを見た。咄嗟に、能力を使ってしまった。


 しかし───Jの視線は、蒼太の水色の光を放った瞳ではなく、蒼太の手元へと向いていた。


「御守りか?」


 Jが、蒼太を向いた。


 蒼太は手の中を見つめて、頷いた。


「大切な……ものなんです」


 蒼太は声に出して言った。


「ぼくの……お兄ちゃんがくれたもので……」


 Jの目の色が、僅かに変化した。何かを察したような───そんな瞳になった。


「お兄ちゃんとは───今、一緒に住んでないのか?」


 Jの言葉に、蒼太は、はっとした。


 何で───どうしてわかるんだろう。


 Jは真っすぐに、蒼太の目を見つめている。


 蒼太の答を、待っている。


 その目を見て、蒼太は決めた。


 Jさんには、ちゃんと話そう───と。


「……そうか」


 蒼太が話し終えて、長い間を作った後、ぽつりと、Jは頷いた。


 蒼太が小さく頷き返すと、Jは、蒼太の手元に、目を向けた。


「お兄ちゃんがいたことを思い出させてくれた───それだけじゃなく、お兄ちゃんがくれたものだから

こそ、大切なものなんだな」


 蒼太はJと同じ場所を見つめた。


 水色のお守り───見つめて、蒼太は「……はい」と答えた。


 Jはじっと見つめていたお守りから、視線を上げて、蒼太の目を見つめた。


「蒼太くん」


 呼ばれて、蒼太は、Jの目を見上げた。


「お兄ちゃんが一人で家を出た理由───それを知りたいと、思う時はあるか?」


 問われて、蒼太は「えっ……」と声を上げた。


「あり……ます」


 蒼太は、Jに頷いた。Jさんは、どうして、こんなにもぼくが考えてることを分かってくれてるんだろう───そう、感じながら。


 Jは「そうか」と言った。


 言ったその目は、柔らかかった。


「人の行動には、必ず理由がある」


 Jは言った。


「私がこうして蒼太くんと話していることにも、理由がある。理由のない行動は、存在しないんだ」


 Jは「だからね」と言葉を続けた。


「いつか、お兄ちゃんに、聞いてみたらいい。今すぐじゃなくていいんだ。いつか、君はお兄ちゃんと、何でも、どんなことでも、話せるようになる───そんな日が、必ずやって来る。その日を、待てばいいんだ」


 その言葉を聞いて───蒼太は、心がじんわりと暖かくなるのを感じた。


(そっか……)


 待てばいいんだ───焦らなくてもいいんだ。


 思えば、この町に戻ってきてから、蒼太はずっと、勇人のことを考えては、焦り続けてきた。


 "ASSASSIN"のメンバーとしてようやく共に活動をできるようになった今も、知りたいこと、聞きたいこと、話したいことは、数え切れないほどある。


「今日も聞けなかった」、「言おうとしたのに言えなかった」と落ち込む日々を、過ごしてきた。


 だから今も───Jに、勇人のことを話したのだろうと、蒼太は思う。


 聞いてほしい、理解してほしい───この人なら、聞いてくれる。理解してくれる。そう思ったから。


「……ありがとうございます」


 蒼太は、Jに頭を下げた。話を聞いてくれて、理解してくれて、言葉を掛けてくれて───その感謝

を、伝えるために。


 そっと、Jの腕が動く気配がした。

 

 頭に触れた手に、蒼太は顔を上げた。

 

 Jは優しい手付きで、蒼太の髪をくしゃりと撫でた。

 

 見つめたその目は、とても優しい色をしていた。

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