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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第1章
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April Story13

"ASSASSIN"仕事内容見学2日目───受信班、そして、取調班。

 日曜日。受信班の見学は朝10時から始まった。


 蒼太は˝ASSASSIN˝本拠地内の資料室という部屋にいた。


 名の通り、壁中を埋め尽くす本棚には数えきれないほどの資料が入っていた。


 中央に置かれたテーブルを優樹菜と囲むのは、やはり緊張した。


「こんな感じでレポートっていうのを作るの。捕まえた時の情報なんかを書いたりして」


 優樹菜は本棚から取り出したファイルの中身を蒼太に見せてくれた。


 そこには男の顔写真と綺麗な字で書かれた文章が載っている。


「捕まえた時の情報は、私が葵から聞いたのをメモして、それを肉付けして文章にする感じで作ってて。これは、ある程度溜まったら、コピーを取って、警察の担当の人に届けることになってるの」


「後は……」といって優樹菜はスマートフォンを取り出した。


「みんなに送るスケジュール作り。この日に、この班の動きがあるっていうのを確認するためのもの」


 画面にはたしかに、4月のカレンダー上に、文字が書き込まれたものが映っていた。


 蒼太が頷いたタイミングで、電話の着信音が部屋に響いた。


 優樹菜がテーブルの端に置かれていた子機を手に取る。


「もしもし?」


 優樹菜が電話の向こうに呼びかける。


「はい、優樹菜です。……はい、依頼ですね」


 優樹菜は話しながらボールペンを手に取り、テーブル上のメモ用紙を寄せた。


「……月曜日、夕方4時から5持の間。鴨野川の橋の下に出現予定。……わかりました」


 優樹菜がメモに「月、4~5、かもの川、橋の下」と走り書きするのを蒼太は見た。


「はい、大丈夫です。……はい、失礼します」


 子機を置き、優樹菜は蒼太を向いた。


「今のは、依頼の電話。こうして依頼を受けるのも仕事の一つなの」


 蒼太は「なるほど……」と、心の中で思って頷く。


(電話か……)


 蒼太は目を伏せた。


(レポート書くのはできそうだけど……、電話はやだな……)


 蒼太は人とやりとりをする手段の中で、電話が一番苦手だった。


 相手がどんな表情をしているのか、又、場合によっては、相手がどんな顔をしている、誰なのかさえ分からない。それは蒼太にとって一種の苦痛に近かった。


(……だったら、この班も断るしかないのかな……?)


 蒼太は焦りを感じた。


(後一つ……。それも合わなかったら、˝ASSASSIN˝に入れない……)


 この後、翼の班を見学する予定だった。


(殺し屋と話すんだよね……。しかも、相手は、ぼくの顔を知ってる……)


 あの、女性を殺した男と再び会う───それを想像すると怖くてたまらなくなった。


 何せあの時、あの男は自分も殺そうとしていたのだ。


 何の躊躇もなく、ただ、犯行を見られたという理由だけで。


 ノックの音がしたのは、蒼太が不安に浸っている真最中の時だった。


「はい」と優樹菜が呼びかけると、開いたドアから翼と、その後ろに葵が顔を覗かせた


「そろそろ行こうと思うんだけど、大丈夫?」


 翼と蒼太の目が合った。


 蒼太は「全然大丈夫じゃない」と思いながらも、「大丈夫」を装って頷くしかなかった。


「やっぱりやめます」と言いたかったが、そんなことをしたら大迷惑を掛けてしまうのは目に見えていた。


 蒼太が外に出る用意で、ジャンバーを着込んでいる時、優樹菜が作業の手を止めて、葵のことを呼んだ。


「葵、何か、隠し持ってない?」


 その問いに葵は明らかにぎくりとした。


 言われてみれば、ドアの前にそわそわとした様子で立っている葵が着ているトレーナーのお腹の辺りは、心なしか膨らんでいるように見える。


「な、なにも持ってないよ。あ、あたし、何もすることないから、そ、そそそ、外で遊んでくる……」


 そそくさと言って背を向けかけた葵は、優樹菜が立がる気配で、瞬時にその動きを止めた。


「分かりやすい嘘つかないの。何持ってるのよ」


 優樹菜が一歩進むと、葵は一歩、身を引いた。


「な、何も持ってないって!優樹菜が怒るようなものなんて何も……」


 優樹菜が目を鋭くさせた。


 蒼太は自分が問い詰められているわけではないと知りながら、息を呑んだ。そのくらい、優樹菜の目は怖かった。


()()()()()()?嫌だったら言いなさいよ」


 葵も同じように感じていたようで、怯んだような目をした後、


「言わないもん!」


 次の瞬間には背を向けて走り出した。


「ちょっと!」


 その後を追う、優樹菜の動きも素早かった。

 廊下から激しい物音が聞こえ、ドアが閉まる気配があったかと思うと、外から微かに優樹菜の怒声が聞こえてきた。


 ぽかんと立ち尽くす蒼太が、優樹菜が言った、“見てもいいの?”という言葉の意味を知るのは一日空けてからになる。


 ※


 バスの車内に乗客はほとんど乗っていなかった。


 運転席側の2人掛けの座席に蒼太は翼と座っていた。


 バス停に着くまでの道中で、蒼太は翼から、これから行く場所は“専用所”という名前の建物だと聞かされた。


「専用所……?」


「殺し屋専門の刑務所みたいなところ。捕まった殺し屋はみんなそこに入れられるんだ」


 蒼太はそこで、だとしたら殺し屋が大人数いるのかと想像して、すぐにその考えを振り払った。


 窓に映る景色を眺めていると「緊張してる?」と翼が話しかけてきた。


「……は、はい……」


 蒼太が頷くと、翼は、


「するよね。普通はこんな機会、無いもんね」


 と、笑いかけてくれた。


「相手が蒼太くんに話振って来ても、僕が対応するから。ただ、取調室みたいな、狭い、ガラスとか柵とか、隔てるものがない部屋でやるから、やっぱり、襲いかかって来ることは100%ないとは言えないんだよね」


 その言葉は蒼太の心を凍り付かせるには充分だった。


 しかし、その後すぐに、翼は「けど、安心して?」と言った。


「そういうことが起きても、僕が能力で防ぐから。それに警察の人が外で待機してくれてて、万が一のことがあったら、助けてくれるから」


(そう……なんだ……)


 蒼太はつまり、自分は本当に同席しているだけで良いのだと悟った。


(……でも、もし、本当にこの班に入ることになったとしたら、ぼくも話さなくちゃいけなくなる……)


 蒼太はそれを思って気持ちが沈んだ。


(やっぱり……、無理なのかな……?いや……、でも……見てからじゃないと分からないか……)


 不安を残したまま、バスが停まった。


「よし、降りよう」


 翼が立ち上がった。


 蒼太は翼が押したであろう停車ボタンの音に、全く気付かなかった。


 窓から見える景色が山道に変わっているのを見て、もう少し歩いたところに目的地があることを察し、できることなら着きたくないと感じている自分が、蒼太は嫌になった。


(だから、見学なんだって……。翼さんが一緒にいてくれるから、大丈夫、きっと……)


 バスを降り、蒼太は自分に言い聞かせた。


「あの坂、上った先なんだよね」


 翼はそういって、前方にある、緩やかな坂道を指差す。そこに建物がある気配は全く感じられなかった。


 2人は道路を横切って坂を上り出した。

 半分ほど上ったところで、蒼太は建物の影を見た。


 坂を上りきると、その全貌が明らかになった。


 蒼太が想像していた重々しさはあまり感じられなかった。灰色の壁の大きな建物は、割と最近建てられたようだ。


 入り口はガラスの両扉になっている。翼の後を追い、蒼太は建物内に入った。


 中は薄暗く、蒼太はそこで初めてこの場所の厳重さを感じた。


 向かいのカウンターに座っていた、制服姿の男性警察官が2人を見た。


「こんにちは」


 翼が挨拶すると警官は「こんにちは」と軽く微笑んだ。


「新しい子かい?」


 警官が蒼太に目を向ける。


「見学の子です。清水蒼太くん」


 翼に紹介され、蒼太はおどおどと頭を下げた。


 対し、警官は、


樋口ひぐちです。よろしくね」


 と、口元に微笑を浮かべた。


「今日は、蒼太くんにも同席してもらう予定なので、よろしくお願いします」


「うん、わかったよ。───内藤ないとうさん、到着確認終わりました。今日は、見学の子も一緒だそうです」


 樋口は胸に付いた無線機に向かってそう話しかけた。


 ボソボソとした機械音混じりの声が返って来るのを蒼太は聴いた。


「内藤さんが、いつもの場所で待ってるから、そこまで行ってもらってもいいかい?」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


 翼は「行こうか」と蒼太を振り返った。


 向かって左の通路を蒼太は翼に連れられるまま進む。


 通路の端には一人の警官が立っている。


(あの人が、内藤さん……?)


 蒼太の疑問は翼がその警官が声を掛けたところで晴れた。


「内藤さん」


 制服の上からでも分かるほど、がっちりとした体の中年男性だった。


「中に座らせてるけど、かなり危険行動が目立つから、くれぐれも気を付けて」


 内藤はそう、小声でいった。


「わかりました」


 翼が頷く。


 翼の目線を追うと、頑丈そうなドアがあった。


 蒼太が心の準備を追えるのを待たず、内藤がドアを開けた。


 蒼太は部屋の中に椅子に座った、見覚えのある男が座っているのを見て、あの日、殺人を見た時のような恐怖を感じた。

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