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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第7章
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October Story6

Jの”人生”の物語が、始まる───。

 放課後、蒼太は帰り道の途中で「ちょっと用事があって……」と葵に告げ、たちばな公園へと向かった。


 平日の午後。園内にいる人はほんの僅かで、蒼太は池に向かいながら、「Jさんはほんとにあの場所にいるのかな……?」と考えた。


(昨日は、ああいう風に言ってくれたけど……1日経って、気が変わって、やっぱり、ぼくに頼むのはやめようって、そう思ってても……おかしくない……)


 何せ、自分たち2人はずっと前からの知り合いではないのだから。Jが"約束"を放棄したとしても、責められる話ではない。


 でも───それでも。


 蒼太は、あのベンチに、あの老人の姿が見たかった。


(何でだろう……?不思議だな……)


 極度の人見知りで、人との会話がとことん苦手なはずの自分が、あの老人に対して、「あの人ともっと話したい」と思う理由が、蒼太には分からなかった。


 遊歩道を抜けると、池が見えてきた。


 蒼太はドキドキしながら、ベンチの方に向かった。


 そうして、見えた先に、あの老人───Jがいた。


 蒼太がゆっくりと近付いていくと、Jは顔を上げた。


「来てくれたんだな」


 目が合うと、Jは言った。


「学校の帰りかい?」


 Jはそう問いかけながら、蒼太が答える前に、ベンチの空いたスペースを手で叩いた。


「ほら、座りなさい」


 蒼太は「あっ……」と、言われた通り、Jの隣に腰を下ろした。


 肩から下ろしたリュックサックを膝に置くと、Jはそれをじっと見つめてきた。


「重そうだね」


「あ……教科書とか……いっぱい入ってるから……」


 蒼太は、緊張を隠しきれないまま、返事をした。


 すると、Jは「そうか」と言って、僅かに目を微笑ませた。 


 蒼太は鞄からスケッチブックと鉛筆を取り出し、「ええと……」と、控えめにJを見つめた。


 人生を絵にする───それをするためには一体、何から始めるべきなのだろうか。


 声に出していないのに、Jは「そうだな」と答えた。


「まずは、私が私の人生について話そう。いくつかのブロックに分けて、ね。そして、そのブロックごとに、君に絵を描いてもらいたいんだ」


 蒼太はその言葉を理解し、「ああ……」と頷いた。


「じゃ……じゃあ……」


 蒼太は鞄の中を探り、いつも"ASSASSIN"の活動で使っているノートを取り出した。


「そのお話……メモしても、いいですか……?」


 Jはチラリとノートに目を向けた後、蒼太の目を見つめて、


「ああ、構わんよ」と、答えた。 


 蒼太がノートを開いて見上げると、Jは「それじゃあ」と口を開いた。


「私の人生を、聞いてもらおうか」


 そして、またJは、あの───悲しそうな目をした。



 遺体の身元が判明した。


 三枝さえぐさ成仁なりひと、32歳。職業、殺し屋。


 殺し屋が殺人事件の被害者になったという事例を、亮助は初めて目の当たりにした。


 特別組織対策室内にある、殺し屋の名前と顔写真が記載されたリストに当てはまるものがあったのは幸いだった───と、亮助は息を吐き出した。


 ここで見つからなければ、"ASSASSIN"のデータベースを借りる流れになるところだったのだ。唯一持ち合わせている遺体の顔写真を送ることにならなくてよかったと、大きな安堵を感じた。


「また、いつ電話が掛かってくるか、分かんないよね」


 舞香はそう言って、顎に手を当てた。


「非通知で掛かってきた電話は、こっちに回してもらうように頼んであるから、どっちか1人は、必ず残ってた方がいいよね」 


 亮助は「そうだな」と頷いて時計を見上げた。


 時刻は、午後4時を回ったところだ。


「署に直接電話を寄越したことから考えると、誰かしら職員がいる時間を狙って掛けてくる可能性が高そうだな」


 2人で話し合い、今日から31日まで交代で、どちらか1人が夜7時まで署に残ろうと決めた。


「死因は出血死。大動脈を切断されて……か」


 舞香が捜査資料を見つめて言った。


「手首にロープのようなもので拘束された跡……あの、紫色のロープで間違いないよね」


 亮助は舞香の声を耳で聴いていた。


 しかし、その内容は───頭に入ってきていなかった。


「亮ちゃん?」


 呼ばれて、亮助は、はっと気が付いた。


「大丈夫?何か、さっきから様子おかしいけど」


 舞香が首を傾けて自分を見つめていた。


「いや……」


 そう返事をした後で、亮助は視線を逸して、思い直した。


 これは、事件を捜査する上で必要になるかもしれない事項だ。


「……あの、紫色のロープと似たようなものを見たことがあってな」


 舞香の目を見れぬまま、亮助は言った。


「40年前の、ちょうどこの時期だった」


 舞香がはっと息を呑み、目を見開く気配がした。


 室内に、沈黙が訪れた。


「……今日は、俺が残るな」


 亮助は舞香に視線を向けた。


「え……?でも……」


 舞香の目には、心配と不安の色が浮かんでいた。


「色々と、考えたいことがあるんだ。それに、このままの状態でお前にこれ以上心配を掛けるようなことはしたくない。整理をするための時間が欲しい」


 そう告げると、舞香は、


「わかった……」


 と、目の色をそのままにして頷いた。


 ───が、数秒後、


「そういうことなら、反対しない。でも、何かあったら、連絡してね。私、すぐに駆けつけるから」


 舞香はそう、笑顔を見せた。


 今度は亮助が「わかった」と頷く番だった。


 そして、舞香には聴こえぬよう、長い息を吐き出した。


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