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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story33

事件解決後。

新一のもとに、翔子からの連絡が訪れる。

 午前9時。新一はメンバーから“社長室”と呼ばれる自室で電話を受けていた。


「今、報告書を書き終えたわ。これから飯岡に会いに行って来る」


 電話越しの翔子は昔と変わらない、てきぱきとした口調で言った。


「飯岡さんはこの結果をどう受け止められるでしょうか」


「そんなこと考えるだけ無駄よ。あの人はどんな結果になろうと文句を付けてくる───自分が全ての人だからね」


 翔子の答に、新一は「そうですね」と苦笑した。


「"ASSASSIN"の活動についてなんですが、今日から4日間は活動を休みにしたんですよ。この一週間は土日も動いてもらっていたので。今日一日は久しぶりにゆっくり過ごしてもらえるんじゃないかと思います」


「ああ、そうなのね。───そうね、今日は、祝日だものね」


 翔子の声に、新一はカレンダーに目を向けた。


 秋分の日。昼と夜の長さがほぼ等しい日だ。


「源くん」


 不意に、翔子に呼ばれ、新一は「はい?」と声を返した。


「一つ、伝言をお願いしてもいいかしら」


 翔子が息を吸い込む音が、微かにした。


「全てを任せるような形になってしまったこと───本当に、申し訳ないと思ってる。言い出したのは上の人間だとしても、その責任の一端は、私にあるわ」


 翔子は“ASSASSIN”のメンバー6人に向かって語り掛けるように言った。


「だけれど今は、それ以上に、“ありがとう”の気持ちが強くある。本当にありがとう。あなたたち6人のお陰で、この事件を解決することができた───と」


 新一は一言一句、その言葉を噛みしめて、頷いた。


「わかりました」


 僅かに間を置いてから、新一は「───ですが」と、切り出した。


「彼らは───あの子たちは、誰かに感謝されることを求めて、この依頼を受けたわけではないと、私は思います」


 新一はメンバーが帰った後、資料室の机に残された資料の山やメモ書きを見て感じたことを思い出した。


「あの子たち6人は、この依頼に、ただただ真っすぐに向き合いました。そして、その過程で、沢山のことを学んだと思います───私は、それこそが、あの子たちが“ASSASSIN”のメンバーとして生きる理由だと感じます」


 そう口にすると、しばらくして、「本当に」と、芯がありながらも優しい、翔子の声が返って来た。


「あなたは、素敵な人よ───源くん」


 翔子は言った。


「そして、それと同じくらい、“ASSASSIN”という組織が素敵だということを、私はこの事件を通して、知ることができたわ」


 新一は「ありがとうございます」と───その思いがしっかりと伝わるように声にした。


 振り返った先には、秋の爽やかな青空があった。


 ※


 源新一との電話を終え、翔子は机上の書類整理を始めた。


 事件は解決に終わった。


 そこに感じた達成感や安堵を周りにひけらかさない術を、翔子は知っていた。ただ平然と何事もなかったようにしていれば、あれやこれやと詮索してくる同僚も寄って来ない。


 手元を動かしながら思い出すのは今朝の、飯岡茂との会話だった。


「流石“ASSASSIN”───と言ったところだな」


 報告書を読み終えた飯岡は満足げにそう言った。


「彼らに任せた私の判断は正しかったということだ。お前も、随分と助けられただろう、田所」


 翔子は「ええ」と答えた。


「本当に、頼りになりました」


 翔子は黒い革の椅子にだらしなく腰を沈めた飯岡を見つめた。


「お陰で、私の薄汚い能力を使わずに済みましたしね」


 飯岡の眉がぴくりと動いた。


「田所……お前、私を脅すつもりか?」


「いいえ、そんなつもりは御座いませんよ」


 翔子はかぶりを振ってから、「ですが」と鋭い視線を飯岡に向けた。


「あの日に言った言葉は、本気だということです。あなたが今後、“ASSASSIN”の正体を探るような真似をしたら、私は迷いなく、能力を使います。それだけは、覚えておいてください」


 飯岡の顔に、苦々しい色が浮かんだ。


「やれるものならやってみろ」


 吐き捨てるように、飯岡は言った。


「お前はその力のせいで仲間を失った───それを忘れたわけでないだろう」


 翔子はくるりと飯岡に背を向けた。


「悪夢は繰り返されるぞ、田所」


 飯岡の声色が変わった。人を見下し、馬鹿にし、嘲笑うような声だ。


「本当に薄汚い力だ、お前の能力は」


 翔子は湧き上がって来た怒りを押し殺しながら部屋を後にした。


 ※


 翔子の能力───それは、“人の言葉を他人に伝える力”だった。


 自らが聞いた声による言葉を、録音した音声のように人に聞かせることができるというものだ。


 翔子はそれを用いて、自分の行動を監視し、“ASSASSIN”の正体を探ろうとした飯岡の醜態を上層部の人間に知らせることを考えた。


(だけど───悔しいけど)


 翔子は唇をきつく噛みしめた。


(あの男の言う通り……私は、この力に因縁がある……。むやみやたらに使うことはできない)


 それを飯岡に逆手に取られてしまった───ならば、彼の言う通り、この方法は、単なる“脅し”にしかならないのかもしれない。


 飯岡茂という脅威は、そう簡単に免れることはできない───。


(脅威、と言えば……)


 翔子はふと、“あの事”を思い出した。


 パソコンのメール画面を開き、9月18日に届いたメールをクリックした。


 仁堂清道の自宅を調べた後、食器棚と台所で写した写真を送ってから、“仁堂清道は酒癖が悪かったというのは事実なのか”というメールが一件。


 そして、もう一件。


 “アイズは崩壊したのか”


 そのメールには、その言葉と、送り先とは異なるメールアドレスが載せられていた。


 翔子はそのメールを見た瞬間───意表を突かれた。


 “アイズ”というのは、かつて存在していた殺し屋組織だ。


 “魔王”と呼ばれ恐れられていた御神有馬が率いた、“裏社会ナンバーワン”と称された大規模な殺し屋組織であった。


 翔子はすぐに返信できなかった。


 何故なら、“アイズ”は、“HCO”が崩壊を最終目標としていた組織であり、“極秘中の極秘”として扱われた存在であったからだ。


 それを何故───“ASSASSIN”のメンバーが知っているのだろうと、大いに動揺してしまったのだ。


 だが───メールの文字を繰り返し読んでいる内に、「答えなくてはいけない」という、自分でも根拠が分からない感覚に囚われた。


 “分からない”


 そう、翔子は返信をした。


 9月20───晴美が自首をした日。その直前、晴美から電話がある数分前に、翔子はメールアドレスにそう送ったのだ。


 “アイズは現在、その行方を追うことをきつく禁じられているから、あなたの質問に答えることはできそうにない”


 “ごめんなさい”───それに対しての返答は、未だにない。


 ただ───翔子はメールの送り主について、新一から聞いた。


 “水曜日に動いていた班の子の中で、“アイズ”のことを知っていそうな子に、心当たりはない?“───その問いかけに対し、新一は、こう答えた。


 “恐らくですが───勇人くんだと思います”


 翔子は微かに、その名に聞き覚えがあるような気がした。


 そして、直後の言葉で、納得がいった。


 “亮助さんと、さくらさんの、上の息子さんです”


 翔子はメールの画面を消し、パソコンを閉じた。


(勇人くん───矢橋勇人くん、ね)


 いつか会ってみたい───と、翔子は思った。


 鞄を持って立ち上がると、隣の席の巽に「先輩?」と呼ばれた。


「どこか、行くんですか?」


 翔子は「ええ」と答えた。


「晴美さんのお家に行って来るわ。晴美さんと帆希ちゃんに会いに───ね」


「じゃあ」と椅子を中に入れ、翔子は歩きだした。

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