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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story29

清道を殺害した人物の正体が、明かされる───。

 話したいことがある───翔子からの連絡を聞きつけた3人は、警察署へと向かった。


「晴美さんの取り調べが無事に終わったわ」


 舞香のスマートフォン越しに、翔子の声はした。


「あなたたちが根気よく調べてくれたお陰よ、ありがとう」


 淡々としているが、真っすぐな言葉に、優樹菜は見えないと分かっていながら、首を横に振った。


「ネックレスのこと、気付いてくれたのね」


 証拠の声が僅かに柔らかくなった。


「もしかしたら、知らないんじゃないかと思っていたんだけれど、私から連絡を入れる必要はなかったみたいね」


 棺のチャームが付いたネックレス───その形状について、優樹菜は翼から説明を受けた。


「能力によって作られたものなんです」


 翼は写真を指しながら言った。


「一度身に着けたら、能力の所有者以外は外せないようになっていて、“お前は組織の人間だ。お前は組織から逃げられない”ということを、常に感じさせる目的があるそうです」


 優樹菜は「だけど……」と、写真を見つめた。


「だとしたら……どうして、チェーンは切れてるの?」


 翼は資料を持ちあげ、「見えますか?」と、指でネックレスのチェーン部分をなぞった。


「この、切れてる部分の近くから、アルファベットの形になってるんです」


 優樹菜はそう言われて、はっと目を見張った。


「ほんとだ……」


 チェーンの一部が、文字になっている。


 優樹菜は、その文字を目で追った。



 “U” 


 “R”


 “A”


 “G”


 “Ⅰ”


 “R”


 “Ⅰ”


 “Ⅿ”


 “N”


 “O”


「裏切り者……」


「組織を抜けようとか、殺し屋をやめようと思った瞬間に、首から外れて、見せしめのように文字が浮かぶようになっているんです」


 翼が言った。


「僕も、実物は初めて見ましたけど、これこそが、田所さんが“殺し屋の犯行”を判断した理由、でしょうね」



「これで犯人───殺し屋に踏み込んで行けるわ」


 翔子は言った。


「えっ!もう、誰か見つかってるんですか?」


 葵が声を上げた。


「晴美さんのスマートフォンの中身と、取り調べの内容から、見当が付いたわ」


 翔子は答えた。


「これから、会いに行くわ」


「だから、後は私に任せて」───その言葉で、通話は終わった。


 ※


「おはようございます」


 柔らかい声に、翔子は振り返った。


「おはようございます、大岩さん」


 翔子は頭を下げ返した。


 大岩智は紺のスーツ姿で、目の前に見える海と同じ色のネクタイを締めていた。


「お話とは、いったい何でしょうか?」


 大岩は前に会った時よりも、若いように見えた。


「先日、晴美さんから私に、"清道を殺したのは私です"との連絡がありました」


 智の目が、大きく開かれた。


 翔子はその目を見つめた。


「捜査と取調の結果、無実であることが証明されました」


 そう告げると、智の瞳に、一気に安堵の色が広がった。


「よかった……」


 呟くように、噛み締めるように、智は言った。


 翔子は表情を変えずに、「取調にて」と切り出した。


「晴美さんは、誰かを庇うような趣旨のお話をされていました。その誰かというのは、晴美さんが3年前から、お付き合いをされていた男性───」


 翔子はじっと、大岩智を見つめた。


「お分かりになられますよね?」


 智は、目を下に向けて、「……はい」と、頷いた。


「……僕です。……僕は、晴美さんと、付き合っていました……」


 晴美のスマートフォンから見つかった男性とのメールのやり取り───その相手は、大岩智だった。


 翔子は智の 色の瞳をじっと見つめた。


「それだけ───ですか?」


 問いかけると、智は「えっ?」と、目を向けた。


「それだけじゃないですよね?」


 翔子は鞄の中から、ある物を取り出した。


 智が、ビクリと身体を揺らしだ。


「あなたのものですよね?」


 翔子は棺のチャームの付いたネックレスが入った袋を持ち上げた。


「殺し屋の───大岩智さん」


 目を伏せ、強く拳を握った智に向かい、翔子は息を吸った。


「署までご同行願えますか?」


「……僕のことは、いつから……?」


 俯いたまま、大岩智はぽつりと言った。


「晴美さんにお話を聞いた───昨日です」


 翔子は答えた。


 翔子は「あなたは」と智を呼んだ。


「殺し屋になったばかり───違いますか?」


 智が目を上げた。


 そして、悲しげに頷いた。


「……その通りです」


 智は言った。


「僕は……半年前に組織に入ったばかりの人間です……」


 やはりそうか───と、翔子は思った。


「犯行に雑味があると感じて、そう思ったんですよ」


 翔子は最初に現場を訪れた時のことを思い出した。


「凶器であるロープを残し、組織の証明であるネックレスを起き放してある───経験を積んだ殺し屋ならば、現場を立ち去る際に部屋の様子を確認しないことなんてあり得ません」


 智は深く頭を下げ、「……僕は……」と、声を発した。


「あの瞬間に……組織を抜けたいと考えてしまったんです……まさか……まさか、ネックレスが切れて、あんな文字が現れるなんて、そんなこと……」


 智の身体が震え出した。


 震えたまま、智は、これまでのことを語り始めた。


 ※


「殺し屋になったのは……半年前に、ある男と出会ったからです……」


 智は息を震わせたまま言った。


「その男は、殺し屋でした……。僕がいた組織の人間で……僕のことを前から嗅ぎまわっていたと言いました……。その理由は……僕の能力にありました……」


 智の能力───それは、"透過"だった。


「全てとまでは言いませんが……家のドアみたいな薄いものなら、通ることができるんです」


 閉まったドアを真正面から通り抜ける智の姿を、翔子は想像した。


「"お前の能力は殺しに向いている"……そう言われました……」


 智は激しく、身震いをした。


「……僕は、断りました……。何が何だか分からなくて、怖くて怖くて堪らなくて……。……でも……晴美さんとの話を持ち掛けられて……」


 "お前、女いるだろ?"───そう、男は言ったと、智は語った。


 "それも、人の女だ。大企業の代表の女だ。お前の会社の社長の女だ。"


 追い込むように、嘲笑うように言われて、智は絶望を感じたという。


 "その女と、女の旦那。どちらか、どちらも、でも、俺は簡単に殺せるぜ。お前が不倫のことがバレてカッとなって殺っちまったっていう話にすることだって簡単だ。大事な愛人と、大事な親友を失いたくなかったら、俺たちに従えよ"


 その言葉に───智は、殺し屋になる道を、選ばざる得なかった。


「……どうしていいか、わかりませんでした……」


 智は泣き声を漏らした。


「今でも……わかりません……」


 殺し屋になってしまった自分に対する、苦悩───。


「……僕にとって、初めての殺しが……あいつだったんですよ……」


 智は涙を流しながら言った。


 あいつ───親友であり、同じ夢を目指した戦友。仁堂清道だ。


「……依頼された内容をもとに計画を立てて……"後は、訓練したことをするだけだ"と、上の人間に言われて……。清道を失いたくなくて……殺し屋の世界に足を踏み入れたはずなのに……どうして、こうなってしまうのか……最初、僕には、清道を殺す決意が、できませんでした……。……ですが、依頼に背く行為をしたら、奴らは、清道に加えて、晴美さんにも手出しをするかもしれない……。そう思うと……従うほかなくて……」


 清道の家に忍び込み、ソファで寛いでいた彼の首をロープで締めて殺害した───。


「……後のことは……」 


 さっき話した通りです───そこで、大岩智の告白は終わった。


 翔子は言葉を返さず、「大岩さん」と、目の前の男を呼んだ。


「あなたに、清道さんを殺害するよう依頼したのは、誰なんですか?」

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