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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story26

晴美のスマートフォンを調べるべく、翔子は、ある人物のもとへと向かう。

「ごめんなさいね、急に、中断させるようなことをしてしまって」


 電話越しの翔子の声は、昨日とは違い、落ち着いていた。


「いえ、正確な判断だったと思います───流石、田所さんです」


 新一は答えた。


「そんなことないけれど、そう言ってくれると助かるわ。今日、“ASSASSIN”のみんなは、どうしてるの?」


「私の方から連絡して、今日はひとまず、家にいるように伝えました」


「ああ、そうよね……今日は、土曜日だものね」


「田所さんは、今、どちらに?」


 尋ねると、「署よ」と、答えが返って来た。


「晴美さんから、スマートフォンをお借りしたの」


「では、これから、鑑識の方に?」


「ええ。結果が出次第、晴美さんと話すわ」


 翔子はそう言った後、「実はね」と、切り出した。


「昨日、飯岡に対して、一つ、蹴りを付けてきたの」


 新一はそこで翔子から、飯岡茂が西野署の刑事を使い、翔子の動きを監視していたことを聞かされた。


「これ以上、“ASSASSIN”の正体を探るな───そう、忠告はしたけれど」


 翔子は息を吐きだした。


「それが、いつまで持つかが問題だわ。今こうしている間にだって、何か他の方法を考えているかもしれない、あの男のことだから」


 新一は「そうですね」と頷いた。


「では引き続き、あの子たちには“捜査指揮”といった形で関わってもらうのが良さそうですね」 


「そうね。再度、お願いするわ」


 翔子はそう言った後、話を切り出しか否か、迷っているような気配を、新一に感じさせた。


「どうか、されましたか?」


 問いかけると、「ああ……いや」と、翔子は言った。


「少しだけ、気になることがあって。今、“ASSASSIN”の子たちは、どういう風に動いているの?日によってメンバーを変えたりしてる?」


「はい。3人ずつの班を作って、それぞれ日替わりで動いてもらっています」


「役割とかは?それぞれ、決まってる?」


「特に、私の方から指示を出すようなことはしていませんが、自然と出来上がっているんじゃないかと思います」


 新一はメンバー6人のことを想像して言った。

 翔子は「そう……」と答えた後、


「ごめんなさい───変なことを聞くけれど」

 と、切り出した。


「水曜日に動いていた班の子の中で、“アイズ”のことを知っていそうな子に、心当たりはない?」



 県警本部に足を踏み入れた翔子は、一階の一番奥にある部屋を目指して歩いた。


 サイバー犯罪対策室───そのプレートは、前に来た時と比べて、僅かに曲がっているように見えた。


 ノックをし、翔子はドアを開けた。


 真正面に、開いた窓が見えた。外からの風で白いカーテンが揺らめいている。


 その前にある机には、人の姿がなかった。


千鶴ちづる?いないの?」


 翔子は部屋を見回して呼びかけた。


 机に近づいてみると、パソコンの電源は点いたままになっていた。


(ここで待っていていいのかしら)


 翔子はドアを振り返った。


 廊下に出ていた方がいいかもしれない───と、翔子はドアを開けた。


 すると、ドア越しに、女性の姿が見えた。


「うおっ」


 女性は声を上げた。


「びっくりした。来てたんですね」


 黒縁眼鏡を指で押し上げ、だか千鶴は言った。


「今着いたばかりよ。久しぶりね、千鶴」


「そうですね。半年ぶりとか?いや、もっとか?」


 日高千鶴───栗色のウェーブのかかったショートヘアに、淡い桃色の瞳が特徴的な28歳。翔子とは10年の付き合いになる人物だった。


「相変わらず、あなたはこの場所に住み着いてるのね」


 翔子は狭い部屋を見回した。


「どうも落ち着かないんですよ、上の部屋。綺麗すぎるのか何なのか分かんないですけど」


 千鶴は肩をすくめて言った。


 本庁に設置された部署───「サイバー犯罪対策室」は、今、翔子たちがいる部屋から、3階の新設部屋へと、1年前に場所を変えた。しかし、千鶴は一向にその部屋には行こうとせず、ここで“一匹狼”として仕事を行っているようだった。


 事件の内容を説明すると、千鶴は「へーえ」と、間延びした声を上げた。女性らしい見た目とは裏腹に、変声に突入したばかりの少年のようなハスキーな声だ。


「田所さん一人で動いてるんですか?」


「ええ、そうよ。上からの命令でね」


「飯岡さんですか?」


 千鶴の目が僅かに細くなった。


「あの人、ついこの前、あたしんとこに来たんですよ」


 "ASSASSIN"のことを調べる気はないか───そう、飯岡は持ちかけてきたと、千鶴は言った。


「"ASSASSIN"って、"極秘"扱いじゃないですか。勝手に調べて処分されるのイヤなんで断りましたけど」


「すぐに引いたの?飯岡は」


「"お前は何も分かってない"だとか、"私の指示に従えば済む話だ"とか何とか言ってましたけど、全部受け流したら出ていきましたよ、ブツブツ文句言いながら」


「それは、大きな迷惑を掛けてしまったわね。ごめんなさい、代わりに謝るわ」


 頭を下げると、千鶴は「田所さんが謝ることないですよ」と言った。


「ですけど、何です?代わりにって。まるで"ASSASSIN"と関わってるみたいな言い方じゃないですか」


 翔子は「その、まさかよ」と答えた。


「私は今回の事件で、"ASSASSIN"のもとで動くことになっているの」


 千鶴がチラリと視線を上げた。


「本気で言ってます?」 


「私が今まであなたに嘘を言ったことがあったかしら?」


「ないですけど、にしても信じがたいですよ。“HCO”で“指揮官”って呼ばれてた田所さんが“される側”なんて」


 翔子は苦笑した。


「そこは、“ASSASSIN”が関わっていることに驚くのが普通なんじゃないの?」


「そうですか?あー、でもそうかも。知ってると思いますけど、普通じゃないんで、あたし」


 千鶴は紙の切れ端を指輪のように指に巻き付けながら言った。


「言い方を変えれば、あなたらしいということなんじゃないの?」


「じゃ、そういうことにしときましょう。ところで田所さん、依頼品、預かりますよ」


 千鶴に促され、翔子はジップロック袋に入った仁堂晴美のスマートフォンを差し出した。


「はい、お預かりします」


 千鶴は両手でそれを受け取った。


「よろしくね。急かすようで悪いけど、取調が後2時間後にスタートする予定なの」


「2時間?」


 千鶴は時計を見上げ、「あー」と声を上げた。


「余裕です。見つかった情報から送ってく形で大丈夫ですか?」


「そうね、それだと助かるわ」


 翔子は頷き、自分の携帯電話を取り出した。


「ごめんなさいね───“ASSASSIN”の管理者に、連絡を入れるわ」


 千鶴は眼鏡の奥から、翔子のことをじっと見つめ、


「マジなんですね」


 と、呟くように言った。

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