表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
144/342

September Story23

捜査を進める"ASSASSIN"と翔子のもとに、思いがけない事態が訪れる。

「何度も、申し訳ございません。田所です」


 そう挨拶をすると、長い間の後、


「なんですか……?」


 と、脱力したような声が返ってきた。


「晴美さん」


 翔子は電話の相手を呼んだ。


「今、どちらにいらっしゃいますか?」


 また、間があった。


「……家、ですけど……」


 翔子は腕時計を確認した。


 ───4時40分。


「帆希ちゃんは、帰宅されていますか?」


「いえ……」


 直後、晴美は「あっ……」と、か細い声を上げた。


「しています……、今、2階の、自分の部屋にいます……」


 翔子は「そうでしたか」と答えた。


「お時間をいただけるのであれば、帆希ちゃんも一緒に3人でお話を───と、考えていたのですが、そういうことならば、後日、またお伺いします」


「勝手に決めないでください」───そんな、感情的な返事があることを予想していた翔子は、


「ちょっと……待って……」


 という晴美の声に、思わず、「え?」と、声を上げた。


「待ってください……、刑事さん……」


 晴美は、何かに縋るように、しがみつく様に、そう言った。


「私の……私の話を、聞いてください……」


「奥さん?晴美さん?」


 翔子は、呼びかけた。


「私を……、私を……」


 晴美の嗚咽が、聴こえてきた。


「たすけて……、助けてください……」


 ※


 翔子からの返信を待つ間───光は、資料に再度目を通しながら、頭では様々なことを考えていた。


(私が出した“答え”は……正しかったのかな?)


 そもそも、“殺人”において、正しさなど存在するのだろうか。


(晴美さんの携帯に、何かしら、事件に繋がるようなことが残っていたら……捜査は進むだろうけど……)


 残っていなかったら───仁堂晴美は、潔白ということになるのだろうか。そう考えても、良いのだろうか。

 

 ───分からない。


(“ASSASSIN”は、捜査を専門にした組織じゃない……って、そう弁明すれば、済む話なのかもしれないけれど……)


 光はそっと、下唇を噛んだ。


(そんな気持ちで、いていいわけない……。今の私には、“事件を捜査する”っていうことに対しての、知識も、自覚も、責任も、何もかも足りてない……)


 光がここに来て───この依頼を担当してから初めて、ここまでの悔しさを感じる原因は、すぐ近くに存在していた。


 光は本人に察せられないよう、ほんの僅かに視線を向けた。


 矢橋勇人───光にとって、彼という存在は、今も、未知に近かった。


(最初……一番最初の印象は、“群れない人”って感じだった……)


 光はメンバーになる前───“ASSASSIN”とは、“依頼者”として関わっていた時。


 “萩原くん以外のメンバーって、今日、会った3人だけ?”───光はそう、翼に尋ねたことがあった。


 “ああ……いや、もう一人いるけど、あんまり来ないんだ、その人“───翼は、そう答えた。


 その言葉の意味は、メンバーになってから分かった。


 メンバーの会話に度々登場するが、メンバーの前に、姿を現すことはない。メンバーでありながら、メンバーであることを避けている───それを察するのに、それほど時間はかからなかった。


 矢橋勇人───彼は、自ら、人との関わりを拒絶していた。


 そこに何か理由があるのか───光はこれまで、そのことを誰かに聞いたことも、聞こうとしたこともない。


 彼は何故、"ASSASSIN"のメンバーになったのか。


 どうして、この組織に居続けるのか。


 そんな疑問を抱えながら、その答がいつか見つかる日を、光は、密かに待っていた。


 そして、その答は、自然に見つかった。


 "ASSASSIN"のメンバーとして過ごすうち、優樹菜、葵、翼、そして蒼太が、勇人に対して抱いている感情に、少しずつ触れることができるようになった。


 そして、そこから、印象が変わって行った。


 この人は、周りの人たちに大切にされている人なのだと───光は、勇人をそう思うようになった。


 たとえ、勇人自身が誰かと交わることを拒否していたとしても、彼のことを絶対に見捨てないという心を持つ人物が存在が、勇人のことを"一人"にしない。


 それこそが、勇人が、"ASSASSIN"の存在している理由なのだ───そう、今の光は思う。


 この1週間の間に、光はいきなりと言っていいほど、密に勇人と関わることになり、彼の新たな一面を知ることになった。


 そして───こんな印象を持つようになった。


 この人は、一体、何者なのだろう───。


 土曜日、初めて3人で依頼解決を行った時に思ったことと同じことを、光はこの瞬間にも思っていた。


 “自分として考えてみろよ”───あの言葉が、頭に張り付いて離れなかった。


(何て言うか……)


 光の頭の中には、勇人に対することしか浮かばなくなった。


(感覚が、一人だけ違う……そんな感じがする……)


 班行動3日目の今日。2日目に参加できなかった光だが、勇人は初日から変わらず、“自ら意見を出すことはしない”といった様子だった。


(逆に……)


 光はこれまでの勇人の言動を振り返り、


(私たちに、答を導くヒントみたいなものを用意してくれてる……?)


 そんな気がした。


(でも……、どうして……?)


 光は、分からなくなった。


(何で……、この人───勇人くんは……)


 捜査というものを、知り尽くしているような、そんな空気を持っているのだろうか───。


 そう思った時、不意に、勇人が動きを見せた。


 光はドキリとした。


 勇人が取り出したのは、スマートフォンだった。


(あっ……)


 光はその姿を見て、不思議とこんなことを思った。


(携帯……持ってたんだ……)


 勇人は画面に映った、何かを見つめた。


 そして、左手を持ち上げると、黒い髪を掻き始めた。


(ん……?)


 光は首を傾けた。


(何だろう……?)


 何か───見つかりでもしたのだろうか。


 その時、ドアをノックする音がした。


「やあ、お疲れ様」


 入って来たのは、新一だった。


「ごめんね、作業中に」


 新一はそう、眉を下げて、小さく笑った。


「いきなりで、申し訳ないんだけど───」


 新一は、続けて、こう言った。


「今日の捜査は、これで、打ち切りにしてもらいたいんだ」


 光は、「えっ……?」と、目を見開いた。


「それって……」


「どういう……」という、蒼太の、呆然としたような声が続く。


「仁堂晴美さんがね」


 新一は、言った。


「自首したらしいんだ」

よろしければ、評価・ブックマーク登録、感想など、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ