表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
143/342

September Story22

晴美は、何故、嘘を吐いたのか───?



 仁堂晴美の言葉には、偽りがある───その可能性が、100%に近づいてきた。


(亡くなった旦那さんのことを……自分の言葉で、作り替えた……)


 蒼太はそう想像して、心にゾワリとしたものを感じた。


(ぼくなら……絶対に嫌だ……。死んじゃった後に、誰かが自分のこと悪く言ってるなんて……)


 それが虚実だったとしても、否定も、弁明もできない───命がなくなるというのは、そういうことだ。


 蒼太は、今、自分たちが取り扱っている出来事の重大さを、胸が押しつぶされるような感覚によって、実感した。


 b班の3人が資料室に集まってから、10分が経とうとしていた。


 未だ、新しい意見は出ていない。


 何かないか───と、資料を見つめていた蒼太は、「あの」という光の声に、視線を上げた。


 光は右手を真っ直ぐに上げていた。


「仮の話、してもいいですか?」


 蒼太は、反射的に、勇人を見た。


 勇人は、光に目を向けていた。


 光は手を下ろし、


「晴美さんが犯人だった───もしくは、殺し屋に対して、依頼をしていた場合を、考えてみたいんです」


 と、言った。


 蒼太は、目を開いた。微かに頭に浮かんでいた可能性を、光がここまではっきりと口にするとは───全く予想していなかった。


「晴美さんは、清道さんに恨みを持っている───と、話していて、これまでのお話から整理すると、それは、"酒癖の悪い清道さんに、暴力を振われていたから"だと考えられますよね」


 しっかりとした口調で、光はそう語った。


「だけど、娘の帆希ちゃんは、“お父さんはお酒を飲むような人じゃなかった”と証言していて、このことから、晴美さんの話には、嘘があったんじゃないかという疑いがあるのが、今の状態で」


 光は、蒼太と勇人を交互に見た。


「晴美さんが嘘を吐いた理由───それは、事件に関わる、何かを隠すためなのかもしれない。晴美さんは、何らかの形で、清道さんの殺害に関わっているような気が、私にはします」


 光はそこで、言葉を止めた。


 仮の話───その範囲に収まらないような、現実味を帯びた話に、蒼太は、圧倒されてしまった。


 仁堂晴美───彼女が、仁堂清道を殺害した、張本人なのか。


 それとも、殺し屋に夫を殺すように頼んだ、"依頼者"なのか。


 直後───光が、「だけど……」と、自らの考えに疑問を呈するように、僅かに、首を傾けた。


「昨日も話し合いに出たみたいだけど、晴美さんが、清道さんに殺意を持っていたとしたら、“嘘”が弁明になっていないところが、気になる……」


 呟くように、光は言った。


 蒼太は「あっ……」と、あることに思い当たった、


「何ていうか……恨みを、隠そうとしてない……?」


 光は「うん」と頷いた。


「“酒に酔った旦那に暴力を受けていた”───って、それで恨んでいたんだって疑われる可能性が大きいことを、何で話そうと思ったんだろう?仮に、嘘を吐くんだったら、 “私と旦那はすごく仲が良くて……”みたいな話をした方が、晴美さんにとってはよかったんじゃないかな……」


 仁堂晴美が嘘を吐いた理由───それは、どこをどう調べればわかるのだろうか。


 まだまだ、考えなくてはいけないことは、沢山ある。


 蒼太は、不意に、不安になった。


 もうすぐ、依頼を引き受けてから1週間が経とうとしている。


(警察の人が捜査してたら、もう、解決してたかもしれない……)


 現場に行くことができず、資料と言葉からでしか情報を整理できない自分たちは、明らかに不利だ。


(この先、ずっと先延ばしになっちゃたら……)


 蒼太はそれを考えて、胸が締め付けられるような感覚を味わった。


 “ASSASSIN”への信頼が失われるかもしれない───。


(誰かに、褒められたいとか、尊敬されたいわけじゃないけど……)


 蒼太は膝を抱えた指に、ぎゅっと力を込めた。


(でも……“ASSASSIN”は、“すごい”って……ぼくは、そう思うから……)


 それを───その気持ちを、蒼太は、誰かに、否定されたくなかった。


 資料をじっと見つめていた光は、不意に、顔を上げた。


「蒼太くん」


 その瞳が自分に向いたことに、蒼太は、目を見開いた。

 

「もし、晴美さんが犯人で、清道さんを殺害した張本人だとしたのら、晴美さんは、実は殺し屋だったっていう可能性も考えれるのかなって私は思うんだけど───どうかな?蒼太くんは、どう思う?」


 それはとても───直接的な質問だった。


 蒼太は、光が"取調班"に所属する自分の意見を求めたのだと理解して、「あっ……」と声を上げた。


「えっと……」


 蒼太はこの部屋には勇人もいるのだということを意識して、僅かな緊張を感じた。


「殺し屋……って、ぼくが、今まで話を聞いてきた人たちは……家族がいたとしても、殺し屋になったタイミングで、縁を切ったっていう人が多くて……」


 蒼太は言葉を選びながら答えた。


「晴美さんは、娘さんと暮らしてるから……それとあてはめると違うのかな……って、思います……」


 蒼太は光ではなく、勇人の反応を伺ってしまった。


 勇人は何も言わず、何の素振りも見せなかった。


 対し、光は「そっか……」と頷いた。


 そこで、蒼太は気が付いた。


 光は、様々な可能性を考えているのだと。


 浮かんだ中に、事実に近いものがないかと確かめているのだと。


 話し合いが止まった。


 光は再び、資料に目を向け、蒼太は光の言葉を待つしかなくなった。


 そして、数分が経った。


 不意に、勇人が「お前」と、口を開いた。


 蒼太は勇人を見た。


 勇人の目は、光を向いていた。 


「自分として考えてみろよ」 


 それは、とても、不意な言葉だった。


「えっ……?」と、光が、声を上げる。


 蒼太の思考が追い付く前に、光は「あっ……」と、何かに気が付いたような目をした。


「私が晴美さんの立場だとしたら……ってこと、ですか?」


 蒼太は目を開いた。


(それって……)


 光が清道を殺した犯人だったら───ということだ。


「私、だったら……」


 光は、勇人の発言の意図を聞かずに、答え始めた。


「まず……方法を調べたりとか、どうしたら自分がやったっていう証拠を隠せるかとか……そういうことを、考えると思います」


 勇人の目を見て答えた光は───直後に、はっとしたような目を見せた。


「携帯電話……」


 光は呟くように言った。


「調べたら……何かわかるかもしれない……」

 光は何かに思い当たったように、パソコンの画面を向いた。


 そして、メールに、素早く文字を打ち込み始めた。


 蒼太はその文章を見た。


 "晴美さんにスマートフォンを見せていただくよう、頼んでみてください"

よろしければ、評価・ブックマーク登録、感想など、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ