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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第1章
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April Story10

"ASSASSIN"のことを知った蒼太に、葵が切り出した誘いとは───?

 蒼太は教室のドアを開けた。


 教室には、既に葵がいて、席について、ぼうっとしていたようだったが、蒼太に気付いて振り返ると


「あっ、おはよう!」


 と、明るく言った。


 蒼太は控えめに挨拶を返し、


「あ……、昨日はありがとう……」


 ぺこりと頭を下げた。


「ううん!こちらこそ」


 葵はにっこりと笑った。


 蒼太は、ほっとして、席に着いた。


 一夜明けた今日、もしかしたら昨日のことで葵と少し気まずくなるかもしれない───と、不安を覚えていたのだが、それは要らぬ心配だったらしい。


 蒼太が鞄を机に置き、教科書を取り出している間、葵は何処か落ち着かない様子で周りをきょろきょろ見回していた。


 その目の動きが自分を向いて止まったのを感じた蒼太は、葵のことを見た。


 目が合うと、葵は「あっ」と言う顔をして、「ねえねえ」と、身を乗り出した。


 蒼太は「なんだろう?」と葵を見つめ返す。


「蒼太くん、さ」


 葵の丸くて大きな目に僅かに躊躇いの色があるのを、蒼太は見た。



「“ASASSIN”、入らない?」



 その誘いに蒼太は「えっ……?」と声を上げた。


 葵は蒼太の反応に、慌てたように身を引いた。


「あっ!いや、嫌だったら、断ってくれて全然良いんだけど」


「ただね……」と言って目を泳がせ、


「あたし、蒼太くんが入ってくれたら嬉しいなって……」


 僅かに抑えた声でそう言った。葵のその口調は、蒼太に「˝ASSASSIN˝に入ってほしい」という大きな気持ちが伝わるものだった。


 蒼太は素直に嬉しさを感じるも、直後には、昨夜感じていたことを口にしていた。


「あ……でも……、ごめん。……嬉しい……けど、ぼく、運動できないし、どんくさいから……、全然、役に立てないと思う……」


 蒼太は葵の誘いを断るのが本当に申し訳なくなった。


(ぼくが˝ぼく˝じゃなかったら、断らずに済んだのに……)


 俯いた蒼太に、「あ!」と、葵の声が降りかかった。


「˝ASSASSIN˝ね、殺し屋を捕まえる以外のこともしてるの!それぞれに役割があって、蒼太くんがやりたいものがあったら、やってほしいなって。見学からでも全然OKだし!」


 蒼太は、顔を上げた。


「あっ……」


(そうなんだ……)


 蒼太はそう納得するも、やはり、少し悩んだ。


 元々、自分は何事にも積極的ではないと、蒼太は自覚していた。


 学校の行事に参加するのが憂鬱で、前の学校では仮病を使って家で過ごしたことが何度もあるくらいだ。クラスメイトの大半が楽しんで参加しているところに、自分は入っていけない───そんな気がしてしまうためだった。


(ぼくは……、あの場所に、入っていける……?)


 思い出すのは“ASSASSIN”の本拠地である、煉瓦造りの建物と、"ASSASSIN"のメンバーたちのことだ。


 蒼太は視線を上げた。


 葵が自分の答を待っていた。


 その、大きくて丸い目を見つめていると、蒼太の中にこんな考えが浮かんだ。


(……見学だったら、“やっぱり、無理だ”って思ってからでも……)


「……じゃ、じゃあ、その……、見学、お願いしてもいい……?」


 蒼太はおそるおそる、葵に尋ねた。


 葵の顔がパアっと輝く。


「うん!もちろん!」


 葵が満面の笑みで頷く。


 その顔を見ると、蒼太も嬉しくなった。


(よかった……)


 悲しませずに済んで───。


「じゃあ、あたし、みんなに伝えておくね!あっ、そうだ、蒼太くん、今日放課後空いてる?」


 葵が首を傾げる。


「え、と……、うん、大丈夫」


 蒼太は頷いた。


「だったら、一緒に本拠地行かない?会ってもらいたい人がいるんだろけだ」


(会ってもらいたい人……?) 


 今度は蒼太が首を傾げる番だった。


「˝ASSASSIN˝の管理をしてるおじさんなんだけど、そのおじさんが蒼太くんと話がしたいらしいんだよね。後は、班の紹介もあるし……」


 今日の予定を考えて腕を組む葵を見ていると、蒼太の心の中にも徐々に楽しみが込み上げてきた。放課後にこうして友達と約束を立てることは、人生で初めてのことだった。


(あ……、でも……)


 不意に、父のことが浮かんだ。


(お父さんに知られたら、絶対心配するよね……)


 不意に浮かんできたその考えに、楽しい気持ちがすっと消えた。


 昨日あった出来事も、父には話していない。


(お父さんに内緒にしておいて、大丈夫なのかな……?)


 それを葵に訊こうと思った時、チャイムが鳴り、浜田が教室に入って来た。


 そこで、2人の会話は終わり、学校が始まった。


 ※                     


「蒼太くんは、ここで待ってて。今、呼んでくるから」


 葵は蒼太がソファに座ったのを見ると、部屋を出て行った。 


 昨日も案内された部屋を、改めて蒼太は見渡した。


 蒼太が座っているソファには、テーブルを挟んで同じ黒色をしたダブルソファがある。その後ろには本棚が2つ。本ではなく、入っているのはフラットファイルやノートなどで、どれも何かの資料のようだった。


 ドアから真っすぐ正面には格子窓があり、そこから、陽の光が差し込んでいた。それが少し眩しいが、カーテンが無いため、どうすることもできない。


 ガチャリ、とドアの開く音がした。


 入って来たのは、葵ではなく、背の高い男性だった。


 葵が「おじさん」と言っていたので、蒼太は小太りの背の低い中年男性を想像していたのだが、真逆だった。


 すらりとした長身で、シャツの上に合わせたベストと、スーツのズボンが良く似合っている。ただし、そのきっちりとした服装には合わず、深緑色の髪はぼさぼさであちらこちらにつんつんと跳ねていた。


「こんにちは」


 男性は蒼太と目が合うと、柔らかく微笑んだ。その低音の声は、暖かみを感じるものだった。


「こ、こんにちは……」


 蒼太は緊張を感じ、身体を強張らせたまま、頭を下げた。


「この人が、˝ASSASSIN˝を管理してるおじさん」


 男性の後ろから入って来た葵が、男性を紹介した。


みなもとしんいちです」


 男性───源新一は、蒼太の真向かいに座ると、そう挨拶した。


「ああ、大丈夫だよ。予め、葵ちゃんから紹介は受けているから」


 続けて名乗ろうとした蒼太を、男性は穏やかに制した。


「けど、一応確認しても良いかな。君は、清水蒼太くん」


 新一は髪の毛と同じ色をした瞳で蒼太を見つめた。


「勇人くんの弟の……」


 蒼太はその言葉を受け止め、こくりと頷いた。


 新一は蒼太を安心させるような笑みを見せ、


「今日は来てくれてありがとう。私の方から少しだけ、お話しさせてもらうね」


 丁寧な言葉遣いで、そう言った。


 新一は、一つ小さく咳払いをすると、こう切り出した。


「昨日、メンバーから話を聞いてね。優樹菜ちゃんが、君に勇人くんのことについて説明してくれていて、それがまだ途中だと聞いたんだが……、申し訳ない。私が止めてしまった」


「え……?」


 話が理解できず、蒼太は声を上げた。


「私の個人的な考えでね、勇人くんのことについては、できたら、勇人くんのお父さんに聞いてもらいたいんだ」


 蒼太はドキリとした。


(ぼくの……、本当のお父さん……)


 この人と、その人は知り合いなのか───という目で新一を見ると、


「もちろん、君の考えを尊重したいから、私に従う必要はないよ」


 そう、答えられた。


 蒼太は出会ってから数分の、この男性を何故だか、信用できる気がした。この人の言うことは正しい───そんな気がした。


「あ、あの……、ぼく……」


 だとしても蒼太は、初対面の人と話すのに緊張を隠しきれない。


「その……、連絡先とか知らないんですけど……、どうしたら……」


「ああ、良ければ、私の方から連絡するよ」


 蒼太はそう言われて、少し考えた。


「……あの……、もう少し後でも良いですか……?」


 結論が出た後、そう尋ねると、


「もちろん。いつでも大丈夫だよ」


 新一は「一向に構わない」という風に笑顔を見せた。


「私の連絡先、渡しておくね」


 そう言って渡されたのは、名刺だった。


「あっ……、ありがとうございます……」


 蒼太は頷くと、礼を言い、名刺を鞄の中にしまった。


「私からは、これだけかな。まだ、入ると決めた訳では無いんだよね?」


「あっ……はい……」


「ならば、今日はひとまずこれで───」


「待って!社長」


 葵が声を上げた。


「ん?何だい?」


 新一が隣に座る葵を見る。


「自己紹介で言ってないことあるよ!˝社長˝って呼ばれてること」


「ああ」


 新一は苦笑した。


「何故か、みんなは私のことを、˝社長˝と呼んでくれているんだ。別に偉い訳でもなんでも無いんだけどね」


「一番権力あるのは優樹菜だよね」


 葵が言った。


「そうだね。優樹菜ちゃんには敵わないな」


 新一はそう言って笑うと、「さてと」と立ち上がった。


「私は、戻るね。今日は依頼解決かい?」


「ううん、今日はお休みだよ。蒼太くんに˝ASSASSIN˝紹介会するっていう大事なお仕事するの」


「そうか。じゃあ、楽しんで」


 新一は、そう笑顔と言葉を残して、部屋を出て行った。

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