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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story17

仁堂清道の自宅を訪れた翔子が見つけたものとは───?

翔子が事件現場を訪れるのは、1週間ぶりのことだった。


 1週間前───事件発覚時に訪れた際、床に落ちていたネックレスから、殺し屋の犯行である可能性を指摘したのは、翔子だった。


 翔子は、仁堂清道の自宅のドアを開けた。


 現場の様子は、1週間前と、ほぼ何も変わっていなかった。


 変化した点と言えば、広いリビングの中央───ソファとテーブルに挟まれたスペースにあった、仁堂清道の遺体がなくなっているくらいだ。


 翔子はスマートフォンを取り出し、部屋の隅々までを撮影して回った。"ASSASSIN"に写真を送るためだ。


 撮った写真を確認しながら、「"ASSASSIN"はここから、何を導くのだろうか」───と、翔子は想像した。


 写真を送り、返信があるまでは、「勝手な動き」として捉えられない程度のことをしていようと、翔子は壁際にある、食器棚の前に向かった。


 仁堂清道は、本当に酒癖が悪かったのか───浮上した疑いを確かめる術は、この家の何処かにあるのかもしれない。


(それにしても……)


 翔子はガラスの向こう側を見つめた。


(綺麗に整頓されていてる……)


 商品の陳列かのように、皿、器、グラス、ティーカップなどが飾られている。


 翔子は扉を引いた。長らく開けられていなかったのか、扉は、その場に張り付くような抵抗を見せた。


 翔子は目の前にあったワイングラスを手に取った。新品のような綺麗さだ。


(鑑賞用、ってことなのかしら)


 翔子は続いて、キッチンへと向かった。


 冷蔵庫の隣に、白い扉の食器棚があった。


(これが、おそらく、普段使っていた方……)


 翔子は扉を一つ一つ開け、中身を確認した。


(茶碗、小皿、コップ、箸、フォーク、スプーン……全部、家族3人分……)


 清道、もしくは晴美が考え付いたのだろうか。3つずつある食器類はどれも、柄が違うが、それぞれ同じ種類で統一されていた。


 翔子は続いて、冷蔵庫を開けた。


 大きく広いその中身は、ほぼ、空だった。


 緑茶のペットボトル、卵、バター……上段は、それでおしまいだった。


 翔子は扉を閉め、後方を振り返った。


 そこには、蓋つきのゴミ箱が、3つ並んでいた。


 翔子は左にある、青色の蓋を開けた。

(ペットボトル……、冷凍食品の包み……プラ類ね)


 次に、赤色の蓋。


 キッチンペーパーの塊が、奥に見えた。


(こっちは、紙ごみ)


 最後、黄色の蓋に、翔子は手を掛けた。


(これが───)


「缶、ね」


 翔子は呟いた。



(遅いな……)


 蒼太は、時計を見上げた。


 もう少しで、時刻は5時を回るところだ。


 翔子からの連絡は───未だ、来ていない。


(写真撮るのって……そんなに時間かかるのかな……)


 待つことには構わないが、時間が経てば経つほど、蒼太は「何かあったのではないか───」と不安になった。


 勇人にそれを訊くことは、躊躇われれた。


 答えを知りたいような、知りたくないような───宙に浮いたような感情が、蒼太の中にあった。


 時計の針が5時に動いた時───室内に、短い機械音が鳴り響いた。


 蒼太はテーブルの上の、パソコンを見た。


 メールを受信したと、画面に表示されていた。


「あっ……」


 アドレスには、「tadokoro」の文字があった。


 蒼太はマウスを動かして、それをクリックした。


 画面上に、写真が浮かんだ。


 綺麗に掃除された玄関、広いリビング、使い勝手の良さそうなキッチン───仁堂清道の自宅内の写真だ。


 ここで人が亡くなった───そう思うと、蒼太の中に、冷たくて重いものが込み上げてきそうになった。


 画面をスクロールしていくと、新たに3枚、写真が表示された。


(食器棚……?)


 蒼太は首を傾けた。


 1枚目は、食器棚の中を写したものだった。コップ、茶碗、皿、器───全て、3つずつある。


(それに……全部、お揃いだ……) 


 続く2枚目は、冷蔵庫の中身を写した写真。


(ほとんど、食べ物入ってない……)


 一人暮らしの男性にとっては普通のことなのだろうか───。


 3枚目は、ビニール袋の上に、空き缶が並んだ写真だった。


 蒼太は「なんだろう……?」と、首を傾け、缶のラベルを見つめた。


(お茶、炭酸、コーヒー……)


 自動販売機で買えるようなものばかりだ。


(何で……この写真なんだろう……?)


 蒼太は「頼んだわけじゃないのに……」と、目の前の資料に目を落とした。


 優樹菜たちの班が翔子に送ったメールのコピーだ。


 "仁堂さんは、本当に酒癖が悪かったのか"───その文字を見て、蒼太は、はっとした。


「これ……」 


 蒼太は声を上げた。


「お酒、たくさん呑む人の感じがしない……」


 その時───電話の着信音が鳴った。


 蒼太はびくりとして、スマートフォンの画面を見た。


 上村光───そう、表示されていた。


「ちょっ……ちょっと、ごめん……」


 蒼太は、勇人に断りを入れ、慌てて廊下に出た。


「ごめんね……、蒼太くん」


 隣の、倉庫室に入って電話に出ると、光の申し訳なさそうな声が聴こえた。


「もう、蒼太くんたち、帰る時間だよね……。

私、今、終わったんだけど……」


「あっ……いえ……大丈夫です」


 蒼太は首を横に振った。


「今日……田所さんが現場に行っててもらってて……」


 蒼太は、そこで、昨日のa班が、"清道の酒癖の悪さについて調べてほしい"というメールを翔子にしていたということを話した。


「あの……後で……田所さんから送られてきた写真、送ります」


「うん、わかった。ありがとう」


 光は、学校からそのまま家に帰るらしく、電話の終わりに、「蒼太くんたちも気をつけて帰ってね」という言葉をかけてくれた。


 電話を終えて、蒼太は「何でこの部屋に入ったんだろう?」と、自分で自分に首を傾けることになった。


(別に……あのまま、資料室にいたままでも良かったのに……)


 大きな発見をしたタイミングで、電話の音が鳴ったのに、動揺したのかもしれない───そう思いながら、蒼太は部屋を出た。


 資料室のドアを開け、蒼太は「あれ……?」と声を上げた。


「兄ちゃん……?」


 勇人の姿がなかった。


 時計を見上げると、5時10分を過ぎたところだった。


(もしかして……、帰っちゃった……?)


 部屋を見回してみたが、勇人の荷物は見当たらなかった。


(そんなに長電話じゃなかったような気がしてたんだけど……)


 蒼太は「帰っちゃったなら仕方ないか……」と肩を下ろして、光に送る写真を撮ることにした。


 床に膝を付き、パソコンの画面を覗き込む。


「えっ……?」


 蒼太は、そこに映った文字を見た。


 "メールを送信しました"


 蒼太は考える間もなく立ち上がり、走るように部屋を出た。


 まだ、間に合う───入り口のドアを開けると、秋の風が吹き込んできた。


 ビル群の入り口の辺りに、勇人の姿が見えた。


「兄ちゃん……!」


 蒼太はその背に向かって呼びかけた。


「あの……メール、打ってくれてありがとう」


 振り返った勇人にそう告げると、


「わざわざ出てくんなよ」


 と、声が返ってきた。


「あっ……」


「ごめんね、バイバイ」───そう言おうとした時には、勇人はもう、歩きだしていた。


(言えなかった……)


 そう思うも、蒼太の中にある、暖かい感情は、暗いものになったりはしなかった。


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