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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story10

仁堂清道に恨みを持っていた人間は───?

事件関係者への聞き込みが始まる。

「ちょっと思うんだけど」


 葵が声を上げた。


「この奥さん、1年間も我慢してきたって言ってるけど、もっと早く逃げ出しても良かったんじゃないかなぁ……」


「すぐに決められることじゃなかったんじゃない?」


 優樹菜が答えた。


「誰にも相談できなかったみたいだし、1人で悩む時間はたくさんあったと思うけど……でも、やっぱり旦那さんのことを思わずにはいられなかった、とか。娘さんのこともあっただろうし」


 葵は「そっかぁ……」と小さく頷いた。


 翼はじっと、そのやり取りを聞いていた。


 妻に暴力を振るっていた───仁堂清道の姿が明らかになった。


 そこに、"酒が入っているから"と付け足すのは、言い訳のような気が、翼にはした。


 どんな理由があろうとも、暴力は暴力なのだから───。


「翼くん?」


 肩に感じた手の感触に、翼は目を開いた。


「大丈夫?」


 見つめた先に、“心配”を浮かべた瞳をしている優樹菜がいた。


「ああ……すみません」


 翼は「大丈夫です」と、笑顔を作った。


「でも、これで、翼が言ってた“第一発見者”のことに説明がいくね」


 葵が明るい声で言った。


「この、秘書の黒島紗綾さんは、仁堂さんの様子を心配して尋ねてきたのかな」


 優樹菜が新たな疑問を口にした。


「もしかして」


 葵が声を上げた。


「仲良しな関係だったのかな?」


「こら、葵」


 優樹菜がじろりと葵を見た。


「不謹慎でしょ。勝手な想像で物を言わないの」


 殺し屋が関わっているのか、いないのか───そこについて、未だはっきりとした証拠は見つかっていない。


 しかし、どちらにしても、被害者周辺の人間を調べるのは、必要なことだ。


「仁堂さんの人間関係についても、調べてもらいましょうか?」


 仁堂清道に殺意を抱いた人物。


 殺し屋が関わっていた場合───その人物は、依頼主になりうる。


 それを、既に理解していたのだろう。優樹菜は「うん、お願い」と、すぐに頷いた。


 翼は「わかりました」と答えて、東警察署の田所翔子に向けて、メールを打ち込んだ。



 "ジニエッエス"本社。5階の廊下に、翔子はいた。


 “ASSASSIN”のメンバー6人は、どんな子たちなのだろうか───翔子は考えていた。


 元同僚の、娘、息子たちの話は、時たま連絡を取った時に耳にしたりはするが、一方的に知っているというだけで、その4人の立場からしたら、自分は見ず知らずの大人に等しいだろう。


 その4人と、名前も知らない2人を合わせた計6人。この6人が揃うようになったのは、ごく最近のようだ。


(10代の子たちが集まってする話し合いには、どんな結論が付くのかと思っていたけれど)


 今のところ、送られてくるメールの内容は、翔子が「これは調べるべきだ」と想像したものと、ピッタリ当てはまった。


(捜査を専門にしていないにせよ、こういうことには、ある程度慣れているのね)


 とはいえ、今日は日曜日だ。


 6人全員が介して話し合いを行っているのだろうか───そう思った時、「お待たせ致しました」と、女性の控え目な声がした。


 顔を向けると、ベージュのスーツを着込んだ若い女性がいた。


 仁堂清道の秘書───黒島紗綾だ。


「あの日……社長から、メールがあったんです」


 応接室で向かい合った紗綾は言った。


「"ちょっと力を貸してもらいたいことがあるんだけどいいかな?"───と。鍵は開けておくから、勝手に入って来ても構わないよ、と言って下さいました」


「それで、仁堂さんのお宅に?」


 紗綾は「はい」と頷いた。そして、直後に目を伏せた。


「今思えば……すぐに向かえばよかったと、後悔しています……」


 その日、仕事が休みだった彼女は、外出中だったそうだ。


 夜8時。清道から連絡があったその時間も出先で、そのことを伝えると、「急がなくてもいいよ」と返信があった。


 その言葉に甘えてしまった自分が憎い───そう、紗綾は言った。


「……私がもっと早くに着いていれば、社長が亡くなることはなかったかもしれない……そう思えてならないんです……」


「すみません……」そう、消え入りそうな声で言って、紗綾は鼻を啜った。


 翔子は「いえ」と首を振り、その手に、ハンカチを差し出した。


 紗綾は再び「すみません……」と繰り返してそれを受け取り、目元を拭った。


「黒島さん」


 翔子はそっと呼びかけた。


「そのメールの内容を確認させていただいても、よろしいですか?」 


「はい……少し、待ってください……」


 紗綾はスマートフォンを取り出し、「これです……」と、翔子に画面を向けた。


 翔子は文字を目で追った。


 紗綾の言葉通りの内容だ。


 写真としてメールを保存させてもらい、翔子は最後の質問に移ることにした。


「黒島さん」


 呼びかけると、紗綾の潤んだ瞳と、目が合った。


「仁堂さんのことを嫌っていた、もしくは、恨んでいそうな人物に、心辺りはありませんか?」


 紗綾は「ありません……」と答えた。


「社長は……人から恨まれるような人ではありませんでした……。いつも穏やかで、ユーモアがあって……社員からの尊敬も厚い方でした。そして、何より……お客様を大切にされていました……」


 翔子は「そうですか……」と、数回頷いた。


 そうしながら、手に握った手帳の、黒島紗綾の字の下に、その供述を書き込んだ。

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