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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story5

特殊な依頼に、メンバーたちの反応は───?

「君たちに知っておいてもらいたいのは」


 新一は、そう切り出した。


「その上層部というものには、良い人もいれば、悪い人もいる、ということ。そして、今回の依頼者は、悪い方の人だということ」


(悪い方の人……)


 蒼太は、心の中で言葉を繰り返した。


「だからね、依頼主だからと言って、彼のために動くという意識は、持たなくていいんだ」


 新一は言った。


「君たちには、被害に遭われた方、また、その、ご遺族のためを思って、今回の依頼に望んでもらいたい」


 新一は、6人の反応を伺うように、室内を見回した。

 

「その依頼というのはね」


 そう言った新一の目は、気のせいか、蒼太の方を向いていた。


「とある事件の、解決なんだ」


「解決……?」


 その呟くような声に、蒼太は目を向けた。


 見ると、優樹菜が訝し気に、目を細めていた。


「そう」


 新一は、優樹菜に向かって頷いた。そして、その視線を正面に移し、「まず」と言った。


「その内容を、説明するね」


 ※


「3日前、9月6日。東市在住の、じんどうきよみちさん、45歳が、自宅で死亡しているのが発見されたそうなんだ」


 新一は落ち着いた口調のまま、そう語った。

「遺体の様子から、何者かに殺害されたと判断されて、東署での捜査が進められていたんだけど、その過程で、殺し屋の犯行である可能性が浮上したんだ」


「東って、あの、都会の町?」


 葵が首を傾けて、声を上げた。


「うん」と頷いた新一は、その後で、「ああ、それと」と、付け足した。


「“HCO”が拠点を置いていた場所でもあるよ」


「へー!」


 葵が声を上げた。


「じゃあ、お母さんが働いてた町なんだ」


 "HCO"は、現・特別組織対策室や、"ASSASSIN"の前進のような存在である、かつて警察内に存在していた組織だった───蒼太は、以前に、優樹菜から受けた説明を思い出した。


「仁堂さんは、その、東市の中で、大きな会社を経営していて、かなりの有名人であり、富豪であったらしい。だから、殺し屋に狙われることも、考えられる人だった」


「まさか」


 優樹菜が声を上げた。


「それだけで、殺し屋がやったって判断されたわけじゃないですよね?」


「うん。これはあくまで、後付けされた情報だね」


 新一はそう言うと、ベストの中から、一枚の紙を取り出した。


「これが」


 テーブル上に広げられた紙の中身を、蒼太は見つめた。


「現場に落ちていたそうなんだ」


 蒼太は「え……?」と、声を上げた。


「ネックレス……?」


 茶色い絨毯の上に、銀色のネックレスが落ちている写真だった。ネックレスはチェーンが途中で切れてしまっている。


「見えるかい?」


 新一が指した場所を見ると、チェーンから少し離れたところに、何かが落ちているのが分かった。


「棺型のチャーム、ですか?」


 翼が言った。


「知ってるかい?翼くん」


 新一の問いに、翼は「はい」と答えた。


「とある殺し屋組織の称号、ですよね。構成員は、何かしら、棺型のチャームがついたネックレスを身に着けると耳にしたことがあります」


 新一は翼の言葉に対し、頷きを返した。


「捜査の結果、現在専用署にいる、その組織に所属していた殺し屋が所有していたものと、一致したそうなんだ」


「それが……殺し屋が関わったとされる理由、ですか?」


 光が、新一に問いかけた。


「その通り。このネックレスが発見された時点で、捜査は一度打ち切りになったそうだ。殺し屋による殺人事件には、専門の捜査官たちを招集する必要があるからね」


 新一は優樹菜の目を見つめて言った。


「えっ、でもさ、社長」


 葵が片手を上げた。


「それなら、どうして、あたしたちに依頼が来たの?その、専門の捜査官さんが集まらなかったから、とか?」


「理由は、いくつかあるみたいだよ」


 新一は資料に目を落とした。


「一つに、東署には、殺し屋を専門に扱う部署がなく、捜査が難航すると考えられたこと。もう一つに、特別組織対策室のお二人が、その事件に関与する許可が下りなかったこと」


「そして」と、新一は、僅かに、目の色を変えた。


「今回の依頼者が、君たち───“ASSASSIN”に、絶大な信頼を置いていること」


 室内に、沈黙が訪れた。


 蒼太はメンバーの様子を伺ったが、誰とも目が合わすことができなかった。


「───それでね」


 口を開いた新一の声は、柔らかいものに戻っていた。


「君たちに今回お願いしたいのは、“捜査指揮”というものなんだ」


(指揮……?)


 蒼太が首を傾けた直後、「えっ……?」と、優樹菜が眉をひそめた。


「私たちが……警察を動かすってことですか?」


「簡単に言うとそうだね」


 新一の答に、今度は、葵が「えっ!?」と声を上げた。


「そんなこと、していいんですか……?」


 目と口を大きく開いた葵の考えを代弁するように、優樹菜が問いかけた。


「大丈夫だよ」


 新一は微笑んだ。


「私が、提案したことなんだ」


 君たちが実際に現場に行くことはない。資料やデータを元に、担当刑事さんの手助けをしてほしい───そう、新一は言った。


(手助け……)


 蒼太は、その言葉をゆっくりと咀嚼した。


(全然……何をするのか想像できないけど……誰かの役に立てるんだったら……)


 やるべきだ。やりたい───と、蒼太は思った。


「と、まあ」


 新一は、メンバー6人を見回して言った。


「現段階での説明は、こんなところかな」


 新一と目が合ったタイミングで、蒼太は、小さく頷いた。


「優樹菜ちゃん」


 蒼太の反対側にいる優樹菜を捉えて、新一の目の動きは止まった。


「この後、少しいいかい?社長室に来てもらいたいんだけど」


 その誘いに、優樹菜が僅かに驚いたような目をしたことが、蒼太には分かった。


 そして、その黄色い瞳が動き、自分の前を通り過ぎて止まるのを見た。


 優樹菜の視線の先には、勇人がいた。


 勇人の目も又、優樹菜を捉えていた。


「何だよ」


 端的な言葉が、部屋に響く。


「……別に」


 数秒経って、優樹菜は言った。


「───何でもない」


 そう首を振った優樹菜の目は、新一に向かって動いた。


「分かりました」


 優樹菜はそう言って立ち上がった。


 そして、新一の後に次いで部屋を出て行く時───優樹菜は振り返った。


「みんな、私のこと待ってなくていいから、先、帰ってて?」


 ※


「社長」


 優樹菜は向かい合った瞬間に呼びかけた。


「今回の依頼者って、そんなに厄介な人間なんですか?」


「厄介……、そうだね」


 新一は言った。


「私は“HCO”時代からの付き合いになるけれど、未だに分かり合うことができていない。きっと、これからも、その可能性は、薄いかな」


 優樹菜はそれを聞いて、眉をひそめずにはいられなかった。


(社長がそう表現するって……相当な非道人ってこと……?)


 そんな人間の元で働きたいとは思わない──優樹菜は新一が言っていた通り、依頼主のための仕事はしないと心に決めた。


「それでね、優樹菜ちゃん」


 新一はそう言いながら、テーブルに一枚のメモ用紙を置いた。


「今回の依頼解決にあたって、班を作りたいんだ」


「班……?基本班以外のってことですか?」


 新一は「そう」と、頷いた。


「3人班を2つ───君に作ってもらいたいんだ」


(つまり……)


 優樹菜は差し出されたメモ用紙を見つめた。

 そこには、自分を含めたメンバー6人の名が書かれている。


(6人を、2つに分けるってこと……?)


「私が決めるより、普段のみんなのことを見ている君が決めてくれた方がいいんじゃないかと思うんだ」


 見つめた新一の目は、穏やかな色を帯びていた。


 優樹菜は、6つの名前を見つめた。


「何か……懐かしいですね」


 頭に浮かんだのは、以前に、こうして新一と向かい合った時の光景だった。


「基本班とメンバー、こうやって決めましたよね」


「そうだね」


 新一は「懐かしいね」と笑った。 


 あの時は4つだった名前の並びに、蒼太と光の名前増えた。


(3人ずつ……か)


 優樹菜はそれを考えると、「少ない」と感じる自分に気が付いた。それは、それだけ、班員同士のコミュニケーションが頻繁に行われる必要があることを意味している。


(だとしたら、話を進めて、まとめる人がいた方がいいか……)


 優樹菜はメモ用紙の左端に自分の名を書いた。


(もう一人……)


 優樹菜は5人の名前を見つめた。


「優樹菜ちゃん」


 呼ばれて視線を上げると、新一に笑顔を向けられた。


「なんですか……?」


「そんなに思い詰めなくてもいいんだよ」


 そう言われて、優樹菜は「あっ……」と思った。


 どうやら無意識に、険しい表情を浮かべてしまっていたらしい。


「そうだね」


 新一は言った。


「バランスを考えるというのは、難しいことだよね」


 優樹菜は「はい……」と頷いた。まだ考え始めたばかりだが、そう簡単には決まらない───そんな気が、既にしていた。


「私が昔、上司に教わったことなんだけど」


 そう言った新一の目は、6人の名に向いていた。


「班を決める上で大事なことは、敢えて、"バラバラ"にすること」


「"バラバラ"……?」


「うん」


 新一は頷いた。


「似た者同士を集めた方が、作業がスムーズに進んだり、それぞれが意見を出しやすいような気がする───実際、そうなんだけど、それだと、いずれ、停滞が訪れてしまうんだ」


「同じような意見ばかり出てしまうから……ですか?」


「そう、その通り」


 新一は、にこりとした。


「一人一人、価値観や考え方が違う三人が集まったら、それだけ、見つかるものは多くなる」


 それを、君たちに感じてもらいたんだ───そう、新一は言った。


 優樹菜は頭の中で、もう一度、新一の言葉を繰り返した。


 見つめた6人の名前は───先程までと、違う色に見えた。


 優樹菜は、ペンを握った。

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