September Story3
元”HCO”のメンバー、田所翔子のもとに、届いた電話の内容は、”ASSASSIN”に捜査協力をしてほしいという依頼だった。
「だから、全部全部、あのクソじじいのせいなんですよ」
その言葉に、田所 翔子は溜息を吐いた。
「何、子どもみたいな言い方をしているの……。言葉遣いに気を付けなさい。どこで誰に聴かれているか分からないという意識を持ちなさい。昔教えたでしょう?」
「ですけど、班長」
中野舞香は、怒りが収まらない様子だった。
「こんな言葉遣いになっても仕方ないくらいのことをしやがったんですよ」
「……それは、私も同意する」
翔子はもう一度息を吐きだし、前髪をかき上げた。
「だけどね、糸川」
呼びかけると、舞香は、口を噤んだ。
「全てを望む形で行うには、何かを犠牲にする必要がある。けれど、そうすれば、"ASSASSIN"の子たちに、何らかの被害が及ぶ可能性がある。───分かるでしょう?」
問いかけると、舞香が頷いた気配があり、その後で、「……はい」という静かな返事があった。
「それを防ぐためには、“より最善の策”を考えて実行する必要がある。源くんの考えは、それに当てはまると、私は思う」
僅かな間の後、「そうですね……」と、舞香は言った。
「あなたが怒る理由も、十分に分かるけれど、それをあまり外に向けるべきではないわ。その感情は、自分の中に留めて、原動力に変えていきなさい」
「はい───わかりました」
翔子はそれを聞いて、「相変わらず……」と、心の中で呟いた。
(素直すぎる子……)
かつての部下であった彼女は、今も変わらず、あの、糸川舞香のままだ。
「まあ、あなたのことは、あまり心配しないわ」
翔子は、ふっと表情を緩めた。
「冷静に見えて、内心で神妙に考えがちなのはもう一人の方だからね。矢橋に、伝えてくれる?私に任せておきなさいって」
そう告げると、「はい」と、明るい声が返って来た。
「班長、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく───と、これは、“ASSASSIN”のみんなにも、伝えて」
「わかりました」という溌溂とした声で、電話は終わった。
翔子は廊下からデスクへと戻り、届いたばかりの資料を手に取った。
一昨日、この町で起こった事件───捜査で浮上したのは、殺し屋による犯行の可能性だった。
担当外ではあったが、元“HCO”のメンバーとして、今後、助言を求められることがあるかもしれない───そう思っていた矢先、舞香から連絡が届いた。
「じじいがまた余計なことして」
開口早々、舞香はそう言った。
「捜査を“ASSASSIN”に任せろって言って来たんですよ」
翔子はそれを聞いて、驚きはしなかった。
いかにも、飯岡茂がやりそうなことだと思った。
しかし───その後の、源新一が飯岡に提案したものを耳にした時は、驚きを隠せなかった。
「つまり……私が、“ASSASSIN”の指揮の元、捜査を行うということ?」
そう問いかけた後、舞香は言った。
「だから、全部全部、あのクソじじいのせいなんですよ」
(“ASSASSIN……)
資料を見つめながら、翔子は今後のことを思った。
(能力者の子ども6人で構成された組織……)
その中には、かつての同僚の子どもたちがいる。
彼らの指揮に対し、自分はどのような気持ちで向き合っていけばいいのだろうか───翔子は、そんなことを考えながら、資料を捲った。
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