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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
123/342

September Story2

蒼太の前に、謎めいた少女が現れる───。

 蒼太は、並木道を歩いていた。


 9月に入り、日に日に過ごしやすくなっていく気候に誘われ、休日の今日、目的もなく散歩にやって来たのだ。


 この町に戻って来て早5ヶ月。それでもまだ、蒼太が知らない場所は多くある。この並木道も、その一つだった。


(まだ、葉っぱは青い……)


 頭上を見上げながら、蒼太は思った。


(この木は……)


 立ち止まって、じっと枝に付いた葉を見つめた。


(やっぱり、紅葉だ)


 来月になれば、この場所は紅葉で満開になるかもしれない───そう思うと、胸が高鳴った。


(その頃に、もう一回来てみて、写真撮ろう)


 そうして、絵にしてみよう───。


 せっかくだからと、蒼太はカメラを取り出し、今年最後になるかもしれない緑の葉を、写真に残しておくことにした。


 レンズを向け、画面越しに風で揺れる紅葉の葉を見つめた時───。


 “どうして、葉っぱは”青い“って言うんだろうね”


 不意に、声が蘇った。


 蒼太は、はっと、カメラを下ろした。


 “青くないのに、緑なのに。緑だねって言うよりも、言いやすいからかな。それとも、秋になったら赤くなるから、それの反対で、青なのかな”


「日本語って面白いよね」───そう言った笑顔が、蒼太の頭に浮かんで、消えた。


「兄ちゃん……」


 蒼太は、呟いた。


 聴こえてきたのは、昔の、勇人の言葉だった。


 勇人は会話の中で、小さな疑問のようなものを話すことがあった。


 蒼太はそれを聞くのが好きだった。


 自分の中に思いつかないようなことを見つけ、考え、言葉にする兄の姿が好きだった。


(どうして……“青い”って言うんだろう……)


 蒼太は、紅葉の葉を見つめた。


 分からない───。


 蒼太は無意識に、前方に視線を向けた。


 そして、びくりと肩を揺らした。


 そこに───道の先に、人が立っていた。


 高校生くらいの、少女だった。


 黄緑色のパーカーに、制服のような、黒いスカートを履いている。


 驚くべきは、その髪色だ。


 白と黄緑と桃色が混ざったような、言葉で形容できないようなコントラストが、秋の日差しに照らされて幻想的に光っている。


 少女は、蒼太を見つめていた。


 蒼太が見開いた目で見つめ返すと───少女は、ふっと微笑んだ。


「植物、好きなの?」


 綺麗な声だった。


 蒼太は「え……?」と、動揺した。


「植物、好きなの?」


 少女は同じ質問を繰り返した。


「えっ……、ええと……」


 蒼太は目を泳がせながら、ぎこちない動作で頷いた。


「そうなんだ」


 少女は微笑したまま、歩き出した。


「植物は、いいよね」


 蒼太と1mほどの距離で、少女は立ち止まった。


「ただそこにあるように見えて、でも、ちゃんと息をしている。生きようとしている。私たちを生かしてくれている」


 そう言って、少女は蒼太が見つめていた木の幹に手を触れた。


「なのに、私たちは、私たち人間は、彼らを殺す。平気な顔をして、当然のように思って、罪悪感何て微塵も感じずに。それって、何よりの重罪」


 すっと、少女が蒼太を向いた。


「そう思わない?」


 その瞳は、髪と同じ、幻想的な色を帯びていた。


 蒼太は、その瞳に吸い込まれるような感覚を味わった。


 目を逸らすことができず、頷くことを忘れ、自分はここで何をしていたのか───そんなことを思った。


「大丈夫?」


 そう問われ、蒼太は、はっとした。


「あっ……すっ、すみません……」


 あたふたと頭を下げると、少女は幹から手を離し、くるりと、身を翻した。


「どうして」


 少女は言った。


「“葉は青い”って言うんだろうね」


 蒼太は見開いた目を、少女に向けた。


 少女は謎めいた微笑を蒼太に向けると、背を向けて歩き出した。


 細い───蒼太の手でも包めそうなほどの、真っ白な足が揺れて行った。

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