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”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第6章
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September Story1

"ASSASSIN"の正体を探ろうとするかのような依頼を寄越す飯岡に対し、新一は───?

「すみません」


 声をかけて近付くと、カウンターの奥の女性は、顔を上げた。


「刑事課の、矢橋さん───矢橋亮助さんに用事があって参りました」


 女性は首を小さく傾け、「失礼ですが……」と戸惑いの表情を浮かべた。


「ああ、申し訳ない」


 新一は片手を上げた。


 先に名乗るべきだったかと、ベストの中を探った。


「こういう者です」


 証明証を差し出すと、女性は、目を丸くした。


「悪いな、呼び出して」


 特別組織対策室で顔を合わせると、亮助は言った。


「いえ」


 新一は首を振り、室内を見回した。


「舞香さんは、外ですか?」


 問いかけると、亮助は「どこに行ったんだかな」と答えた。


 そして、机の上にあった紙の束をを手に取り、新一の元にやって来た。


「あいつが行き場も言わずに飛び出すような依頼が来た」


 その言葉とともに差し出された資料を、新一は受け取った。


「事件捜査?」


 新一は耳を疑った。


 対し、亮助は「ああ」と頷いた。


 新一は腕を組み、資料をもう一度上から読み直した。


「たしかに……これは殺し屋が関わっていたとして納得が行きますが」


 新一は目を上げた。


「これがどうして、"ASSASSIN"に任せようという話になったんでしょうか」


「飯岡の考えることだ。当然のように、まかりが通っていない」


 亮助はそう言って、息を吐き出した。


「何度言葉で説明しようと、奴は聞く耳を持たない。"ASSASSIN"は捜査を専門とした組織ではない───そう語るのは、お前たちの都合だろうと言い出す始末だ」


 亮助はそこで「俺が思うには」と、資料に目を向けた。


「捜査をするということは、必然的に現場に向かうということになる。それを利用して、奴は"ASSASSIN"の正体を知ろうとしている───そんな気がしてならない」


 新一は「そうですね……」と言葉を返した。


 飯岡茂───彼の考え方として、納得がいきすぎる。


 ドアが勢いよく開いた音に、新一は振り返った。


「舞香さん」


 呼びかけると、中野舞香は険しい表情のまま歩いてきた。その手にはスマートフォンが握られている。


「源くん」


 舞香は立ち止まると、じっと新一の目を見据えた。


「じじいが、会って直接話したいって」


 新一は、ふっと肩を下ろすと、穏やかな目を作って頷いた。


 ※


「お久しぶりです」


 頭を上げて目を合わせると、数年前と変わらない、飯岡茂の姿がそこにあった。


「順調か?」


 飯岡は開口早々、そう問いかけてきた。


 新一は「さあ」と肩をすくめて笑みを返した。


「それは、そちらが決められることではないでしょか」


 飯岡はスッと音を鳴らした。


「相変わらず、調子の良い奴だな」


 面会の誘いを受けてから2時間後。飯岡茂は北山にやって来た(暇だからすぐに来れるのだと舞香が毒づいていた)。


 北山警察署2階の応接室───そこで、2人は今こうして向かい合っている。


「早速、本題に入るとしよう」


 飯岡は、一つ、咳払いをした。


「事件の概要は、把握しているな?」


「はい。先程、資料を拝見しました」


 膝の上で手を組んでいる飯岡は掬う様に新一を見つめ、「どうだ?」と言った。


「どうだ、というのは?」


「恍けるな」


 唐突に飯岡の目と声が鋭くなった。


「受ける気はあるかと訊いているんだ」


 新一は「ああ」と頷き、


「───いえ」


 ゆるりと、首を横に振った。


「お断りさせていただきます」


 丁寧な動作で頭を下げ、ゆっくりと起こすと、飯岡茂の、険しすぎる瞳が待ち構えていた。


「今、自分が何を言っているか、分かっているのか」


「ええ。十分、理解しているつもりです」


 新一は飯岡に微笑を返した。


「“ASSASSIN”に、今回の事件を任せるつもりはありません」


 飯岡が何かを言い出す前に、新一は「彼らは」と先手を打った。


「以前にも申し上げました通り、捜査を専門とした組織ではありません。殺し屋を確保すること───それこそが、彼らの活動の真髄です。そのために、"捜査"という一点に関しては、特別組織対策室の、お二人の力をお借りしている所存です」


「奴らは信用ならん」


 飯岡の語気が強くなった。


「特に今回のような、重大かつ特殊な事件を任せてたまるか。いいか、源」


 息を切らすように、飯岡はまくしたてた。


「私は“ASSASSIN”を他の誰よりも信頼している。それでこそのこれだ。真髄が何だ。警察が取り扱えない事件を解決し、更なる英雄になるチャンスだぞ。それを掴まない理由がどこにあると言うんだ」


「───彼らは、英雄になりたいなどと思っていませんよ?」


 新一は飯岡の苛立ちを帯びた瞳を真っ直ぐに見据えた。


 すると、飯岡は不意をくらったように、言葉を詰まらせた。


 新一は、ふっと表情を緩め、「失礼」と片手を上げた。


「当初の契約通り、私から“ASSASSIN”について話せることは多くありません。ただ、言えることは、彼らは評価や利益を求めて活動しているわけではない───ということです」


 飯岡は新一の耳にもはっきりと届くほどの音で鼻から息を吐きだし、不機嫌さを隠そうとしない目をテーブルの端に向けた。


 それにより、室内に張り詰めた沈黙が流れることになった。


 真横に飾られたアンティーク時計の針の音を何度か聞いた後、新一は「飯岡さん」と呼びかけた。


「私に一つ、考えがあります」


 新一は思った。このまま、“ASSASSIN”は捜査を請け負わないと言い続けても、飯岡は納得しない。あの手この手を使い、新一が引くまで帰らないだろう。


 ───ならば、彼が納得せざるを得ない方法を、提出するまでだ。


「“ASSASSIN”に、昔の私の役目を任せてはくれないでしょうか」


 飯岡は目を開き、「それは……」と言葉を発した。


 新一は「はい」と頷いた。


「今回の事件の捜査指揮を、“ASSASSIN”が担当する───いかがですか?」

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