August Story21
少しずつ、花園君恵への死の真相に近付くメンバーたちだったが───。
「……本当だ」
優樹菜が、声を上げた。
「奈穂ちゃんのおばあちゃん───花園君江さんの名前が出てる」
「よかったね!優樹菜!」
葵が、すかさず笑顔を向けた。
「これで、捜査進むよ!」
優樹菜は「うん」と、頷いた。その目には、深い安堵が浮かんでいた。
「後は、どのくらいのことが載ってるか、ですね」
翼が言った。
蒼太はその言葉を聞いて、パソコンの画面を見つめた。資料に足りない部分は、調べる───この先の行動が見えた気がした。
そして、ふと、横を向いた。
「あれ……?」
見回してみても、姿が見当たらない。
(兄ちゃん……?いつの間に……)
4人は、まだ気付いていないようだった。
優樹菜は資料を机に置き、蛍光マーカーペンを手に取った。
「“8月22日、未明。南川町在住の、花園君江さん、87歳のご遺体が見つかりました”」
優樹菜がキャップの先でなぞった文字を、蒼太は目で追った。どうやら、これは、新一宛のメールのようだ。
「“死因は、毒死”」
蒼太は葵と視線を交わし合った。葵も蒼太と同じで、目を見開いていた。
優樹菜はペンのキャップを外し、次に続く文字を色でなぞった。
「“毒物はご遺体の近くのテーブル上に転がっていました。成分を調べた結果、殺し屋の多くが殺人を行う際に用いるとされる、”ネイ・クロー“であることが判明しました”」
そこで優樹菜は手の動きと、声を止めた。
「……ここで、文章は終わってる」
蒼太は資料を覗き込んだ。
優樹菜が記を付けた文章の下に、写真が載っていた。
茶色い瓶───錠剤が入れる容器のような形状をしている。中には液体が入っているようだ。
(これが……、“ネイ・クロー”……)
殺し屋が用いるとされる毒物───。
「殺し屋が関わった可能性が、高くなりましたね」
翼の言葉に、優樹菜は頷いて、顔を上げた。
「データベースには、もう少し詳しく載ってるかもしれない。翼くん、お願いできる?」
優樹菜が問いかけると、翼は「はい」と答えた。
「……2年前、8月22日」
翼が声に出したままの言葉を打ち込むのを、蒼太は見た。
「……それらしいものは、見当たらないですね」
そう言った直後、翼は、「もっと細かく打ってみます」と、「南川町 毒物」と付け足し、エンターキーを押した。
「あっ」
翼が声を上げた。
「出ました」
「本当?」
優樹菜が、身を乗り出す。
(本当だ……)
蒼太は画面を見つめた。
“南川町 花園君江さん(87歳) 毒死”───そう、表示されたページが浮かんでいる。
翼がマウスを動かし、クリックを押した。
「えっ……?」
優樹菜が声を漏らした。
「エラー……?」
切り替わったのは、“このページは存在していません”という、赤い文字だった。
「もしかしたら」
翼が、静かに、口を開く。
「消されたのかもしれない、ですね」
その言葉に、室内に、静寂がながれることになった。
「……警察は、この事件を、隠蔽しようとした……?」
光がぽつりと放った言葉に、優樹菜がはっとしたような目をしたのを、蒼太は見た。
「だとすると、さっきの社長の話にも、納得がいきますね」
そう優樹菜を見た翼も、その表情の変化に気が付いたようだ。「ゆきさん?」の呼びかけに、優樹菜は「やっぱり……」と声を発した。
「お母さんが、言ってたの。この事件には……何か裏があるって」
蒼太は「裏……?」と、その言葉を繰り返した。
「じゃあ、この他には、何も残ってないってこと……?」
葵が“心配”の色を瞳に浮かべて言った。その手は、資料に触れている。
「それは……」
優樹菜は言葉を詰まらせ、「分からないけど……」と、呟くような声量で言った。
蒼太は、パソコンの画面を見つめた。
消された情報───これを暴く方法は、何か、あるだろうか。
(ようやく進めると思ったのに……また、壁に当たっちゃった……)
まるで、振り出しに戻ってしまったような気持ちになった蒼太は、「みんなもそうかな……?」と、視線を上げた。
そして、「えっ……?」と、驚いた。
何かに思い当たったような、そんな光を瞳に宿したメンバーがいた───優樹菜だった。
「ねえ」
優樹菜は言った。その口調は、力強かった。
「この、毒を作った奴のこと、調べられないかな?」
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