表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
”ASSASSIN”—異能組織暗殺者取締部—  作者: 深園青葉
第1章
11/331

April Story7

兄との再会の後、蒼太を待ち受けていたのは、予想打にしない悲劇だった───。

 帰り道を迷うことは無く、蒼太は来た道を思い出しながら俯きがちで歩いた。


 考えるのは勇人のことで、考えすぎて嫌になりそうだった。


(兄ちゃんは……、ぼくがぼくだって気付いたのかな……?)


「気付かなかった」であってほしい、と蒼太は思った。


 気付かないで、あの場を去ったのだと。


(それか、兄ちゃんは、ぼくのこと忘れちゃってるとか……)


 そうだとしたら、悲しいが、気付かれていて立ち去ったというよりかは良い気がした。


(実際、ぼくも兄ちゃんのこと忘れちゃってたし……。そういう可能性だって……)


 どうにかして、自分の考えを肯定的に考えないといけないような気が、蒼太にはした。


 古い木造の家が並ぶ道を進む。この道を抜けると、家のすぐ近くに出る。


(後少しで新聞屋さんだから……、家に着くのは……3時くらいかな?)


 携帯で時刻を確認する。


 2時間前、海に向かって歩いていたのが遠い昔のように思えた。


(あれ……?この辺って、ほとんど空き家なのかな……?)


 蒼太は建っている家々がどれも人の住んでいる気配がないことに気が付いた。行きの際は地図の画面に集中していて気にしていなかったが、見渡すと、窓が割れている家や、屋根が半分崩れている家がある。


 それを見ていると、例のビル群が頭に浮かんだ。




「キャアッッー-!!」




 という女性の悲鳴が聞こえてきたのは、その時だった。


 蒼太が聞いたことがないような、凄まじい悲鳴だった。


 ビクリとして、蒼太は立ち止まった。


「たすけて!!だれか!」


 その声はすぐ近くからした。


 蒼太は辺りを忙しなく見渡しながら、「どうしよう……!」と、声を上げる。周りに人の気配はない。 


(でも……、助けなきゃ……)


 自分一人の力でどうにかできるか分からないが、無視をしてこの場を立ち去ることはできない。


 蒼太は声がした方に向かった。


 そこは、家と家の間の狭い路地だった。


 その奥からは、女性の泣き声がしていた。


 蒼太は急いでその路地を進んだ。心臓が嫌な音を立てる。


 やがて、影がなくなり、暗くて見えなかった奥の様子が露になった。


 蒼太は、その光景を見た瞬間、息が止まり、足が動かなくなった。



 血だらけの女性が仰向けになって倒れている。



 女性の前には大柄な男性が立っていた。


 蒼太に背を向けているが、その手には血が付いたナイフが握られていた。


 女性は泣きながら「やめて……!死にたくない…!」と、懇願している。


 やってきた蒼太の姿は見えていないようだった。


 蒼太は恐怖と衝撃で、その場に立ち尽くすことしかできない。


「おねがい!なんでもするから!!殺さないで!!」


 悲鳴混じりの、声はいつか、蒼太が刑事ドラマの場面で聞いたことがある台詞だったが、蒼太はこれが現実であることを、それを聞いた瞬間に、恐ろしいほどに実感した。


 女性の懇願が届くことは無かった。


 高く振り上げられたナイフは女性の胸元を直撃した。


 血がまわりの家の壁に飛び散り、女性の声は聞こえなくなった。


 蒼太は声にならない声を発しながら、ガタガタと震える足を、動かそうとする。


(にげ……、なきゃ……、逃げなきゃ、にげなきゃ……)


 浮かぶ言葉はそれだけだった。


 男は自分に気付いていない。


 この路地を抜けて、後は全速力で走れば家に帰ることができる───そう思って、足を動かそうとした時、


「子供か」


 と、男が声を発した。


 蒼太は背筋に、心臓が止まるほど凄まじい悪寒が走るのを感じた。途端に、身体と呼吸が止まった。


「こいつが叫びだすから余計な仕事増えちまった。おい、そこのガキ、動くんじゃねえぞ」


 男は振り向きもせずにそういった。


 手には───血のついたナイフが握られたままだ。


「楽に、殺してやるからよ」


 そこで男が振り返った。


 爛れた唇がにやりと歪んでいた。


(殺される……!)


 蒼太の恐怖が最高潮に達した時、



「───おりゃあっ!」



 聞き覚えのある声が、した。


 男の顔が後ろに吹っ飛ぶ。


 空中蹴りを男にくらわせたその少女は、突如として現れた。


 まるで瞬間移動のように───。


「うそ……。遅かったんだ……」


 地面に降り立った少女は女性の死体を見て、そう、呟いた。


 男はその死体の前で横になって倒れている。


 青色のおさげを揺らして少女が、蒼太を振り返る。


「……って、蒼太くん!?大丈夫!?」


 その少女は───中野葵だった。


 蒼太はその顔を見て、息を震わせた。


 足の力が抜け、その場に座り込む。


「あれ?君、さっきの……」


 頭上からかかった声に顔を上げると、そこにいたのは、あのビル街で蒼太を出口まで案内してくれた少年だった。


「え!(つばさ)がさっき会ったのって蒼太くんだったの!?」


「てことは、あおちゃんのクラスに転校してきた子?……あ、それより、大丈夫?立てる?」


「……あ……」


「大丈夫です」と答えようとするも声が出なかった。


 それに、足に力が入らなくて立つことができない。


 それを見た葵が蒼太の肩を支えてくれた。


「怪我とかない?」


 葵が心配そうに蒼太の顔を覗き込んできた。


「ぼ……、ぼくは大丈夫……」


 蒼太は震える声で答えた。


「とりあえず、場所、移そうか。後は警察に任せて」


 少年が言った。


「どうしよう、本拠地戻る?」


「その子が大丈夫だったら、一緒に来てもらいたいけど」


「ああ……、そうだよね……」


 葵が悲しそうに答え、


「蒼太くん、ごめん。ちょっと着いて来てもらってもいい?」


 蒼太はその問いにゆっくりと頷いた。頭が混乱していて深く考えることができない。


「大丈夫だよ、あおちゃん。ちゃんと話せば、分かってもらえるから」


 少年が暗い顔になった葵を励ますように言う。


「うん……。じゃあ、蒼太くん。あたしの能力で、行きたいところまで行くね」


 葵がそういった直後に、蒼太の視界がぐわりと歪み、「やっぱり瞬間移動なんだ」と、蒼太が気付いた所は、路地ではなく、あのビル群の前だった。

よろしければ、ご評価・ブックマーク登録、感想など、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ