与えるもの
天使
「もう100日間も声を出していないのよ?そのギフトを他の人の為に役立てない?」
小さな公園のベンチで寝泊まりしている私に青白い光で纏われた生物がこう言った。私は幻覚でも見てるのかと思い、また目を瞑る。
「もちろんただでとは言わないわ。代わりに貴方が欲しているものをあげるわ。これで考える気になったでしょう?」
欲しいもの?今はとりあえず光が眩しいなぁ。これを凌げる住めるような所があれば……
「住居ね。それならピッタリのところを用意してあげるわ」
そう言って青白い光とともに去っていった。
目を開けるとそこは小さな書斎だった。昔に小説家を志していたからだろうか。夢じゃなかったならもっといっぱい条件をつけるんだったと後悔に呑まれる。まぁ本を書くには丁度いいかなと思い、10年以上も凍っていたペンを動かす。
執筆活動は想像以上に難航した。上京したての若い頃とは理由が違う。常人には詰めないような経験もさせて貰ったが、言葉が上手い具合に出てこない。頭を悩ませて何日も経過した時、再び青白い光が現れてこう言った。
「ねぇ、もう100日間も歩いてないじゃない。そのギフトを他の人の為に役立てない?」
「いやいや、いくら歩いていないからと言って足を失う理由にはならないだろう」
「だって病院に歩けない子がいるの。その子の夢はサッカー選手だったって言うの。応援してあげたいじゃない……
それと今なら文豪の才能が余ってるわよ。喉から手が出るほど欲しいんでしょ」
なんて難しい問題をふっかけてくるんだ。確かに才能があれば、この先の人生を有意義なものに出来るかもしれない。ただこの先、足が地面に着くことは無いと考えると……
「悩んでるのね。それならどっちに転んでも後悔するわよ。やらない後悔よりやった後悔よ。もう決定ね。それっ――」
そう言うと私は青白い光に包まれ、眠気に襲われた。
最初のうちは車椅子になり、文章を全く出てこないことから文句をいうばかりだったが、一瞬閃いてからは頭の中に電流が走るような感覚を覚え、ペンを進める。
一心不乱に書き続け、何作も物語を書いた時に壁にぶち当たった。この話達は世の中に出回ることはないのだと。満足に使い慣れていない車椅子で応募出来たとしても、私は声が出せない。コミュニケーションが取れない。考えれば考えるほど虚しく、その虚しさですら物語の糧になると考えてしまう思考を嫌った。無気力で何も持たない日々が続いた。すると突然青白い光がやってきてこう言った。
「もう100日間もペンを握って居ないのよ」