51,許可を貰いに行きました
後半は、三人称視点とアルフレッド視点とアリアーヌ視点が混ざっています。
「お父様」
「ん? 何だ?」
流石に、無断で『冒険者見習い登録』をする訳にはいかないしね。
貴族の子供として、当主の許可を貰わなければならない!
「今度、冒険者ギルドで、冒険者見習い登録をしたいのですが……ご許可を頂けないでしょうか?」
父さんも、母さんも、冒険者だったのなら、きっと許可してくれるはず!
「うーん……」
でも、予想とは裏腹に、父さんは渋った。
何故?
「貴族の子供が、ドブ掃除はちょっと……それに……」
うん。言いたいことは分かった。
仮にも、貴族の俺がドブ掃除なんかしたら、社交界の笑いもの、間違いなしだ。
ただでさえ、うちは評判が悪いのに。
「分かりました。(ここは一旦)失礼します」
さて、どうしよっかな?
俺も、簡単に当主に従う訳にもいかないんだよね。
どうにかして、説得しなければ!
俺の夢ーーーー
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇ、アル」
「なんだい、アリア?」
ディナーの後、アルフレッドとアリアーヌは、アルフレッドの執務室で、紅茶を飲んでいた。
普段は、由緒正しきエルメント辺境伯家の当主と、由緒正しきエルメント辺境伯家の奥方。そんな忙しい二人がゆっくりと話す時間なんて、無い。
でも、ディナーの後は特別だ。
二人で月を見ながらお茶を飲む。
その時だけ、二人の周りには、穏やかでゆっくりとした時間が流れる。
密かな二人の、心から待ちわびる時間だった。
「今日ね、レオンからね、『冒険者見習い登録の許可を頂けない』という話を聞いたの。本当?」
「ああ。本当だとも。レオンには可哀想なことをしたが、許可できない。貴族として、冒険者見習いにさせる訳にはいかないんだ」
アルフレッドとアリアーヌ、二人だけの特別な時間。
そんな時間に、レオンの名が出てくることに、アルフレッドは少し嫉妬した。
我が子に嫉妬するなんて……
レオンはまだ10歳だ。大人気ない。
父親、失格だな。
「それは、貴族として、家の名に傷が付かないようにするため? それか、レオンが怪我をしないため? それとも……ギルドの最下層の扱いを知っているから?」
ああ、本当にアリアは、凄い。私の本心までも見透かしてくる。
「全部だよ、アリア。全部なんだ。私は……俺は知っている。冒険者見習いの扱いを! あれは、人を人として見ていない。暴力は日常茶飯事。弱肉強食の世界。平気で強い者は、弱い者をいたぶる。守ろうとしない。一日中働いても、報酬は平民の食事一食分もない。レオンは……ギルドを理想の地としている。あの、キラキラと輝く瞳が、ギルドの『闇』を知ってくすまないか、心配なんだ。かつて、俺がギルドで経験したように」
「アル……」
アリアーヌは知っている。
ずっと昔、まだアリアーヌとアルフレッドが出会う前のこと。
冒険者見習い登録をしに行ったアルフレッドが見た光景。
冒険者が見習いという理由だけで、人を殴る瞬間。
その時、アルフレッドの心の中にあった『冒険者ギルド』は、音をたてて崩れた。
まさに、アルフレッドの経験そのままの道を、レオンが進もうとしている。
アルフレッドが許可しないのも、無理は無いことだった。
「レオンのため。全部、レオンの為なんだ。分かってくれ、アリア、レオン……」
アルフレッドの悲痛な叫びが、木霊する。
「アル……それなら、闇が無いギルドに行けばいいのよ。そこを拠点として活動すれば……?」
「そんなギルドが有る訳がない……待てよ。一つだけある。一つだけ有るぞ!」
王都の冒険者ギルドが。
次の投稿は11月28日です。




