閑話1 メリルの、とある1日 後編
レオン様といえば……2年前に、エルメント邸に襲撃がありました。私も、エルメント家の執事・メイドで組織される『暗闇』の一員として、掃除を行っていました。しかし、私達『暗闇』は、重大なミスを犯しました。マニュアル通りに行っていたはずなのに……
エルメント家の使用人の数は、他の貴族家に比べて、遥かに少ないのです。理由はいくつか有りますが……
1,間者が紛れる確率を少なくするため。
2,孤児以外は、基本的に雇わないため。
3,人数が少ない方が、統率をとりやすいから。
4,エルメント家の内部の情報を知る人を少なくするため。
が、主な理由となっています。
私も、孤児でした。
育てて頂いた神父様によると、雨の日に教会の前に捨てられていたそうです。そこから、15歳になり、成人するまで教会のお隣にある孤児院で育ちました。親がいないので、継ぐ物も、コネがある訳も無く、就職先に困っていたところを辺境伯様に拾って頂きました。仕事を覚え、『暗闇』に(強制)入隊し、日々を仕事と訓練で終える。そんな日々の中で、レオン様のお世話係という大役を頂いたのにもかかわらず、私は……!
セバス様に言われた通りに、侵入者を生け捕りにしようとしたのに!
おそらくセバス様も、マニュアル通りに、アリアーヌ様に報告をし、アリアーヌ様、レオン様の順に御身をお守りしようとしたのでしょう。
それは正しい選択でもあり、間違った選択でもありました。
マニュアル的には○で、現実的には✕です!
レオン様が方向音痴でいらっしゃるなど、マニュアルには書いてありません!……当たり前ですが。
レオン様がいらっしゃった図書室を出て、右に行くと、角を曲がることもなく奥様の部屋に行くことができるのですが……まさか、レオン様が迷われるとは……
それでも、もっと私に力があれば……!
レオン様を危険に晒す様なことは無かったのに!
私は、剣術よりも魔法が得意なのです! いや、得意さを比で表すと、剣術:魔法=1:10ぐらいなのです! 魔法では『暗闇』一番だと胸を張って言えますが、剣術は……『暗闇』の最下位と言っても過言ではありません。
あの時……レオン様を人質に取られた時、私は魔法を行使しようと思いました。
でも、できなかった!
魔法を行使すれば、侵入者だけではなく、レオン様まで巻き込んでしまいます!
あの時は侵入者の持病が悪化して、倒れてくれて助かりましたが、もし倒れていなかったら……?
考えただけでも恐ろしいです。
あの後、マニュアルが改定されたり、色々な事が有りました……
それはさておき、今は仕事です!
朝食の準備ができたようなので、レオン様を広間にご案内致します。大広間は、1階に有ります!
「レオン様、朝食の準備が整いました。広間に参りましょう。」
「……」
あら?
いつもなら元気なお返事でお応えされるのですが……? 返事がありません。どうなさったのでしょう?
「ご気分が優れないのですか? 直ぐに医者を……」
「メリル!」
????
「はい……?」
「お誕生日、おめでとう!」
えっ…!?
「はい。今日のために、プレゼントを準備したんだ! 部屋に帰ったら、開けてみて!」
「レオン様、私の誕生日を覚えて……」
「うん! 当たり前だよ! 」
「レオン様……ありがとうございます!」
孤児なので、親から「おめでとう」と言われたことがありません。神父様からは、「おめでとう」の一言だけを毎年頂きました。初めて……初めてプレゼントを頂きました!
「ところでメリル、早く広間に行こう?」
「あっ! はい、レオン様!」
「今日の仕事は終了です!」
ちゃんと、ポケットにはレオン様から頂いた箱が入っています。
「開けます!」
何が入っているのでしょうか?
パカッ
「わぁー!」
紙で作られた、四つ葉のクローバーです! 沢山入っています! 紙に、こんな使い方があっただなんて! レオン様は、この使い方をどこで知ったのでしょうか?
そんなことは、どうでも良いです! レオン様からのプレゼント……とっても嬉しいです!
どこかに飾っておきましょう!
次の日から、メリルのメイド服の裾に、透明なファイルの様なものでコーティングされた、四つ葉のクローバーの折り紙が飾られるのだった。
次の投稿は9月17日です。




